( 274561 ) 2025/03/14 03:46:52 0 00 大阪府の吉村知事
大阪・関西万博は4月13日の開幕まで、あと1カ月となった。地元の大阪でも盛り上がりはイマイチで、日本国際博覧会協会が公表するチケットの売れ行きは3月5日時点で約800万枚。協会は2820万人の来場者を見込み、開幕までの前売り券の販売目標を1400万枚としてきたが、とても届きそうもない数字だ。1160億円を見込む運営費の大半は入場料収入で賄うことになっているが、このままでは赤字となり、膨らんだ建設費同様、税金を注ぎ込むことにもなりかねない。
大阪府の幹部は、万博の報道を見るたび吉村洋文知事が渋い表情を見せると明かす。
「吉村知事は報道を非常に気にしています。毎日、新聞やテレビ、ネット、SNSまで、知事室で遅くまでチェックしている。万博の入場券の売れ行きが芳しくないという話を見るたび、表情が厳しくなる」
前売り券の販売目標が厳しいうえ、売れた800万枚の多くは、企業・団体向けに販売されたもので、実際の来場者に直結するかどうかは怪しい。大阪のある会社は万博チケットをグループ企業含めて数百枚購入したというが、社長はこんな状況を明かす。
「うちのようなある程度、規模が大きな会社には、何枚買うようにと割り当てがきます。そこで、購入した万博チケットを社内で販売しようとしたが、希望者はごくわずか。今は取引先にお伺いを立て、ただで配っているが、『万博に行きたい人がいない』と大量のチケットがだぶついている。ネットサイトで売ることになるかもしれない」
実際、メルカリなどのフリマサイトや金券ショップでは、万博のチケットが販売されている。万博チケットを個人で購入する際には、「万博ID」を取得して個人情報を入力しなければならず、原則として購入者以外は使えない。だが、企業や団体が購入して、個人の万博IDと後からひもづけるタイプのチケットは、ひもづける前なら転売で入手しても使用できる。協会は不特定の人への転売を禁じているが、不要なチケットを購入した企業・団体からの転売は防げそうもない。
■近づくにつれて「行きたい人」が減少
そもそもチケットが売れないのは、万博に行きたいと思う人が少ないからだ。
朝日新聞別刷り「be」のモニター読者アンケート(2024年6月)では、「万博に行かない」と答えた人が81%を占めた。その理由のトップは「入場券が高い」。実際、一日券の価格は大人(18歳以上)7500円とけっこうな値段だ。前売りや平日だけ利用できる「平日券」などの割引チケットはあるものの、2021年開幕のドバイ万博(UAE)の約3000円、05年の愛知万博の4600円など、過去の万博の入場料と比べるとかなり割高だ。
ほかに行かない理由として、「人混みが苦手」「目玉や中身がわからない」「開催に反対」「よいイメージがない」などが挙げられた。確かに関西万博については、パビリオンの建設が遅れていてパビリオン情報が乏しいし、工事中にメタンガスが発生して事故が起きるなど不安材料が多い。
しかも、万博の開幕が近づくにつれて行きたい人が減少している。三菱総合研究所は万博についての意識調査を半年ごとに実施しているが、直近の24年10月の調査では、「万博に行きたい」と答えた人の割合は24%で、ピークだった22年10月の31%から7ポイントも低下した。24年4月調査の27%と比べても3ポイント落ちている。地域別にみると最も下落が大きかったのが地元の京阪神圏で、22年10月は48%だったのが直近は36.3%で、12ポイント近くも低下した。
入場者増につなげようと、大阪府は、府内の小中高校と支援学校に無料招待を呼びかけている。しかし、府教育委員会によれば、今年1月時点で対象となる1841校、約88万人のうち、来場希望は約58万人だった。昨年7月の調査では約68万人としていたので、10万人が減ったことになる。
大阪以外の近畿圏の小中高校でも無料招待を実施する予定だが、府教委によると、
「学校単位でみても、参加希望はどの府県も半分にも満たない。調査するごとに減っていく。暑さ対策への不安や事前の下見ができないことも響いている」
■希望のパビリオン外れ、「行く気が失せる」
一方で、万博に行きたいと思った人がチケットを購入しようとしても、複雑な手続きが待っている。
