( 272731 )  2025/03/07 06:11:12  
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AKIO MIKI JP/SHUTTERSTOCK 

 

コメの価格が高騰していることを受けて、政府は備蓄米の放出を決定した。だがコメの絶対量が不足しているという問題は解消されない可能性が高く、大幅な価格引き下げにはつながらないだろう。 

 

これまでコメは安く推移してきたが、昨年、価格が急上昇。一時はスーパーの棚からコメが消え「令和の米騒動」などと呼ばれた。政府は「新米が出てくれば価格は落ち着く」と説明し、メディアも政府の見解をそのまま垂れ流していたが、筆者を含む一部の専門家は、新米が市場に出ても価格は下がらないと指摘してきた。 

 

実際、新米が出た後も価格は上昇を続けており、従来の説明が破綻した政府は、今度は「集荷量が昨年を下回っており、その分が流通市場から消えたことが原因である」との説明に切り替えた。よく考えれば分かることだが、このロジックも最初から破綻している。 

 

2024年におけるコメの生産量は679万トンで、集荷業者が集めたコメの集荷量は昨年より21万トン減っている。だが集荷量というのはあくまで農協を中心とする集荷業者が確保した量にすぎず、農家が集荷業者を通さずに出荷したコメはカウントされない。 

 

■投機目的の買い占めが元凶とは言えない理由 

 

政府や一部のメディアは、集荷業者を通さずに出荷されたコメを中間業者が投機目的で買い占めていると主張しているが、これは正しい認識とは言えない。一部の中間業者がコメを余分に確保しているのは事実だが、その理由は投機ではなく、外食産業を中心とした自社の顧客に安定的にコメを卸すためである。 

 

国内のコメ市場は縮小が続いており、日本人1人が1年間に消費するコメの量は昭和の時代と比較すると半分まで減っている。ここまで市場が小さくなると、ちょっとした需要の変動が起こっただけで、価格は激しく上下する。 

 

市場の縮小に対応するため、コメ農家が生産量を減らし続けてきたところに、コロナ危機の終了で外国人観光客が急増。寿司や牛丼などに対する需要が増大したことから一気に品不足が発生し、これが価格急騰を招いた。 

 

小売店の場合、他の商品もあるので最悪コメが売り切れても何となるが、飲食店の場合、コメがなければ営業そのものが成り立たない。このため飲食店は多少価格が高くても、なじみの中間業者から安定的にコメを仕入れようとするのは当たり前の商行為と言える。 

 

コメの生産量はすぐには増やせないので、来年以降も不足が続くことは確実であり、こうした状況では、外食産業を顧客とする中間業者は在庫を多めに確保せざるを得ない。コメは消えているのではなく、常に足りないというのが真相と言ってよいだろう。 

 

■税金を投じることに反対していた過去 

 

戦後の日本は政府がコメを買い取ることで価格と生産量を管理する食糧管理制度(食管制度)を続けてきたが、「自民党の利権になっている」「農家への利益供与」「税金の無駄遣いだ」など批判が殺到。同制度は1995年に廃止された。コメの生産や価格を市場に委ねた以上、需要の変動が生じればこのような問題はどうしても発生してしまう。 

 

近年はインフレであらゆるコストが上昇しており、従来の価格では農家は生産を維持できない。かつてのように税金を投じて価格を安定させるのか、ある程度の価格高騰は受け入れるのか国民は判断する必要があるだろう。 

 

 

 
 

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