( 272171 )  2025/03/05 06:31:48  
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写真はイメージです Photo:PIXTA  

 

 スキルは高いのに、その人の周りの人たちが次々と辞めていく。なぜかその人が来てから、職場の雰囲気が徐々に悪くなった――。組織を壊す、そんな人に心当たりはないだろうか?人事、採用、マネジメントをはじめ、人間関係の困りごとをどう解決する連載第2回目のテーマは「採ってはいけない人」。人事や採用分野に詳しい人材コンサルタントの安藤健氏が、3つのタイプとそれぞれの特徴を解説する。(人材研究所ディレクター 安藤 健、構成/ライター 奥田由意) 

 

● その人がいるだけで 周囲の人が辞めていく 

 

 みなさんの職場にこんな人はいないでしょうか。スキルは高いのに、その人がいることで周りの人たちが次々と辞めていってしまう。表向きは何も問題がないように見えるのに、明らかにその人のせいで、職場の雰囲気が徐々に悪くなっていく。これまであった職場の文化や土壌が、その人が来てから少しずつ崩れていくような感覚がある――。 

 

 職場は、働く人たちの信頼関係とコミュニケーションの積み重ねによる絶妙なバランスの上に成り立っています。しかし、そのバランスを崩してしまう人が一人でもいると、元に戻すのに相当な時間と労力がかかります。 

 

 ずばり、採ってはいけない人というのは、まさに、この職場のバランスを崩す人なのです。このようなタイプは、純粋にパフォーマンスや能力だけを見ても判断できません。 

 

 というのも、スキルや実力の有無は比較的見抜きやすく、仮に能力が不足していても、評価制度や報酬制度でコントロールできます。しかし、職場の人間関係や信頼関係を損なうタイプの人は、その影響力を数値化して評価することが極めて難しいからこそ厄介なのです。 

 

 職場の生産性を下げ、組織の健全な運営を妨げる人材に共通しているのは、表面的なスキルや能力以上に、人としての在り方や、他者との関係性の作り方に問題があるということ。このような、採ってはいけないタイプとは、大きく次の3つに分類できます。 

 

 

● 厳しい指導か?パワハラか? 「ハラスメント型」マネージャー 

 

 まずはハラスメント型。近年、職場でのハラスメントに対する意識は確実に高まっています。多くの企業でハラスメント防止の施策が講じられ、研修も実施され、ハラスメントという意識付けは浸透しています。しかし、実際の現場では「そんなつもりはなかった」とばかりにハラスメント行為を繰り返す人が後を絶ちません。 

 

 特に難しいのが、厳しい指導とパワハラの境界線です。同じ言動であっても、ある会社では「愛の鞭」として評価され、別の会社では明確なパワハラとして問題視されるということが起こり得ます。パワハラかどうかの判断は、厚労省が定めた「パワハラの6類型」という基準があるものの、実際には、企業文化による部分が大きく、判断が難しいところです。特にマネージャー職ではこの問題は顕著になります。 

 

 メンバーが仕事で遅れを出したとき、その対応は様々です。問題の本質を理解しようとせず、ただ厳しく叱責するだけの上司。遅れの原因となっている部分に具体的な手助けをすることなく、精神論だけで追い込んでいく上司。あるいは、困っているメンバーがいても、チームの他のメンバーへの相談や協力を認めず「自分で何とかしろ」と突き放す上司。 

 

 大きな仕事を進める中で、メンバーとの意見の食い違いは必ず生じるものです。しかし、ハラスメント型の上司は、そうした意見の違いを建設的な議論の機会とせず、威圧的な態度で自分の考えを押し付けようとします。 

 

 こうした上司の下では、メンバーは次第に萎縮し、新しいことにチャレンジする意欲を失っていきます。些細なミスを過度に責められることを恐れて、必要最小限の仕事しかしなくなる。上司の機嫌を伺いながら、できるだけ目立たないように過ごすようになる。 

 

 結果的に、メンバーは最初から相談や告発を諦めてしまうこともあります。というのも、ハラスメントを行う上司の多くは、より上位の管理職には丁寧な対応を心掛け、良好な関係を築いているからです。部下たちの訴えはなかなか経営層まで届かないという構造的な問題も生じやすい。 

 

 また、ハラスメント型の特徴として、本人の無自覚さが挙げられます。長年のキャリアの中で培われた「これが正しい指導方法だ」という確信は、容易には揺るぎません。自分の部下から優秀な人材が育ったという自負があれば、なおさらです。そして、部下が離職していっても「最近の若い人は根性がない」「プレッシャーに弱い」と、原因を相手に求めてしまいがちです。 

 

 

● 遅刻・欠席の常習犯 プライドが高い「勤務態度不良型」 

 

 2つ目の類型として挙げられるのが、勤務態度が不良な人です。 

 