当初、万博の入場券のチケットは、事前の電子チケット購入が原則だった。購入するためには「万博ID」の取得が必要で、ネットを使って「万博ID利用規約」と「個人情報保護方針」に同意した後、個人情報として、名前、生年月日、メールアドレスなどを入力していくことになる。これについては手続きが煩雑でネットに不慣れな人や外国人には難しすぎるとの声が噴出し、万博の参加国からも批判されている。
また、「個人情報保護方針」には、方針に同意した場合、名前や生年月日だけでなく、クレジットカード番号、スマートフォンの位置情報や生体情報(顔画像、音声、指紋等)、SNSに関する情報なども含めた個人情報が、「第三者」に提供される場合がある、と記されている。そして、その「第三者」は次のように、かなり幅広い。
〈(1)政府(博覧会に関係する規制当局、外国政府や地方自治体を含みます。)、博覧会国際事務局(BIE)、博覧会への協賛企業、パビリオン出展者等の博覧会の関係者 (2)SNS事業者、広告関係会社、広告配信事業者、データ分析事業者、DMP事業者、媒体社その他当協会が業務を提携する事業者〉
このことも、個人情報提供への不信感につながり、チケット購入をためらう一因になっているとみられる。
さらに、なんとかチケットを購入した後も、難関が待っている。チケットを購入した大阪府内の男性がこう嘆く。
「万博への来場日を決めると、今度は地下鉄かバスかどの交通機関で行き、東西2つある入場ゲートのどちらから入るかなど、その選択まで求められる。そしてパビリオンも予約しないといけないが、予約は抽選となり、行きたいパビリオンに入れるかわからない。私はパビリオン予約、すべて外れました。こんなに面倒で、希望のパビリオンに行けないとなると、もう行こうという気が失せます」
万博協会の副会長も務める吉村知事や関西経済連の松本正義会長らは、今年2月に石破茂首相と面会し、万博入場には事前予約が必要という原則を撤回し、「当日券」と、万博IDを登録しなくても買える「簡単来場予約チケット(仮)」の導入方針を決めた。そもそも事前予約が前提だったのは、万博会場がアクセスの悪い夢洲(ゆめしま)にあるため、来場者が殺到して事故が起きないようにという理由だった。だが、あまりにもチケット販売が不振なため、なりふりかまっていられなくなってきている。
■「万博に出せる予算はもうない」
前回のドバイ万博はコロナ禍で1年遅れの21~22年に開催され、192カ国が参加した。参加国が独自のパビリオンを持つ、「1国1館」制を導入したが、やはりコロナ禍の影響もあり、当初は集客に苦戦した。
そこで、ドバイのキャリアフラッグであるエミレーツ航空に搭乗した乗客には航空券1枚で1日券を無料にするキャンペーンを実施。コロナのPCR検査費用も無料とするなどの対策を打ち出し、最終的に来場者は約2400万人となり、目標に達した。外務省の幹部がこう説明する。
「コロナ禍での開催とあって、期間中にパビリオンでもコロナ感染者が出るなど入場者数が低迷した。すると、ドバイ政府は矢継ぎ早に、入場料無料などの対策を打ち出した。最後は、無料を前面に打ち出して、かき集めるようなかっこうで2400万人を確保した感じだ」
2010年の中国・上海万博は来場者が7308万人で、それまで最多だった1970年の大阪万博の6400万人を超え、過去最多を記録した。
上海で長く日本料理店を経営する男性は、こう振り返る。
「世界最多の入場者数を、という掛け声でしたが、入場料は日本円換算で大人1人3000円弱と、当時の地元ではちょっと高め感がありました。上海市は、入場者数を増やそうと市内の全家庭に1枚ずつ入場券を配布し、地方からも特典をつけて入場者を集めていた。国威発揚な感じもあって、うちの従業員も急に万博に行くと店を休んでいました」
大阪・関西万博では建設費が当初の1250億円から最大2350億円に膨れ上がり、税金投入に厳しい声が出ている。入場料収入が見込みに達しなかったとき、さらに税金を投入することになると、大きな批判を浴びることは間違いない。
冒頭の大阪府幹部はこう話す。
「ドバイ万博や上海万博のなりふりかまわない集客作戦について、情報としては聞いています。でも、こちらはすでに建設費などが膨れ上がり、万博に出せる予算がないのが実情。これ以上のウルトラCなんて、とてもじゃないが無理です」
万博は4月13日から10月13日までの半年間。10月の閉幕時に、吉村知事はどのような表情をしているだろうか。
(AERA dot.編集部・今西憲之)
今西憲之
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