( 273029 )  2025/03/08 06:32:07  
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デービッド・アトキンソン氏によると、日本はまもなく1人当たりGDPでポーランドに抜かれるとの報告があり、日本の生産性向上の必要性が指摘されている。

しかし、政府が実施する減税や景気回復策は現在の状況に適さない可能性があるとして、新たな政策の必要性が提言されている。

(要約)

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日本はまもなく「1人当たりGDP」でポーランドに抜かれるといいます(IMFデータを基に筆者作成) 

 

オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 

退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の著書『給料の上げ方:日本人みんなで豊かになる』では、日本人の給料を上げるための方法が詳しく解説されている。 

 

「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」 

 

そう語るアトキンソン氏に、これからの日本に必要なことを解説してもらう。 

 

■1人当たりGDPでポーランドに抜かれる 

 

 私が生産性向上を訴え始めてから10年が経っています。少しずつ認識は進んでいるように感じますが、生産性そのものは十分に向上されていません。 

 

 IMF(国際通貨基金)が出している2025年の最新の予想では、日本の1人当たりGDP(購買力調整済み)のランキングが36位まで下がっています。この数年で、韓国にもイタリアにもスペインにもチェコにも抜かれてしまいました。 

 

 実は、ポーランドの1人当たりGDPも日本の1人当たりGDPの99.3%まで上がっており、2026年にはポーランドの生産性が日本より高くなると予想されています。1991年には、日本の1人当たりGDPはポーランドの3.2倍でした。 

 

 大半の先進国と比較しても同様に、日本の1人当たりGDPは相対的に下がっています。1990年代前半、日本の1人当たりGDPは先進国平均の95%の水準を維持していましたが、2025年にはそれが74.6%まで下がると予想されています。極めて興味深いことに、1995年は日本の生産年齢人口がピークを迎えた年です。そこから生産年齢人口は1400万人も減少しています。 

 

 

■付加価値が増えない限り、賃金は上がらない 

 

 当然ながら、付加価値は賃金の源泉です。したがって、付加価値が増えない限り、賃金が持続的に上がることはありません。 

 

 言うまでもなく、生産性向上は主にイノベーションと設備投資によって実現されます。単に価格を上げるだけでは達成できません。新しい産業、新しい商品、新しい製造方法、新しい企業の在り方によって付加価値が生み出されます。 

 

 ここで、政府の下請け企業への対応が問われることがあります。政府は、大企業が下請け企業に対して不当にコスト削減を強いることを防ぎ、適正な価格を支払うよう訴えています。Gメンの数も増やしています。当然、価格転嫁が可能になれば価格は上がり、下請け企業の利益は増えます。 

 

 しかし、それは商品やサービスの付加価値が向上したわけではなく、単なる利益の分配の変化にすぎません。要するに、価格と価値は同じではないという基本的な理解が欠如しています。下請け企業への不当な圧力をなくすべきではありますが、国全体の生産性が向上しない限り、価格転嫁政策を推進しても生産性は向上しません。 

 

■「減税」は、今の日本では経済成長につながらない 

 

 減税も同じ問題を抱えています。 

 

 国民民主党や一部の野党、自民党の議員は、景気回復のために以下の施策を提案しています。 

 

1.国債を大量に発行して財政出動を行うべき 

2.減税を実施し、可処分所得を増やすべき 

3.さまざまな公共サービスを無償化し、家計を支援すべき 

 これによって景気が回復し、日本経済が成長すると期待しています。 

 

 しかし、このような政策提言の背景には、古典的なケインズ経済学の考え方があります。景気が悪いときに政府が財政赤字を拡大し、経済成長率を過去の成長トレンドに戻すという発想です。 

 

 問題は、古典的なケインズ経済学は高い失業率を前提としていることです。景気が悪化すると失業率が上昇するので、対策として政府が赤字を拡大することで雇用を生み出し、失業者を減少させる。すると新たに雇用された人々の消費が増加して、経済が回復するという理論です。 

 

 

 簡単に言えば、人口増加時代において、新しく社会に出る人が増える分だけ、常に新しい雇用を創出しなければならない状況下での、政府の財政政策に関する経済学なのです。 

 

