( 273061 )  2025/03/08 07:02:13  
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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 ガソリン税の暫定税率を廃止する法案を一部野党が提出しました。他方、2024年のガソリンスタンドの倒産・休廃業は184件で、3年連続で増加し、補助金縮小で経営環境はさらに厳しくなるそうです(帝国データバンク調査)。何かと話題になるガソリンですが、そもそもクルマの燃料はガソリンだけではありません。2000年代初頭に大論争を巻き起こした「アルコール燃料」の是非を振り返ります。(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一) 

 

● ガソリンよりもリッター20円安い! 「ガイアックス」が注目されたワケ 

 

 脱炭素社会の一つの方向性として今、再び注目されている「アルコール燃料」をご存じでしょうか。実は、日本では1999年に高濃度アルコール燃料が発売され、大きな注目を集めたことがあります。 

 

 その商品名は、「ガイアックス」(GAIAX)。ガソリン1リットルが110円の当時、ガイアックスは90円程度とリーズナブルでした。高濃度アルコール燃料は、揮発油税や軽油引取税の対象外だったのです。ガソリンスタンドのようにポンプで給油する方式で販売されていました。 

 

 ガイアックスは、天然ガスを原料として精製されていました。成分の詳細は、01年時の環境省の調査結果によると炭化水素分成分が48.4%、残りがアルコール成分(インプタール、イソプロパノール、メタノール、MTBE)でした。なお、ガソリンは100%が炭化水素分です。 

 

 調査では実車による排ガス測定も行われ、これによると一酸化炭素と炭化水素の排出量はガイアックス使用時の方が少なく、窒素酸化物はガイアックス使用時の方が多い傾向が確認されています。二酸化炭素、燃料消費率とも、ガソリン使用時とガイアックス使用時では、それほど違いなし。アルデヒド類の排出量は、ガイアックス使用時がガソリン使用時に比べて多い傾向でした。 

 

 一般的なガソリンエンジン車に使えて、一酸化炭素と炭化水素の排出量を大幅に減らし、安いのがウリだったガイアックス。しかし、メーカーや国、ユーザーを含めて大論争になった末に、03年に販売禁止になりました。 

 

 ガイアックスを販売していたベンチャー企業のガイアエナジーは当時、「石油連盟から圧力を受けている」と訴えていました。ガイアックスがユーザーの支持を得れば、ガソリンの売り上げが下がる可能性は十分考えられます。 

 

 

 ガイアックスが販売禁止になった要因の一つに、車両への影響が挙げられます。ガイアックスを使うことでアルミパーツやゴムパーツ、パッキンなどの腐食が発生しクルマに不具合を起こすことがある、と複数の自動車メーカーが報告したのです。メーカーは、ガイアックスの使用を控えるように呼びかけました。 

 

 01年の環境省調査後、03年の法改正では、ガソリンへのアルコール等の混合許容値は「エタノールは混合率3%まで、その他含酸素化合物は含酸素率1.3%まで」と決められました。その他含酸素化合物とは、アルコール類だと考えていいでしょう。0%としなかったのは、アルコール類がガソリンのノッキング防止剤として役立ち、ハイオクガソリンの添加物として使用される可能性があるからです。かくしてガイアックスは市場から姿を消しました。 

 

 その後、07年。日本政府は「エコ燃料実用化地域システム実証事業」を策定し、「E3ガソリン」(バイオエタノール3%混合ガソリン)の普及に向けて動き出します。 

 

 実は、米国ではE10ガソリン(バイオエタノール10%混合ガソリン)が普及しています。また、東南アジアのタイではそれまで基準ガソリンがE10だったものを、E20(同20%混合)に引き上げています。 

 

 片や、日本はかつてガイアックスを規制した際にエタノール配合率を3%に規制してしまったので、配合率を上げるにはまずは法改正が必要な状況です。 

 

 なお、今もごく一部ではE3ガソリンが売られているようです。そこで筆者は最近、某大手石油元売りのお客様相談係にたずねたところ、「現在は発売していない。バイオETBEを1%以上配合したものをバイオガソリンとして販売できるが、現在1%を超える製品はない」との回答でした。 

 

 かつての利害関係者の思惑が、今となって足かせになっているのは間違いありません。日本では現在、公道を走るための燃料として3%以上のエタノールや、その他含酸素化合物を1.3%以上含むガソリンは販売されていません。 

 

 なお、当時はまだ窒素酸化物吸着触媒などが普及する前でした。令和の技術で排ガス清浄化策を講じれば、ガイアックスはよりクリーンな排ガスとなるでしょう。 

 

 あのとき、世の中がガイアックスを責めるのではなく認め、新しいエネルギーに注目していたら……。日本の自動車社会、自動車産業の構造は大きく変わっていたに違いないと考えます。 

 

諸星陽一 

 

 

 
 

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