( 274186 ) 2025/03/12 06:45:46 0 00 ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_
コメの小売価格の高騰が続いている。この先、安くなるのか。経済評論家の鈴木貴博さんは「コメを買うのはタイミングが大切だ。私だったら買うのは4月以降にする」という――。
■実はコメ騒動は「半分」落ち着いている
私の自宅は東京の都心部です。近所のスーパーを回るとコメの価格はほとんどの銘柄で5kgあたり4000円を超えています。農水省が発表する全国のスーパー1000店での平均価格は最新の2月17日の週のデータで3939円ですが、今後発表される3月上旬のコメ価格はさらに上がりそうです。
コメ価格の高騰具合がどれほど異常なのかを振り返ってみると、昨年の今ごろはスーパーの平均価格は5kgあたり2000円程度でした。今と比べると半額で、しかもこの水準がわたしたち国民が長年、コメの価格はこんなものだと考えていた水準でした。
それが「令和のコメ騒動」と言われた昨年の夏には2800円くらいに上昇します。その当時でもずいぶん高いと思ったのですが、今や体感価格は4000円超です。
「新米が出回ればコメ騒動は落ち着く」
という政治家の答弁を信じていた読者の皆さんは、次の選挙に怒りをぶつけたい気持ちかもしれません。
政府もウソを言っていたわけではないのです。昨年の夏、わたしたち国民が困ったのはコメの価格が2800円ほどになったこと以上に、コメがスーパーの棚から消えてしまったことでした。新米が出回ったことで今ではスーパーの棚に普通にコメが置かれるように状況が改善しました。コメ騒動が半分は落ち着いたわけです。
■重要なのはコメを買うタイミング
とはいえ頭が痛いのはコメが4000円もするということです。これから一体どうなるのでしょうか?
先に読者の皆さんにこの記事を読むメリットの話をさせていただきます。これからスーパーに行ってコメを買うなら、その前にこの記事を読んでください。コメを買うタイミングが重要です。
私は未来予測専門の経済評論家です。この仕事のメリットのひとつは、私生活で得をすることです。昨年9月に私は娘とふたりで、ふるさと納税で2024年産の新米を先行受付で30kgほど確保しました。うちと両親と家内の実家の3世帯分でした。
昨年のコメ不足は一昨年の気候変動による不作が原因とされています。未来予測の立場では「だったら2024年の夏も酷暑で不作だったから、コメは新米が出回った後でも供給不足になるはずだ」と予想しました。それで生活者の立場としては、先回りして生活に必要なコメを確保したのです。
寄付額は5kg換算で7000円でした。ふるさと納税にあまり詳しくない方のために説明させていただくと、返礼品の価格は寄付額の30%以内と決められています。寄付を受け入れる自治体は新米の価格を5kg2100円と、相場が元に戻る前提で算定していたのでしょう。その時の寄付では20%のポイント還元も受けたので、かなり安くコメを確保できたと思っています。
■最高値は3月、最安値を狙えるのは6月と予測
実際はその後、新米の出荷時期には経済評論家として予測した通り米相場は供給不足で上昇します。ふるさと納税の新米は、実は予定の10月ではなく遅れて11月にわが家に到着しました。その時点でスーパーのコメ価格は5kgで3400円ほどに上昇しました。
それで現在は4000円を超えたというのが経済の実態です。わが家でも確保したコメはあと1〜2カ月で底をつくので、そろそろ新しいコメを確保する必要が出てきました。では今、買うべきでしょうか?
