( 273369 )  2025/03/09 07:13:26  
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東京ディズニーランドが「高級化」路線になりつつあることが批判されているが、谷頭和希氏によると、その背景には幅広い客層を獲得するための戦略があると解釈される。

ディズニーランドの世界観が崩れ、テーマ性が弱まっている点や、Dオタク(ディズニーオタク)向けではなく、様々な客層に合わせる傾向がある点が挙げられる。

高級化の裏にはDオタクの排除もあるが、ディズニーランドは「量から質への転換」を進め、収益向上を図っている。

一部では「金持ちしか行けない」との報道や「若者のディズニー離れ」といった議論も出ているが、ディズニーランドの方針は一定の成功を収めているようで、客数は減ることなく過去最高益を記録している。

(要約)

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シンデレラ城 

 

近年、顕著になっている東京ディズニーランドの“高級化”路線は、「若者」と「Dヲタ」の排除に繋がっているのではないかと批判が相次いだ。しかしその背景には、「ウォルトの理想からの脱却」を目指すことで、より幅広い層に顧客を広げたのではないかと、都市ジャーナリストの谷頭和希氏は分析する。 

 

高級化の真意について、『ニセコ化するニッポン』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち2回目〉 

 

TDRはマーケティング的に変化し続けている。 

 

ここ最近のディズニーランドの傾向だが、本来、一つのテーマで徹底的に統一されていたディズニーランドの世界観が崩されているのだ。新井克弥はこれを、ディズニーランドの「ドンキ化」と呼んでいる(ここではドンキ化という言葉は、「ごちゃごちゃした」「雑多な」という意味で使われている)。 

 

もともと、ウォルト・ディズニーが思い描いていたパークの方向性から逸脱しているというのだ。 

 

新井が強調するのは、ある段階までのTDRが、いわゆる「Dオタ」(ディズニーオタクの略語)が楽しめるようなパークにどんどんと変わっていった、ということ。一つの世界観を守るのではなく、色々な好みを持ったそれぞれのDオタが各自で楽しめるように、その場所が変わっていったのだ。 

 

例えば、パレードにはその傾向が顕著に表れていると新井は言う。もともと、そのパレードは、ディズニーの世界観や物語に忠実で、そこで流れるフロート(パレードの山車とでもいうべきもの)なども計算されているものだった。 

 

しかし、現在のパレードは、大雑把なテーマだけを決め、基本的にそこには人気のキャラクターたちが勢揃いするようになっている。それはなぜか。 

 

Dオタたちは、ネットやSNSの情報をさまざまに調べ、それぞれが「マイ・ディズニー」ともいえるこだわりを持っている。その細分化したこだわりに対応するように、パレードのあり方も変わってきたのである。 

 

この点でも、TDRはそこに来る顧客層を判断し、そこに特化した形での政策を行うという意味で、きわめてマーケティング的にその空間を操作しているといえるだろう。そこで、ウォルト的な「理想」はきわめて薄められる。 

 

 

ある段階まで、TDRはDオタたちの嗜好に合わせて変化を遂げていたといえるが、それもまた変わってきている。 

 

それを表しているのが、近年、顕著になっているTDRの「高級化」だ。 

 

ディズニー側は、今後の方針として「客数よりも満足度」を重視する方向性を挙げている。これは、観光全体のトレンドとも関係する。つまり、「量から質への転換」だ。 

 

ディズニーの世界を、選ばれた人にだけより楽しませ、彼らから今まで以上に高いお金を取ることによって、全体の利益を上げていくのだ。まさに「選択と集中」だ。 

 

それは、ここ10年ほどで倍近くにもなったチケット(パスポート)料金にも表れているし、かつては無料で取得できたファストパス(アトラクションの優先搭乗券のようなもの)が「ディズニー・プレミアアクセス」として課金制になったことにも顕著だろう。 

 

また、一度買えば一年中行き放題だった「年間パスポート」(いわゆる、年パス)も廃止され、定額でそこに行き放題、ということもできなくなってしまった。 

 

こうした高級化の裏側には、「Dオタの排除」もあると思われる。 

 

本来なら、こうしたコア層は歓迎されるべきだ。しかし、これ以前のTDRでは、Dオタたちによる、過剰な「マナー違反の晒しあげ」などが問題になったり、あるいは一度買えば年中行き放題の「年パス」で繰り返しふらっとインパ(インパーク、ディズニーリゾートの中に入ること)する人々が多かった。 

 

こうした行動は、一般客を遠ざけ、また年パスを使って繰り返し入園されることでパーク側の売り上げが落ちてしまう。 

 

しかし、コロナ禍を機に年パスの制度は無くなり、それと相前後するように、ディズニーは入園客の量から質への転換を図った。今では「運営はDオタの方を向いてくれない」といった言葉もまことしやかに語られている。 

 

もちろん、高くなっても熱狂的なDオタはTDRに通い続けるだろうが、特に年パスの廃止によって、少なくない数のDオタがTDRから離れていったことは容易に推察できる。 

 

ちなみに、年パスが実質的に廃止された2020年には、「 

 

」というハッシュタグがSNS上で話題を呼ぶこともあった。 

 

「量から質」を重視する流れの中で、Dオタの排除も進んでいったのである。 

 

こうした料金の高騰により、一部では「もうTDRは金持ちしか行けない」なんて報道もある。また、それと共にネットを騒がせたのは「若者のディズニー離れ」という言葉。 

 

発端はピンズバNEWSに掲載された「若者のディズニー離れが進む 10〜30代の利用者は約10%減 TDR知識王が語る分岐点『大人料金が1万円を超えた時』」だったかもしれないが、これを皮切りにさまざまな議論が噴出した。 

 

そうした記事に対しては「いや、逆に『ディズニーの若者離れ』では?」といった反論もあった。 

 

パークへの入場を「料金」によって変化させ、そこへ来られる客層を選んでいるのが、現在のTDRの姿であるといえるのかもしれない。 

 

つまり、USJが「映画の世界」をテーマにすることをやめたように、TDRが「それまでのディズニー好き」とは異なる客層に向けた施策を打ち出しているのだ。 

 

実際、こうしたTDRの方向性は、現状では成功していると思われる。というのも、度重なるチケットの値上げにもかかわらず、その客数は衰えることがなく、2024年3月決算では、過去最高益を記録したからだ。 

 

「高くても来る」人を選んでいるからこそ、最高益を記録できるのだ(同時に、これは「高くても来る」ぐらいの魅力をTDRが作り続けているということだ)。 

 

まさにテーマパークにおいても、「選択と集中」が進んでいる。それは、ディズニーがこれまで持っていた「テーマ性」という名の「ウォルトの理想」からの脱却であり、同時にそこに来る人々を選び、フォーカスを当てて楽しませるマーケティングの強化が行われているという意味でもある。 

 

文/谷頭和希 写真/Shutterstock 

 

 

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谷頭和希(たにがしら かずき) 

 

チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材等を精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。講演やメディア露出も多く、メディア出演に「めざまし8」(フジテレビ)や「Abema Prime」(Abema TV)、「STEP ONE」(J-WAVE)がある。また、文芸評論家の三宅香帆とのポッドキャスト「こんな本、どうですか?」はMBSラジオポッドキャストにて配信されている。 

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谷頭和希 

 

 

 
 

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