( 271651 )  2025/03/03 06:01:36  
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Photo:PIXTA 

 

 2024年の訪日外国人(インバウンド)数が3687万人、年間旅行消費額は8.1兆円で過去最高を記録した。日本がインバウンドマネーで潤う一方で、観光客のマナー違反やオーバーツーリズム(観光公害)も指摘される。日本は観光立国になれるのだろうか。『観光亡国論』の著書があり、『情熱大陸』に出演経験もある東洋文化研究者アレックス・カー氏に話を聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基) 

 

● インバウンドが指摘「日本は看板で台無し」 

 

 ――日本の景観の問題点はありますか? 

 

 日本の景観で何より大きな問題は、看板です。景観をぶち壊す看板があふれかえっています。精神的におかしいと思われるぐらい、看板が多過ぎますよ。 

 

 特に私が憂いているのは、神社です。「厄年は何年で、お守りが売っている場所はこちら」といった看板。デザインもひどい。真っ白な金属板に真っ赤な字で描いたものなど、下品で派手な看板が増えている。 

 

 でも、そうではない神社もあります。伊勢神宮はしっかり景観が守られています。日本の神社は伊勢神宮を見倣ったほうがいい。 

 

 インバウンドが増えているからか、数カ国の外国語で、「これをやったらだめ」「写真を撮らないでください」といった忠告が至るところに書かれています。しかし、きりがないし、大人の判断に任せたらいいのではないでしょうか。 

 

 私はよく、外国から来た観光客を案内しながら、「神道とは何か」といった話をします。「鳥居の下をくぐったら、清い神の世界だから、手や口を洗って入るのですよ」と説明するのです。 

 

 けれども、目の前にある汚らしい看板だらけの光景を見た旅行者から、「あれは何ですか」と聞かれることも増えています。お寺や神社の真ん前に看板を置いたら、台無しです。横にずらせないものでしょうか。 

 

 改善された例もあります。香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう、愛称こんぴらさん)では以前、看板が鳥居から吊り下がっていました。去年ようやく外れて、純粋な鳥居の姿に戻りました。 

 

 また、奈良の東大寺の柱に貼ってあった、派手な順路矢印の看板も外されて、元の美しさに戻りました。このように看板の醜さに気付いたところもあるようですが、まだまだですね。 

 

 ――それは日本人が気づきにくい点ですね。他にも、外国人を案内して、気づくことはありますか?例えば、彼らが日本で感動していること。食べ物、商品、サービスで、ありますか? 

 

 

 皆が口をそろえて絶賛するのが、日本ならではの「体験」をした時です。お茶、座禅、武士道、料理、お寿司を握る、そば打ち、陶芸、茶碗を焼く、書道など。中には怪しいものもありますが、そうした体験ができることを楽しんでいます。 

 

 そういう外国人向けに提供される体験アクティビティが、ものすごく増えていますね。インバウンドが体験に使う金額の割合も増えていると思います。日本酒の試飲も外国人にウケています。 

 

 ――逆に、外国人が日本に対してネガティブな印象を持った、残念に思った話は聞いたことがありますか?私が聞いたのは、英語を話せる人が少なすぎることです。 

 

 それは確かにあります。観光業で英語ができる人材が不足している。外国人観光客が自由に細かい話をしたときに、対応できる日本人があまりにも少ない。ホテルのフロントでも決まり文句以外で、英語対応できるスタッフが少ない。 

 

 もう一つは、融通が利かないことです。例えばメニューにないことをオーダーすると、「やっていません」と言われる。水に氷を入れて出している、ホットティーはメニューにあるのに、「アイスティーをお願いします」と言っても、それがメニューになければ、「出せません」と言われる。融通が利かないことが、日本のおもてなしのマイナス面です。 

 

 昔から日本の観光のスタイルは消極的です。旅館に泊まると、料理から何から全て決まっているから、それを受ければいいだけ。それ以外は、遠慮して頼まない。 

 

 外国人は欲しいものをどんどん言います。ちょっとの工夫で対応できることもあるのに、インバウンドに慣れていないケースだと拒否反応を起こすスタッフもいます。大きなホテルでも、イライラする外国人客は見受けられます。 

 

 ――融通が利かないというのは、日本人の国民性もあると思います。 

 

 中国人、インド人、欧米人は、負けないしつこさをもっていて、「なぜそれができないのか?」と言います。私が日本人ガイドにレクチャーする際、外国人客に何か特別な頼みごとをされたら、最初から拒否しないで、「何か別の方法でできないか考えてみる」ことを教えます。 

 

 考えてみた、トライしてみたけれどもやっぱり出来ない、などと理由を説明した上で「ノー」というのは別にいいんです。けれど、「うちのシステムとしてできない」というのは、返事になりません。相手のニーズを考え合わせるのが、本当の「おもてなし」ではないでしょうか。 

 

大野和基 

 

 

 
 

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