 一方で、政府が財政赤字を増やすと、それによって有効需要が拡大し、デフレギャップが解消され、物が売れ、企業が生産を増やすことで景気が回復すると主張する人もいます。その生産を増やすことの中身は、主に雇用を増やすことを意味します。 

 

 しかし、日本経済は人口減少のもとで人手不足に直面しています。これは、ケインズ経済学が前提としている状況とは異なります。 

 

 人手不足の状況で財政赤字を増やしても、失業者がほとんどいないため新たな雇用は生まれず、景気は回復しません。有効需要の理論も深く考えると、企業が生産を増やすためには雇用を増やす必要があるため、同じく人手不足の問題を無視した結論になっています。 

 

 教科書に書かれている単純な経済学の一般論を鵜呑みにしている野党や自民党の一部議員の見方は、単純すぎると言わざるをえません。 

 

 私は、国民民主党が主張している「減税によって手取りを増やす」政策は、ほとんど効果がないと考えています。 

 

 日本の低所得者と定義される人の大半は最低賃金で働いている人ですが、その多くは高齢者と40代以上の女性です。その女性たちも、大半が比較的高い所得を得ている男性の妻であるため、基礎控除を引き上げても、消費性向が低い層に最も大きな減税効果が集中することになります。 

 

 より本質的に考えると、常識的な人は「賃金が上がって手取りが増える」状況を肯定し、消費を増やします。しかし、賃金が増えていないにもかかわらず、巨額の累積財政赤字を抱える国において減税によって手取りが増えた場合、多くの人は「どうせ後でまた増税されるだろう」と考え、貯蓄を増やすだけです。 

 

■企業の利益が増えるだけでは、賃金は増えない 

 

 実際、安倍政権以降、企業は徹底的に利益を拡大しながらも、設備投資も賃上げもせず、内部留保と配当を大幅に増やしてきました。 

 

 昔、リカードの等価定理を学んだことを思い出しました。AIで調べたところ、以下のような説明が出てきました。 

 

「リカードの等価定理とは、財政赤字による公債の負担が現在世代と将来世代で変わらないことを示した定理です。イギリスの経済学者デビッド・リカード(1772〜1823)によって提唱されました。」 

 

 

【概要】 

• 政府が歳入を賄うために課税するか公債を発行するかは、人々の消費行動に影響を与えない。 

• 政府が景気刺激のために減税を行い、その財源を国債で賄った場合、家計が将来の増税を予想すると、減税は景気を刺激しない。 

 この定理にはさまざまな問題が指摘されていますが、これまでの日本経済、企業の動向、個人貯蓄の動向を見ると、非常に興味深いものです。 

 

 しかし、減税によって失業率を下げ、景気が回復するという単純な概念や願望は、現在の日本の人手不足の状況には当てはまりません。そのため、減税の効果が期待できないという現実を認めなければなりません。 

 

 簡単に言えば、積極財政派の人々は人口減少を無視し、あたかも経済成長が100%政府のマクロ政策によってコントロールできるかのような妄想をしていると思います。彼らは、「経済成長率は政府の意向次第で自由に変えられる」というマクロ政策至上主義に基づいています。しかし、1990年以降、日本政府が巨額な赤字財政を増やしてきたのにもかかわらず、日本経済は成長していません。その理由は、企業が内部留保を大幅に増やし、このマクロ経済至上主義が誤りであることを示してきたからです。 

 

 減税の効果を主張する人は「減税を行えば物が売れ、企業の利益が増え、賃上げが実現し、さらに物が売れる」と主張しています。これは一般的な理想論としては理解できますが、第2次安倍政権以降、大企業・中堅企業・小規模事業者の利益がすでに大幅に増えているにもかかわらず、賃上げが行われていないという現実を無視した、非現実的な夢物語に過ぎません。 

 

 なぜ、減税を行うことで企業が突然賃上げを行い、これまで内部留保に回していた資金の使い方を変えると期待できるのでしょうか。企業の立場からすれば、減税によって財政がさらに悪化すれば、物価上昇に対する対応として「政府が減税してくれるのだから、自分たちは賃上げをする必要がない」と考える可能性のほうがはるかに高いのです。結果として、利益をさらに増やし、内部留保を増大させる行動を取るでしょう。 

 

 

 
 

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