( 271406 ) 2025/03/02 06:58:09 0 00 高年収者の「厚生年金保険料」引き上げが話題に! 実際「年収798万円」以上の人はどのくらい? 上限見直し案の内容とあわせ解説
厚生年金保険料の上限見直し法案が、2025年の通常国会に提出される見込みです。一部のメディアは「賞与を除く年収798万円以上の会社員の厚生年金保険料が増える」と報道しています。
本記事では、今回の上限見直し案と、「賞与を除く年収798万円」の立ち所、ポジションについて紹介します。
会社員は、自分の厚生年金保険料を会社と折半し、本人負担分を月給・賞与からの天引きで納めています。給与明細を見れば、月給・賞与のおおむね9.15%が厚生年金保険料として天引されていることを確認できるでしょう。「おおむね」と表した理由は次のとおりです。
賞与にかかる厚生年金保険料は、賞与から1000円未満の端数を切り捨てた額に対する9.15%です。かつ、賞与が150万円を超える場合は150万円を上限として計算されます。つまり、賞与が150万円を超えたときの厚生年金保険料は13万7250円が上限です(150万円×9.15%)。
一方、月給(基本給+手当)にかかる厚生年金保険料は、月給を32個のグループ(等級)に区分した「標準報酬月額」に対する9.15%となります。
例えば、残業代などを含めた平均的な月給が「31万円以上33万円未満」の人は、標準報酬月額「32万円」の等級に区分され、厚生年金保険料は残業時間などによって変動せず、32万円×9.15%=2万9280円となります。
また、平均的な月給が「63万5000円以上」の場合の標準報酬月額は「65万円」に固定され、これが標準報酬月額の上限です。つまり、平均的な月給が65万円を超えている期間、月給にかかる厚生年金保険料は5万9475円が上限です(65万円×9.15%)。ちなみに平均的な月給は、原則として年に一度見直されます。
標準報酬月額の上限見直し(等級の追加)は珍しいことではなく、直近では2020年に65万円の等級(32個目の等級)が追加されました。今回も等級を増やし、上限を75万円、79万円、83万円、98万円のいずれかに引き上げてはどうかと検討しています。現行の上限等級と見直し案を比べると次のとおりです。
●現行の32等級(標準報酬月額65万円)は、対象月給が「63万5000円以上」 ●見直し案では、32等級(標準報酬月額65万円)の対象月給が「63万5000円以上66万5000円未満」に変わり、さらにその上の等級(標準報酬月額75万円など)が追加される
この結果、平均的な月給(基本給+手当)が66万5000円以上の人が今回の上限見直し案の影響を受け、厚生年金保険料が増えることになります。一部の報道で見られる「賞与を除く年収798万円」という表現は、「月給66万5000円×12」を意味しています。
厚生労働省によれば、厚生年金保険の被保険者全体(約4200万人)に占める上限該当者の割合は次のとおりです。
●現行65万円(月給65万円前後)の人は全体の6.2% ●75万円案(月給約75万円以上)の人は全体の4.0% ●79万円案(月給約79万円以上)の人は全体の3.5% ●83万円案(月給約83万円以上)の人は全体の3.0% ●98万円案(月給約98万円以上)の人は全体の2.0%
会社員と公務員をランダムに100人選んで月給の高い順に並べると、トップ6人が現行の上限等級「65万円」に属しているといえます。上限該当者の割合は何%が適当なのかも、今回の検討要素の1つです。
最終的に75万円から98万円までのどの案で決着するにしても、約4200万人全体に占める割合から見れば、「上限該当者は月給が国内トップクラスの会社員または公務員」といえるのではないでしょうか。他方、賞与を含めた年収でも上限該当者が国内トップクラスとは必ずしもいえません。
平均的な月給(基本給+手当)が66万5000円以上の人が、同じ月給のままで標準報酬月額の新たな上限に区分されて厚生年金保険料が増えると、目先の手取りが減るマイナス方向の影響と、将来受け取る老齢厚生年金が増えるプラス方向の影響の両方を受けます。
「老後はさておき、今の手取りが減るのは困る」と感じるか、「保険料をできるだけ多く納め、将来受け取る年金を増やしたい」と思うかは、人それぞれでしょう。
出典 厚生労働省 社会保障審議会年金部会における議論の整理 日本年金機構 厚生年金保険料額表
執筆者:福嶋淳裕 日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
ファイナンシャルフィールド編集部
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