( 273331 )  2025/03/09 06:27:43  
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自動車(画像:Pexels) 

 

 トランプ米政権は2025年3月4日、カナダとメキシコからの輸入品に対して25%の追加関税を発動した。トランプ大統領は、ドイツをはじめとする欧州からの自動車輸入量に不満を示しており、米国への自動車輸入に対して25%前後の関税を適用する意向を示している。日本もこの対象国に含まれる可能性が高い。 

 

 前政権時代から、トランプ大統領は日本市場の自動車業界において、 

 

・右ハンドル仕様 

・独自の車検制度 

 

などが参入障壁となっていると指摘していた。米国車(アメ車)の日本市場での販売低迷を受け、日本から米国への自動車輸出に追加関税を課す方針が示されている。しかし、アメ車の販売不振は、参入障壁だけではなく、複数の要因が複雑に絡み合っているとの見解もある。 

 

 本稿では、アメ車が日本で売れない本当の理由を探るとともに、今後アメ車が日本市場で販売されるために必要な改善策について考察する。 

 

自動車(画像:Pexels) 

 

 日本自動車輸入組合のデータによれば、メルセデスベンツやBMWなどのドイツ車が年間5万台以上を販売しているのに対し、アメ車の販売台数は1万台余りにとどまり、伸び悩んでいる。 

 

 2016年にはフォードが日本市場から撤退し、GM傘下のキャデラックやシボレー、ステランティス傘下のジープなど、米国のデトロイトスリー(GM、フォード、ステランティス)の販売台数も年々減少している。この状況に対して、トランプ大統領は日本がアメ車に不公平な障壁を作っていると主張しているが、アメ車が日本で売れない理由は日本の消費者嗜好や市場環境に深く関連していると考えられる。 

 

 アメ車の販売不振には、いくつかの要因が絡んでいるが、まず第一に挙げられるのは「車両価格」だ。日本では輸入車に対して無関税ではあるものの、アメ車の価格は依然として高い。円安による価格上昇が主な原因とされるが、輸送費の増加や販売台数の少なさによるスケールメリットの欠如も影響している。例えば、フォード・マスタング(エコブースト)の車両価格は米国本国では約3万4000ドル(約510万円)だが、日本では約680万円と3割ほど高く、消費者にとって手が届きにくい価格となっている。 

 

 次に、「燃費性能」も大きな要因である。日本では燃費のよい車が好まれ、ハイブリッド車や軽自動車が人気を集めている。これに対し、大排気量エンジンを搭載したアメ車は燃費が悪く、維持費が高くなる傾向がある。また、日本のエコカー減税の対象外であることも購入をためらわせる要因となっている。 

 

 さらに、日本の「道路事情」も販売に影響を与えている。日本の都市部では道路が狭く、駐車場も限られているため、大型SUVやピックアップトラックなどのアメ車は実用的でないと感じる消費者が多い。その一方で、欧州メーカーは日本市場向けにコンパクトなモデルを投入しており、アメ車は市場適応が遅れているという指摘がある。 

 

 また、「ディーラー網」の不足も課題だ。メルセデス・ベンツやBMWなどは日本国内に広範なディーラー網を展開しており、購入からメンテナンスまでのサポート体制を充実させているが、正規ディーラーは少なく、地域も限定的だ。これにより、修理や部品供給の遅れが懸念され、消費者は購入をためらう傾向がある。 

 

 最後に、「プロモーション活動」が不足している点も、知名度の低さにつながっている。欧州メーカーはテレビCMやSNS広告を積極的に活用しているのに対し、アメ車の広告は控えめであり、消費者に購入の機会を提供できていない可能性がある。 

 

 

 アメ車が日本で売れない背景にはさまざまな課題が存在するが、それでも一定の支持層は確実に存在している。特に旧車やマッスルカーに魅力を感じる愛好家は多く、ダッジ・チャージャーやジープ・ラングラーなどは今でも根強い人気を誇っている。これらの人気車種は独自の個性やデザイン性を持ち、他にはない魅力を提供しているため、特定層においては依然として高い需要がある。 

 

 また、今後の為替状況によって円高が進めば、価格が調整され、アメ車が手の届きやすい価格帯になる可能性がある。これによって購入を検討する消費者が増えることが予想される。さらに、ボルボやメルセデスベンツなどが導入している月額課金型のサブスクリプションサービスが普及すれば、消費者がより手軽にアメ車を購入できる価格帯で提供できるようになるかもしれない。 

 

 加えて、日本では右ハンドル車が好まれる傾向があるものの、一部の消費者は左ハンドル車でも問題ないと考えている。そのため、右ハンドル仕様が必ずしも絶対条件というわけではない。実際、オーストラリア向けなどの右ハンドル仕様を日本に輸入する選択肢も残されており、今後の販売戦略には柔軟性が求められる。 

 

ホワイトハウス(画像:Pexels) 

 

 アメ車が日本市場で苦戦している理由は多岐にわたるが、改善策を講じることは可能である。デトロイトスリーが本気で日本市場を開拓したいのであれば、まずディーラー網の拡充に力を入れ、購入しやすい環境を整える必要がある。全国規模でディーラーを展開すれば、メンテナンスやアフターサービスの利便性が向上し、アメ車購入時の不安を軽減できるだろう。 

 

 また、価格面では為替リスクを考慮しつつ、価格競争力を高めることが求められる。今後の為替相場が円安に転じた際には、即座に価格調整を行い、消費者の関心を引きやすくするべきだ。燃費性能の向上も重要な要素であり、ハイブリッド車やEVをラインナップに加えることで、競争力を強化できる。 

 

 さらに、日本の消費者ニーズに適した車種を投入することが不可欠だ。大型SUVやピックアップトラックに加えて、日本の道路事情に合ったコンパクトなモデルを提供することが成功へのカギとなるだろう。このような戦略を実行すれば、アメ車が日本市場で一定のシェアを獲得することも十分に可能だ。 

 

 一方で、日本の自動車メーカーにとっては、来月初めに予定されているトランプ米政権による輸入関税引き上げが新たな懸念材料となる。しかし、デトロイトスリーにとっては、日本市場での巻き返しを図り、適応していくことが今後の生き残りを大きく左右する。単に参入障壁の議論に終始するのではなく、消費者ニーズにどう向き合い、応えていくかが、今後の成功のカギとなる。 

 

 なおゼネラルモーターズ・ジャパンは、キャデラック初のバッテリー式電気自動車(BEV)「キャデラック リリック」の販売を2025年3月8日から全国の正規ディーラーで開始した。右ハンドル仕様の導入は12年ぶりで、価格は税込1100万円。納車は同年5月以降を予定している。さらに、2車種のEV投入も計画されており、キャデラックの電動化戦略が本格化する。今後の販売動向が注目される。 

 

三國朋樹(モータージャーナリスト) 

 

 

 
 

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