( 271086 )  2025/03/01 05:36:38  
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 政権発足後5カ月近くが経ち、石破茂首相の迷走ぶりに辟易とする人々は少なくないだろう。政府・与党は昨年末、野党・国民民主党と「年収103万円の壁」見直しに伴い178万円に引き上げることや、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止で合意したものの、早くも年内実現が絶望視されているのだ。ネットでも「国民をなめている」という声があがる。経済アナリストの佐藤健太氏は「ガソリン価格は高止まりしており、国民生活に大打撃を与えている。石破首相は公党間の合意を反故にするつもりなのか」と厳しい。 

 

「やはりな」という思いがある。与党である自民、公明両党は2月21日、維新の政策責任者と協議し、維新側が主張する高校授業料の無償化などについて協議を続けた。2026年度から就学支援金の上限額を引き上げ、所得制限を撤廃するといった自民党側の譲歩には維新側も前向きな評価を示す。 

 

 衆院で過半数の議席を持たない少数与党は、憲法の規定で自然成立が可能となる3月2日までの衆院通過を求めている。38議席を持つ維新側の協力は喉から手が出るほど欲するもので、石破首相は維新の賛成を取り付けて来年度予算の成立という「第1関門」を突破したい考えだ。 

 

 一方、昨年秋から首相が秋波を送ってきた国民民主党(衆院28議席)との協議は停滞している。同党の「一丁目一番地」と言える年収103万円を超えると所得税がかかる「103万円の壁」引き上げをめぐっては、自民党側から意地悪とも思えるほどの“牛歩戦術”がみられているのだ。 

 

 自民党が2月18日に提示した案は、①年収200万円以下の場合に課税水準を従来の123万円から160万円に引き上げる②年収200万~500万円以下は控除を上乗せし、課税水準は136万円以上とする―というものだった。「178万円」を主張する国民民主党と意見の隔たりが大きいのは当然だ。同党の玉木雄一郎代表(役職停止中)は2月19日の「X」(旧ツイッター)に「対象が低所得者(給与収入200万円相当以下)に限定され、中間層の手取りが増えない。不十分かつ複雑で、とても3党幹事長の合意を満たすものとは言えない」などと反発している。 

 

 

 国民民主党が怒るのは当然だろう。忘れてはならないのは、昨年12月の「合意」の存在だ。与党と国民民主党の幹事長は「103万円の壁」見直しについて「178万円」を目指して2025年から引き上げること、ガソリン税に上乗せされている暫定税率も廃止することで合意した。 

 

 だが、共同通信は2月15日、今年中の暫定税率廃止が「困難の見通し」と配信した。巨額の税収減が見込まれるため、政府・与党内には「代替財源の議論が必要だとして慎重な意見が根強い」としている。実際、同18日に自民党は国民民主側に対し「諸課題の解決策や具体的な実施方法などについて引き続き協議を進める」とするにとどめ、廃止時期は示さなかったという。この報道には、ネット上で「結局、減税するのが嫌なんだな」「そもそも『暫定』だったはずなのに。石破さんは合意を無視する気なのか」といった厳しい声が相次いだ。 

 

 魑魅魍魎が跋扈するともいわれる政界においては、“合意”を反故にすることはよくあることなのかもしれない。調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)改革や大阪都構想の住民投票に関するものなど、のちに反故となった与党と野党の合意は枚挙に暇がない。「だまされる方が悪い」という政治家も中には存在するほどだ。 

 

 ただ、与党と国民民主党の幹事長が昨年12月11日に交わした合意文書には、「いわゆる『103万円の壁』は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる」「いわゆる『ガソリンの暫定税率』は廃止する」と明記されている。与党の税制改正大綱にも盛り込まれた内容を見れば、人々が早期に実施されると思うのは当然だ。石破首相は国民を「バカ」「簡単にだませる」とでも考えているのかと疑問を抱いてしまう。さすがに、国民民主の榛葉賀津也幹事長は2月19日の会見で「3党の幹事長合意は、そんな軽いもんじゃない」と語気を強める。 

 

 ガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)は、1リットルあたりあわせて53.8円が課されている。このうち25.1円が「上乗せ分」だ。1974年に“暫定的”にスタートしたはずだが、なぜか道路財源の確保などを理由に続いてきた。当然、この暫定税率が廃止されれば、1リットルあたりの税金は28.7円にまで縮小する。 

 

 

 資源エネルギー庁が発表した2月17日時点のレギュラーガソリン(店頭現金小売価格)は1リットルあたり184.4円。前週に比べ0.1円下がり、3週連続の値下がりというが、高止まりしている状況に変わりはない。ガソリン価格高騰の背景には、石破政権が2022年1月から石油元売り各社に支給してきた「ガソリン補助金」の縮小を昨年11月に決定したことがあげられる。同12月19日から補助率を見直し、さらに1月16日以降の補助縮小を決めた。 

 

 立憲民主党は「暫定税率廃止」や小中学校の給食費無償化、高校授業料無償化などを予算修正案に盛り込んだ。維新は教育無償化に加え、市販薬で代替可能な薬を公的医療保険の適用外とすることや医療のデジタル化など、社会保険料引き下げ策の早期スタートを予算案賛成の「必要条件」としている。 

 

 主要野党の主張を見れば、少なくとも「教育無償化」や「暫定税率の廃止」は一致することが可能で、それぞれの政党が与党と個別に向き合うのではなく、まとまって政府・与党に修正を迫れば実現することができるのではないか。少数与党のため予算修正を迫ることができる野党にとっては絶好の好機に手を結べないのは残念でならない。国民民主の榛葉幹事長は「年収103万円の壁を178万円に近づけて上げていく。ガソリン減税をする。これを骨抜きにして邪魔したのは、維新さんも責任があることになりますよ」と苛立ちを見せる。 

 

 高知県や長崎県と並び、ガソリン価格が全国トップレベルで高いといわれる長野県では、店頭小売価格を不正に調整していた疑いがあるとして公正取引委員会が2月18日、県石油商業組合(長野市)を立ち入り検査した。値上げ幅などを調整していた独占禁止法違反の疑いがあるという。まったく耳を疑うようなニュースだ。 

 

 コメの平均価格は全国のスーパーで前年同期比1.9倍となり、ティッシュやトイレットペーパーなど家庭紙も4月以降に1割超値上げされる見通しだ。農林水産省によれば、2月は主要野菜15品目のうち11品目が平年より高値で推移する。東京都中央卸売市場の価格動向を見ると、1月27日時点で白菜は平年比304%、キャベツは216%、レタス132%などと野菜の価格も高水準のままだ。 

 

 帝国データバンクによると、2月の飲食料品値上げは1656品目で、前年同月から30品目(1.8%)増加。3月は5カ月ぶりに単月で2000品目を超え、今後も値上げラッシュが続くという。 

 

「(政治家は)どうしてもウケることを言いたがる。税金はまけますわ、福祉は充実しますわ、公共事業やりますわ。国債はいくら出しても、そのうち返せますわみたいな。そういうことになれば世の中、苦労しない」。石破首相は2月17日に高校生と面会した際、このようにボヤいたという。酸いも甘いもあることが「政治」との声もあるかもしれない。だが、国民生活に寄り添わないことをやっているから、政治不信が高まっているのではないだろうか。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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