( 275811 )  2025/03/18 05:59:28  
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 3月4日、2025年度当初予算案が、自民・公明・維新の賛成多数により衆議院を通過した。新年度予算に盛り込まれたのは高校授業料の無償化だ。NHKによると「高校授業料の無償化では、来月から公立高校を実質的に無償化し、来年4月からは私立高校を対象に加算されている支援金の上限額の所得制限を撤廃し、私立の全国平均の授業料である45万7000円に支援金を引き上げる」という。今回の予算通過で重要な鍵を握っていた日本維新の会共同代表の前原誠司氏は「次は大学無償化に取り組みます。制度設計を策定した上で」とSNSに投稿し波紋を呼んでいる。日本維新の会が設置するガバナンス委員会に招聘される経済学者の竹中平蔵氏はこのことについて「大反対だ」と述べるーー。 

 

 私は長年、日本に政党法が必要だと主張してきました。なぜなら、日本の政党の党員数があまりにも少ないからです。自民党でさえ党員数は国民の1%以下しかありません。自民党の党員数は100万人程度で、次に共産党が30万人ほど、他の政党はほとんど10万人以下です。このような構造が成り立っている理由は、企業や団体から資金を得ていることも一つ理由にあげられます。結局これによって党が掲げる政策が企業や団体の影響を受けているという現状もあります。 

 

 日本で党員数が少ない理由は、党員になることに魅力がないからです。例えば、自民党員になっても総裁選の時に実質的な投票権はありません。最初の投票で50%が国会議員票で、2回目の投票はほとんど議員投票。実質的に国会議員が決めています。他の国では党員がもっと代表を選べる仕組みになっています。 

 

 アメリカなどでは分かりやすいですが、党員が大統領候補を選ぶことができます。だからこそ数千万という党員を民主党も共和党も持っています。もし日本でも自民党総裁を党員が自分で選べるようになれば、党員数は100万人ではなく、すぐに1000万人になるでしょう。党員の会費が収入源になるだけでなく、党員による監視も強まるので「政治とお金」の問題も解決します。 

 

 日本は間接民主主義だから今のままでいいという意見もありますが、間接民主主義の国でも、ヨーロッパの国々ではもっと党員の力が大きくなっています。また、一部の学者からは党の右翼的な意見が拡大することを危惧して「党員の力を増やすと危険だ」という意見もありますが、それは民主主義の否定です。 

 

 

 アカデミズムの中でも自分の気に入らない意見を排除しようとする人がいるのには愕然とします。 

 

 むしろ、党員数が少ないからこそ、一部の人だけで意見が偏ってしまう危険性があります。党員数が大きくなれば、全体の意見に近づくはずです。自民党だけでなく、アメリカの共和党や民主党もスペクトラムがあり、様々な意見の人が存在しています。 

 

トランプが選ばれた現象についても、私は最終的に人々が民主党でも共和党でもない人を選んだのだと思います。ワシントンのエスタブリッシュメント全体を否定したという感じです。日本にも似たような状況があるかもしれません。 

 

 さて、そんな中で私は日本維新の会が設置する党の「ガバナンス委員会」の委員になることになりました。維新の会からの打診をお受けした理由については、党というよりも日本全体の政党ガバナンスを高める必要があるという問題意識があったためです。 

 

 維新の会については、橋下徹さんや松井一郎さん、吉村洋文さんを見ると、彼らは「保守の改革派」だと言えます。自民党は保守ですが、改革的ではありません。非常に保守的で既得権益に支持を得ています。そのため、自民党ではない保守の改革派である維新に対して、多くの人が期待していました。 

 

 しかし最近の維新は、前原誠司さんが共同代表になるなど、色が変わってきた印象があります。前原さん自身も基本的には保守の改革派ですが、教育の無償化など特定の政策に偏っている感があります。維新の会は「保守の改革派」として何を当面の戦略的アジェンダにするかという点で、まだ意思決定がうまくできていない印象です。 

 

 さて維新のガバナンスについて度々批判にあがっていますが、例えば議員が情報を漏らしたり、選挙で方針が二転三転したりする問題は、他の政党にも共通しています。これは維新に限った問題ではなく、日本の政党全体のガバナンスの問題です。 

 

 ただ、維新の場合は新しい政党なので、リーダーシップの確立が難しい面があります。大きな政党では「フォロワーシップ」が重要です。決まったことをちゃんと守るフォロワーシップを確立するためには、強いリーダーシップが必要です。 

 

 

 私が維新にアドバイスするとすれば、橋下徹さんに復帰してほしいということです。維新は橋下さん、松井さん、吉村さんが揃って初めて「維新」なのです。ファウンダーは重要です。ソフトバンクは孫正義さんがいるからソフトバンクであり、ニデックには永守重信さんがいるからニデックなのと同じです。 

 

 橋下さんは2010年頃に代表になり、5年間務めました。同じ頃、野田佳彦さんが民主党の代表になりましたが、野田さんは今回復帰しました。橋下さんは55歳で、まだ若いです。無理は承知ですが、橋下さんの復帰が望ましいと思います。 

 

 維新には戦略的アジェンダをしっかり立てることと、新しい政党でフォロワーシップが弱いため、より強力なリーダーシップが必要です。 

 

 さて、維新が推進している教育無償化については、私は正しくないと思います。現在の維新の議員がどこまで教育無償化を心から正しいと思っているのか疑問です。これが本当に改革なのか、私には疑問があります。 

 

 高校の私立無償化ですら、私立無償化したら公立高校の存在意義が問われます。無償化するなら、高校の義務教育化を一体でやるべきです。「次は大学無償化」と掲げたことについては大反対です。 

 

 大学は教育投資をして投資収益が高いものなので、無償にする必要はありません。大学は高等教育機関であり、全員が行くべきところでもありません。高校無償化にしても、高校に行かない人もいるわけですから、高校に行くために使いたい人と別の目的に使いたい人がいます。 

 

 そういう自由度を与える形の給付の方がよいでしょう。ベーシックインカムも給付ですし、給付付き税額控除も給付です。維新はかつてそういう主張をしていました。維新にはそういう原点に帰ってほしいと思います。 

 

 また、前原さんが突然共同代表になったことについても、さまざまな意見がみられます。「もともと旧民主党、国民民主党の出身の外様なのにいきなり代表なのはおかしい」という批判は出ていますが、それはちょっと違うと思います。 

 

 面白くない人いるでしょうが、自民党では石破茂さんも中川昭一さん二階俊博さんも自民党の議員ではない時代もありました。そういう人はたくさんいますが、他党から移ってきた人を受け入れる土壌も良い党には必要です。みんなで決まったことはみんなで守るという組織文化は重要です。 

 

 維新の会は、「保守の改革派」として多くの国民から期待されてきました。しかし、最近はその独自性が薄れ、自民党や公明党と似たような政策を掲げるようになっています。 

 

 維新の会が再び改革政党としての存在感を示すためには、繰り返しになりますが、創設者である橋下徹氏の復帰が望ましいです。今の維新には強力な推進力が必要なのです。 

 

竹中 平蔵 

 

 

 
 

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