( 273526 )  2025/03/10 04:26:10  
00

Photo by gettyimages 

 

GDPの2倍以上にまで膨らんだ日本の借金。しかし多くの国民は、自分たちがすでに「崖っぷち」に立っていることを知らない。このままバラマキ政策が続けば、財政崩壊の「X-DAY」は刻一刻と近づいてくる。 

 

そうなる前に、何か手立てはないのか。『持続不可能な財政』(講談社現代新書)を著した2人が、問題点と解決策を徹底議論した。 

 

河村 小百合(かわむら・さゆり)/1991年、株式会社日本総合研究所入社。2019年より調査部主席研究員。財務省財政制度等審議会財政制度分科会委員を務める。著作に『日本銀行 我が国に迫る危機』など 

 

藤井 亮二(ふじい・りょうじ)/1985年、参議院事務局入局。予算委員会調査室首席調査員、企画調整室次長などを経て、2018年に参議院予算委員会専門員(調査室長)。2022年より白鷗大学教授 

 

河村:1月24日、日銀が金融政策決定会合で、政策金利(短期金利)を0.5%に引き上げることを決めました。利上げで円安の進行と物価高を抑えたいのだと思われますが、この程度では効果は薄いでしょう。もっと早い時期から本格的な利上げに踏み切っていれば、国民はここまで苦しまずに済んだはずです。 

 

藤井:私も引き上げが甘いと思いますが、そうなった理由は二つ考えられます。一つは国債の利払費、つまり「国の借金」の利子が膨らんでしまうこと。短期金利が上がれば長期金利も上がるので、政府が発行している国債の利払費も膨らんでいき、ますます返済が苦しくなります。それをわかっていたからこそ、日銀は大幅な利上げに踏み切れなかったのでしょう。 

 

河村:もう一つは日銀の財務の問題です。日銀の国債買い入れで日銀から渡された代価の多くを、民間銀行は「日銀当座預金」に滞留させています。国債の約5割を日銀が保有した結果、この当座預金が530兆円まで膨らんでいる。利上げを続けるには、この当座預金につける利率を引き上げなければならず、日銀の財務状況は悪化していきます。このままでは赤字に転落し、債務超過になりかねません。 

 

藤井:これまでは日銀が「異次元の金融緩和」を実施して、金利を低く抑えることで、問題を先送りしてきたわけですよね。デフレの間は問題が表面化しませんでしたが、利上げが求められるこのインフレ局面ではそうはいきません。 

 

河村:日銀が債務超過に陥れば「本来は国の予算で国債の利払費の負担を賄うべきだが、政府は日銀に事実上押し付けることで、利払費を圧縮している」ことが露見する恐れもある。市場では「日本政府は借金を返す気がないらしい。いよいよ危ないぞ」という話になるでしょう。 

 

 

藤井:このままでは円が際限なく売られて、価値が暴落していくでしょう。日銀はさらに利上げして円高へ誘導しようとするでしょうが、それでも円安を止められるかどうか……。完全に「ゲームセット」です。 

 

河村:その先に待ち受けているのは、第二次世界大戦直後の日本と同じ惨状かもしれません。1944年時点で政府が背負っていた債務は、ちょうど現在と同規模でした。しかし敗戦により事実上の財政破綻に陥って、国債の元本償還や利払いができなくなる「債務不履行」の一歩手前にまで達したのです。 

 

政府は銀行預金を封鎖して一定額以上は引き出せないようにしたうえで、「財産税」や「戦時補償特別税」を徴収するなどして、なんとか内国債の債務不履行だけは回避しました。 

 

前者の最高税率はなんと90%で、課税対象は動産・不動産・現預金などありとあらゆる財産。また後者は、戦時中に政府が民間企業や国民に支払う、あるいは給付すると約束した金額と同額が課されました。つまり政府が支払いを課税と相殺して、丸ごと踏み倒したわけです。 

 

このまま財政が悪化し続ければ、もう一度このような事態になってもおかしくありません。 

 

藤井:にもかかわらず、政府は現実を直視しないまま放漫財政を続けています。 

 

昨年末には令和7年度の政府予算案が公表されましたが、一般会計の歳出は過去最大規模の約115兆円でした。税収も増えたおかげで、新規国債の発行額を約28兆円まで抑えられたのが、不幸中の幸いです。 

 

河村:就任前の石破茂総理は財政再建に積極的だったはずが、今ではバラマキありきで大規模な予算を組んでいます。バラまかなければ、選挙に勝てないと考えているのでしょうか。 

 

藤井:加えて、少数与党の石破政権は野党の要求を呑まざるを得なくなり、この予算案も修正されることになりました。 

 

年収の壁の見直しで所得税が減収となるほか、高校授業料の無償化などで歳出が増える修正が行われました。預金保険機構からの納付金や基金の取り崩し、予備費の減額で財源を調達して予算の規模は3437億円ほど縮小しましたが、歳出を拡大する傾向は変わりません。 

 

河村:もはやここまでくると、いつ何がきっかけで大惨事が起きてもおかしくないでしょう。たとえば南海トラフ地震では、約200兆円規模の経済的な被害が想定されています。 

 

国債を発行して復旧・復興資金を集めようにも、すでに政府は膨大な借金を背負っていて、市場はもう国債を引き受けてくれない、日銀も財務が悪化して国債のさらなる買い入れは到底無理―そうなれば、万が一の事態を政府・日銀の力で乗り越えるのは、もう望めないかもしれません。 

 

藤井:大災害が起こらずとも、引き金はまだあります。1月にトランプ政権が成立したことで、再び米中貿易戦争が始まりました。もし日本も関税競争に巻き込まれて不況になれば、税収が大きく減る可能性もある。我々はずっと塀の上を歩いていて、いつ「財政破綻」に転落してもおかしくないのです。 

 

借金大国となった日本は、今後どうすればいいのか……。後編記事『日本の借金「1200兆円」をどうやって返せばいいのか…財政のプロが提示する「選択肢」の中身』にて、引き続き議論する。 

 

「週刊現代」2025年3月8日号より 

 

河村 小百合、藤井 亮二、週刊現代 

 

 

 
 

IMAGE