( 274721 ) 2025/03/14 06:48:27 0 00 Photo by Shogo Murakami
日本酒「獺祭」を世界的なブランドに育てあげた旭酒造。6月1日から社名を(株)獺祭に変更する。会社名とブランド名を一致させ、「売上高1000億円が目標。そのうち海外が700億円」と表明した覚悟とは。陣頭指揮を執る桜井博志会長に、リーダーシップについて語ってもらった。(旭酒造代表取締役会長 桜井博志、構成/石井謙一郎)
● 組織には「2・6・2の法則」がある 仕事ができない2割は放っていい
どんな場合でも組織のリーダーは、メンバー全員に賛同してもらおうと考える必要はありません。キーになる人たち何人かだけ、ついて来てくれたらいいんです。
組織には「2・6・2の法則」があると言われます。優秀な人が2割、普通の人が6割、優秀でない人が2割で構成されるという考え方です。100人の組織とするなら、やる気のある者が20人いて、60人がどっちつかず。残りの20人はやる気がない。
私は、下位の20人は放っておきます。不満を抱える人や反対派の説得などするのは、手間暇がもったいないからです。まず、やる気のある20人だけで走り始めれば、真ん中の60人は引っ張られてついて来ます。そうなったら、残りの20人がどっちを向いていても、全体として組織は動き始めるものです。
「この指止まれ」じゃないけど、手を挙げてくれる人たちを中心に進めていくしかないと思います。
昨年11月から、「獺祭の会」というイベントを始めました。お客様に私たちの思いを直接お伝えし、獺祭の魅力をもっと知ってもらうために、酒販店や百貨店での試飲販売会、飲食店やホテルでのイベントなど大小さまざまな催しを、日本各地だけでなく海外も含めて1年間に1000回、開催するのが目標です。単純計算でも1日に3カ所ですから、社長と会長、営業スタッフだけではとても手が足りません。
製造部門から参加希望者を募ることにして、「やる気のあるメンバーを集めといて」と部長に指示しました。200名ほどの部署ですから20〜30人だろうと予想していたのですが、100人を超える社員が手を挙げてくれました。製造部長は「自分も、自分も、ということで、この人数になりました」と笑っていましたが、こういう熱にあふれた社員に囲まれているのは本当に幸せです。
● 先の見通しが、リーダーには必要 情報の出し方も大切
私は彼らに、「自分たちが各自の製造現場で何を思い、何を目標とし、何をしているかを、そのまま話してほしい」「君たちがやっている酒造りについて自信をもって話すだけで、お客様に大きな感動を与えます」と伝えました。
こちらからメンバーを選ばずとも、相思相愛みたいな人たちが集まって来るんです。話してみて何となく波長が合うとか、この人の言うことは分かるなとか、仕事の好き嫌いが合うといった感覚だと思います。
そのような人たちを巻き込んでいくには、情報の出し方も大切です。キーになるこの人とこの人には、前もって話しておかなきゃいけないとか、同志になってもらわなきゃいけないとか先の見通しが、リーダーには必要です。
2・6・2の下の2割の人たちについて言えば、良いと評価した人間を採用しているわけなので、最初から下の2割なのではありません。蜂の中にも働くのと働かないのがいて、働く蜂だけ集めても、やっぱり2・6・2に分かれると聞きます。それが自然界の法則なんでしょう。
やる気のある上の2割にだけ説明すればいいと言うと、残りの8割を切り捨てているように見えますが、仕事を動かしていくときはそういうものだと思います。組織全体が上手く回って成果が上がれば、下の2割の人たちも努力以上に優遇されます。だから、特に気を遣う必要はないんです。
1月に開いた経営戦略発表会で、「現在の社名・旭酒造(株)を、6月1日から(株)獺祭に変更する」と発表しました。1990年に獺祭を発売して、2004年には扱う銘柄が獺祭だけになりました。会社名とブランド名を一致させるのは、より強いブランドとして世界の市場を深掘りし、プレミアム化を目指すためです。社名変更は、その意志を示すことにもなります。しかし、ずっと山口県岩国市においている本社を、東京などへ移転させる考えはありません。
社名変更によって、総務部門などでは煩雑な仕事が増えますが、短期的なデメリットを乗り越えるだけの長期的なメリットは明らかです。理屈上、絶対に正しくて必要なプロセスですから、社内に抵抗はありませんでした。
経営戦略発表会では、「国内300億円、海外700億円、合わせて1000億円の売り上げを目指す」ことも表明しました。私が社長に就任した1984年には1億円にも満たなかった売り上げが、昨年度は過去最高の195億円に達しました。それに比べても1000億円は非常に大きな数字ですが、「達成できるのか」と社内に動揺が走ったりはしません。
● 社員にはプレッシャーをかけない 全員が努力できる環境を作るのが大切
社員にはプレッシャーをかけないからです。プレッシャーを感じるべきなのは、その目標を決めた社長と会長だけです。
リーダーの仕事は、強い意志を示して目標を追いかけることです。そうした姿を見ていれば、社員はみんな「自分たちも同じようにやればいいんだ」と安心します。社員にはプレッシャーを与えるのでなく、目標に向けて全員がストレートに努力できる環境を作り、成功体験を重ねてもらうこと。これもまた、リーダーにとって大切な仕事です。
人間の成長とは結局、細かな成功体験の積み重ねでしょう。だから、成功する仕事を常に計画することが大事なんです。社員が成功体験をもてないとしたら、リーダーや事業に無理があるんです。
無理のある仕事をさせれば上手くいかないのは当然で、それを何度もやらされれば自信喪失して、出来ることも出来なくなります。大きすぎるノルマを課す、成功の見込みが薄い仕事を与えるのは、大きな問題です。
まぁ、口で言うのは簡単ですけどね(笑)。
桜井博志
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