 一見すると個人の問題のように見えるこのタイプも、実は組織全体に大きな影響を及ぼす存在です。具体的には、遅刻や欠席が多い、チームで決めたルールやポリシーに自分は例外だと主張して従わない、協調性が著しく低い、他のメンバーが自主的にサポートを申し出ても、プライドの高さゆえにそれを受け入れようとしないといった特徴を持ちます。そうした態度を改善しようという意思がまったく見られないということがあります。 

 

 基礎能力は高いため、慢心から向上心が全くないというのもこのタイプに含まれます。「私は頭がいいんだ」という態度が鼻につき、チームワークを乱すような言動を繰り返す。せっかくの能力も、その態度のせいで周囲との摩擦を生んでしまう。 

 

 さらに、このようなタイプの人は往々にして、自分の役割以外の仕事には一切関心を示さず、困っている同僚がいても見て見ぬふりをする傾向があります。 

 

 このタイプの問題の深刻さは、同じチームのメンバーから「あの人とは一緒に働けません」という声が上がることにも表れます。直属のマネジャーが対応に追われ、最終的には人事部門まで介入することになるケースも少なくありません。本来ならば組織の発展や他の社員の育成に向けられるべき上司や人事のエネルギーが、一人の問題のある社員への対応に消費されてしまうのです。 

 

 勤務態度不良型の特徴は、その行動パターンが比較的早い段階で表面化します。新しい職場に入って間もない頃から、遅刻や欠席、提出物の遅れといった問題が目立ち始めます。しかし、本人は自分の行動を問題視せず、むしろ「こんなことで目くじらを立てる方がおかしい」と開き直ります。その態度は、時として高い基礎能力や専門性によって正当化されることがあります。 

 

 確かにその人がいないと回らない業務や、その人でなければできない仕事があるかもしれません。しかし、どんなに高い能力を持っていても、基本的な勤務態度に問題があれば、それは組織全体にとってマイナスになってしまいます。 

 

 このようなタイプの人材は、自分の非を認めることが極めて難しく、指導や注意を受けても素直に受け止めることができません。そのため、同じ問題が繰り返され、改善サイクルが機能しないという悪循環に陥りがちです。 

 

 

● 偉い人の覚えは良いけれど…… 職場を内側から蝕む「コミュニティクラッシャー型」 

 

 3つ目の「コミュニティクラッシャー型」は、3類型の中でも最も厄介な存在です。その特徴は、強い者には徹底的に媚びへつらい、弱い者には高圧的な態度で接するという二面性にあります。そして、リーダーや主要メンバーの悪口を言い、平気で嘘をつき、自分の周りに派閥のような群れを作りたがる。こうした行動によって、職場のコミュニティを内側から壊していく存在なのです。 

 

 問題が表面化しにくいのもこの型の厄介な特徴と言えます。このタイプは賢く、影響力のある人々との関係作りが上手いため、上司の覚えがめでたく、上司に訴えても「いやいや、あの人は頑張っているじゃないか」と取り合ってもらえないことが多いもの。問題の発見が遅れがちになります。職場の雰囲気が悪くなり、優秀な人材が次々と辞めていっても、上司や経営層には、本当の原因が見えにくいのです。 

 

 チームで達成した成果や、良い出来事があった際に「私がやりました」と独り占めにしようとする「フリーライダー」の傾向もこのクラッシャー型によく見られます。実際には強い立場の人の傍にいただけ、あるいはその人の指示に従っただけなのに、まるで自分の手柄であるかのように装うのです。 

 

 このタイプの人材は、過去の経歴を語る際、リーダーシップに関しても狡猾なポジション取りをする点も頭の痛いところです。リーダーは基本的に各部門にひとりしかおらず、実際に部門長でなかった人が部門長だったと偽るのは難しいものですが、副リーダーや副部長といったサブの肩書きなら、何人いても不自然でないため、そうした肩書きであったことを主張することもあります。 

 

 極端な場合には、実際にはリーダーでなくても、「リーダーだった」という嘘を突き通す能力さえ持っている人もいます。 

 

 このように、このタイプは話術に長けているため、面接などの初期段階では問題を見抜くことが極めて困難です。質問に対する受け答えも巧みで、むしろ優秀な人材として映ることすらあります。しかし、実際に一緒に働き始めると、次第にその本質が露見していくというわけです。 

 

 サイコパス的な傾向を持っているのも、要注意です。自分の行動が他者に与える影響を顧みず、ただ自分の利益だけを追求する。そして、その過程で周囲の人々の心情を踏みにじり、職場の信頼関係を破壊していくのです。 

 

 この種の人への対応は、直属のマネジャーだけでは難しいもの。問題が起きている現場の人々は、既にその人物の影響下に置かれており、客観的な判断や適切な対応が困難になっているからです。そのため、第三者である人事部門が目を光らせ、現場に入り込んで、解決を主導する必要があります。 

 

 以上、採ってはいけない人の3類型を挙げてみました。次回は、こういう人が職場にいたらどうすればよいのか、また採用時にどう見抜いたらよいのかという対処法をお伝えします。 

 

安藤健 

 

 

 
 

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