短期的な話をすると、スーパーでのコメ価格は3月が最高値となるでしょう。読者の皆さんにアドバイスすると、私だったら買うのは4月以降、最安値が狙えるのは6月だと考えています。
理由は政府がようやく重い腰を上げて備蓄米を放出するからです。放出されるコメが市場に出回るのが3月下旬。その前後に転バイヤーと言われる方々も手持ちのコメを放出するでしょうからこの先のコメ価格は一旦冷えるはずです。うまくいけば昨年秋と同水準の3200円ぐらいまで下がるのではないでしょうか。
■コメの小売価格「5kgで2000円」に戻ることはない
今回の放出に関しては直接小売店に届くわけではなく、一旦、農協などの集荷業者にコメが放出されます。そのため農協が価格をあまり下げないように供給をコントロールするだろうからあまり価格が下がらないのではないかという予測もあります。
しかし、もし価格が下がらない場合は、政府から農協に強い圧力がかかります。理由は参議院選挙があるからです。
もし今、選挙をやったら与党は惨敗でしょう。しかし実際の投票日は夏になります。それまでに高校無償化、103万円の壁を160万円に引き上げ、そして備蓄米放出による米への不満解消の3点セットで与党は国民に何としてもアピールする必要があります。ですからコメ価格は悪夢の4000円台から3000円台前半ぐらいまで下がることが政治的に予測できるのです。
しかしなぜ3000円台なのでしょう? これまでのように2000円の水準に戻らないのでしょうか? 残念ながらコメの小売価格が5kgで2000円に戻ることはもうないでしょう。短期的な要因と長期的な要因、どちらもコメの未来はそうだと主張します。
■夏から秋にかけてコメ価格が再び上がる可能性
短期的な要因としては、政府は今回放出する備蓄米を買い戻すと言っていることです。これは備蓄という目的で考えると当然のことです。たとえ起きる確率が低くても、仮に南海トラフ地震や台湾有事が起きた場合に国民に供給する一定量の食糧は当然、政府は買い戻しておく必要があります。
構造的には長年の減反政策でコメの供給量は減ってきています。とはいえ現在コメ価格が異常に高騰しているので、今年については農家の作付面積は自主的に増えることが予想されます。
今年秋の新米を考えると、作付面積が増える効果と政府が備蓄米を買い戻すマイナス効果で、結局のところ供給は大きくは増えないでしょう。それに加えたリスクとして、今年の夏も酷暑でコメの成育が芳しくなかった場合は、結局、夏から秋にかけてコメ価格は4000円台に戻ってしまうかもしれません。選挙が終われば、国民はまた苦しくなるという図式です。
そしてコメの未来に関しては、長期予測の観点で悪い要因がさらに大きいことが重荷になっていきます。私個人のエピソードもふまえてその話をしたいと思います。
■「農家を生かして農業を殺す」戦後日本の農政
私の家は、祖母が農業、父が林業で生計をたててきました。実家は山間部の農業にはそれほど向かない集落にありました。
父が農業ではなく林業を主業にした理由は農地改革です。戦後、私の家は農地を解放する側になりました。祖母が所有していた農地は自分で農業を営める範囲に大幅に減ったのです。一方で山林は戦前同様に所有権が認められたので、父は山林業の方に力を入れることになりました。
結論から言えば先に廃れたのは林業です。木材の輸入自由化があって以降、国内で生産するスギやヒノキには価格競争力がなくなってしまいました。一方で祖母は晩年に入院する前の80代前半までは農業を続けることができました。理由は補助金です。
これは農家では口にすると怒られる言葉なのですが、戦後の日本の農政は農業に従事する立場から見れば「農家を生かして農業を殺す政策」でした。
「どちらをとるのか?」という選択肢としては産業としての農業を伸ばす政策もありえたはずです。戦前のように農業の集約化・大規模化をめざせば日本の自給率も今よりも高かったのでしょうが、農地の大規模化は日本では起きませんでした。
■農業という「産業」よりも「人数」が重要視された
そうなった理由は補助金で小規模な兼業農家が経済的に成立できたからです。農業の競争力が落ちることよりも、農家の生活が安定する政策を政府が優先した理由はやはり選挙です。農協票は与党に必要な票で、産業よりも人数が重要視されたのです。
そしてそのツケが少子高齢化の令和の時代になって、ようやく遅効性の毒のように回ってきたのです。今、農家の平均年齢は67歳です。若い農業従事者の増加はそれほど見込めない一方で、10年たてば平均的な農業従事者は確実に後期高齢者の世代に入ります。当然ですが80代に入れば離農する方が激増します。
私の故郷ではそれまで農地だった場所にどんどん太陽光パネルが敷設されています。農家では働き手が歳をとるにつれ耕作地は減らしていきます。現在のグリーン電力政策はこういった農家の事情にフィットします。働き手が亡くなって相続となれば、相続した耕作地はすべて太陽光パネルにしたほうが経済性に合致します。
下の世代が農業を継がないのは零細農家だからです。コメ農家が専業でなんとかやっていけるようになる耕作面積は10ha以上です。そのような耕作面積を持った農家は、農家全体の5%に過ぎません。95%の農家は経済性に合わない農業を今の世代で終わりにしてしまう。農業はそんな危機に直面しています。
■外食チェーンで食べた「カリフォルニア米」
ただ仮に耕作地が10ha以上の大規模農家が離農せずに次の世代でも全部残ってくれた場合は、コメの生産量は半分以上は残ります。要するに上位5%の農家でコメ生産量の55%を稼ぎ出しているので、コメ生産は半減することはあっても壊滅することはないのです。
では仮に10年後、ないしは15年後、わが国のコメ生産量が半分になったとしたらどうなるのでしょうか?
最近、こんなことがありました。家族で外食チェーンで食事をしていたときに、家内がふとこんなことを言いました。
「このお米、珍しい品種だね」
というのです。私は経済評論家なのでその場で、
「これがカリフォルニア米だと思うよ」
と話しました。
アメリカで生産されるお米の品種は日本と同じジャポニカ種の米も多くて、カリフォルニア米の代表品種であるカルローズの味は日本のお米とそう変わりません。違いとしては生産量が増える方向で品種改良が進んだことでコメの大きさが日本米よりもちょっと大きいのです。家内はそれを不思議に感じた様子でした。
|
![]() |