( 275591 ) 2025/03/17 07:17:17 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
物価高騰の波が押し寄せ、家計を圧迫するニュースが続く昨今。「宝くじでも当たれば……」と、一獲千金を夢見る人も多いのではないでしょうか? 2025年3月18日は第1041回全国自治宝くじ(通称バレンタインジャンボ)の抽選日です。今年の発行枚数1億1,000万枚。当選本数が11本の1等2億円に当選する確率は、1,000万分の1です。しかし、極めて低い確率ながらも、実際に高額当選を手にする幸運な人々がいるのも事実です。2025年バレンタインジャンボ宝くじの本記事では、宝くじ高額当選者のその後について、本人の許諾を得てプライバシーのため一部脚色し、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。
65歳の田中修一(仮名)さんは40年間、衣料小売業で働き続けてきました。以前は営業として活躍していましたが、30代前半に重い肝炎を患い、長期入院を余儀なくされました。復職後は体力的な理由から営業職を離れ、内勤の事務職へと異動。以来、店舗の発注業務や売り上げ集計など、裏方の仕事を淡々とこなしてきました。
会社の規模は大きくなかったものの、コツコツと真面目に勤め上げ、職場での人間関係にも恵まれていました。ただ、田中さん自身は「病気さえしなければ、もっと収入のいい営業職で出世できたかもしれない……」という思いを常に抱えていたといいます。
退職後は月額15万円の年金(5歳年下の妻は月額7万円)と退職金600万円、貯金800万円で質素に暮らすつもりでしたが、老後の生活に大きな不安も感じていました。そんな田中さんの唯一の楽しみは、月に数回、趣味として購入する宝くじでした。
「いつか大当たりを引き当てるぞ」そう意気込み、毎月5,000円ほどを宝くじに費やしていたのです。
そしてついに、その「いつか」がやってきます。退職を2ヵ月後に控えたタイミングでした。信じられないことに、1億円の高額当選を果たしたのです。「まさか本当に当たるとは……」当選の喜びに震えながらも、誰にも打ち明けることができませんでした。
妻には「そんな大金を持ったら人生がおかしくなる」と言われ続けていましたし、友人に話せば、たかられるのではないかという不安があったからです。なお、宝くじの当選時、田中さんは当選者向けのハンドブックを受け取りました。資産管理や周囲への対応などについて書かれた内容でしたが、「こんなものを読んでいるところを妻に見つかったら……」とついビクビクしてしまい、ほとんど目を通すことなく引き出しにしまい込んでしまいました。
「せっかく当たったんだから、少しぐらい贅沢してもいいだろう」
当選から半年が過ぎたころ、そのような思いが沸々と湧き上がってきた田中さん。いつか乗れたらなあ、と夢見ていた高級国産車を購入。妻には「退職金で買った」と嘘をつき、訝しがる妻を日帰り温泉旅行へ誘いました。
実は、この旅行でいよいよ妻に打ち明けようと思っていたのです。しかし、「妻が親戚や友人などに話してしまったら」と疑心暗鬼になってしまい、結局話すことができませんでした。秘密を抱えながらの生活は、むしろ空虚さを募らせるばかりでした。
「本当は妻と一緒に楽しみたかったのに」
後悔の念が日に日に強くなります。
また、お金の管理を一人で行うプレッシャーは想像以上に重いものでした。田中さんは投資の知識がほとんどありませんでしたが、「銀行に置いておくだけでは資産が目減りする」というネット記事を読んだことで焦り、株や不動産に手を出すようになります。
最初は株式投資から始めました。証券会社の営業マンから「安定した成長が期待できる」と勧められた銘柄に1,000万円を投資。その後、「AI関連銘柄は今後伸びる」と、いわれるがままに追加で500万円を投入しましたが、世界的な経済情勢の悪化などの影響で株価は下落。損切りした時点で、合計800万円ほどの損失となりました。
さらに、不動産投資セミナーに参加。「需要が安定している」という触れ込みで、地方の中古アパート物件に1,500万円を投資しましたが、入居者が思うように集まらず、半数以上が空室の状態に。物件の価値も当初の査定よりも下落し、売却するにも大幅な損失が避けられない状況となり、維持費だけがかさんでいきました。
そして最後の痛手となったのが、比較的安全と思われた外国債券に残りの資金から1,000万円を投入したことです。仕組みをよく理解していなかったため、実際には円ベースで元本割れ。500万円ほどの損失が出てしまいました。
気づけば退職から5年が経過し、総額で3,500万円ほどが目減り。さらに、高級車の維持費や、妻に内緒で楽しんでいた趣味の費用などで、少しずつ資産は減っていきました。田中さんは冷や汗をかきながら残高を確認し、現実を直視せざるを得なくなりました。そしてようやく「このままではいけない」と危機感が募ります。
一方、前々から田中さんの変化を察していた妻は、彼に不信感を抱くようになりました。
「最近、夜も起きてパソコンに向かっているけど?」
「なにか隠してるでしょ?」
ある日、隠し続けていた宝くじ当選の事実と、その後の資産の大部分を減らしてしまったことが妻にバレてしまいました。妻は激怒し、「どうして相談しなかったの? 一緒に考えればよかったのに」と詰め寄ってきたものの、なにも言い返すことができず、結果、夫婦仲はぎくしゃくした状態になってしまいました。
現在、田中さんは「もう取り返しがつかない。愚かだった」と激しく後悔しています。残ったお金は5,000万円ほどに減少。夫婦で充実した老後を、と願っていたのに、妻の信頼も損ない、1人寂しく食卓でスーパーの惣菜で晩酌する日々を送っています。
なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか?
高額当選は夢のような出来事ですが、適切な知識と管理能力がなければ、かえって不幸を招くことにもなります。お金は計画的に管理し、家族や専門家と相談しながら慎重に運用することが重要です。田中さんのような後悔をしないためにも、高額当選した場合の正しい対処法を挙げておきます。
・当選の事実は信頼できる家族や専門家にのみ打ち明ける
・生活水準を急激に変えず、計画的な資産運用を心がける
・怪しい投資話には絶対に手を出さない
・必要に応じて、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する
お金は人生を豊かにする道具に過ぎません。長い人生で築いてきた絆や信頼関係は、一瞬で失われることもあります。お金では買えないものこそ、大切にすべきではないでしょうか。
1,000万円以上の当選者には「その日から読む本」といったハンドブックが渡されるそうです。それほど、高額当選は人生を変える可能性を秘めているのです。それを活かすも殺すも、当選者自身の判断にかかっているといえます。
それでも田中さんには、わずかながら希望の光も見えています。妻との関係修復に向けて、田中さんは残った資金の運用をファイナンシャルプランナーに相談する道を選びました。「もう一度、妻と一緒に人生を歩んでいきたい」という思いから、無理な投資は一切やめ、妻を大切にする日々を送っています。2人で一緒に老後の計画を立て直し、少しずつ信頼関係を取り戻そうとしているのです。
三原 由紀
合同会社エミタメ
代表
三原 由紀
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