( 276216 )  2025/03/20 03:33:08  
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ズワイガニを手に笑顔を見せる斎藤知事 

 

兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑や、疑惑を告発し昨年7月に自死した元西播磨県民局長・Aさん(享年60)に対する斎藤知事主導の告発者探しや処分が適正だったかどうかを調べた、弁護士らでつくる第三者委員会が3月19日、調査報告書をまとめた。Aさんへの調査を「違法」と断定し、少なくとも10件のパワハラを斎藤知事が行なったと認定した。さらに、組織の幹部は人を傷つける発言を慎めとも警告した。斎藤氏にとって「予想をはるかに超える厳しい内容」(県職員)になった。  

 

斎藤知事の問題は、約1年前の昨年3月12日、当時定年退職を間近に控えたAさんが匿名でパワハラや公金不正支出疑惑など7項目を書いた告発文書を、県警や県議、メディアなど10か所に郵送して始まった。  

 

この告発内容の真偽を調べるため県議会は調査特別委員会(百条委)を昨年6月に設置。第三者委員会はこれとは別に昨年9月に発足し、斎藤知事本人ら関係者の事情聴取を行なうとともに情報を受け付けるホットラインを設置。ここに116人の現・元職の県職員が情報を寄せたという。  

 

その結果、第三者委は告発文書に記載があったものを含め、パワハラの疑いがあるとみた16の斎藤知事の言動を分析し、うち10件はパワハラに該当すると判断した。 

 

「斎藤知事は、県幹部らとの会議会場の建物のそばまで公用車が入れず、20m歩くことになったとして県職員を叱りつけたことが告発文書に書かれていました。 

 

その他にも、すでに予算化されている県の施策について『こんな話聞いていない』『資料に入っていたら知事が全部知っていると思わないように』と担当者を叱責し、予定された協議に入らなかったなど、部下の立場からすればどうしようもないような言動も第三者委の検討の対象になりました」(地元記者) 

 

こうした行為を報告書は「指導の必要性がない」「怒りに任せて職員を論難した」「相手の職員に精神的衝撃を与え、職員は畏怖し、その職場環境は悪化した」としてパワハラに当たる、と判断した。 

 

「3月5日に県議会本会議が了承を議決した百条委報告書も、斎藤知事のパワハラについて、『パワハラ行為と言っても過言でない言動があった』と事実上のクロ認定をしていますが、それよりも明確に不当性を指摘しています」(地元記者) 

 

パワハラと同時に目を引いた斎藤知事のおねだり疑惑については、贈収賄と評価できる事実はないとして、違法性は認められないと第三者委は判断した。 

 

ただ「斎藤知事による贈答品の要望とも受け取りうる発言が複数件で見受けられ、農産物や食品関係を多く贈与されて自己消費していたことは事実」と明記。 

 

「斎藤知事は漁協を訪れた際に用意されたお土産のズワイガニを、受け取りを辞退した随行職員の分まで持って帰っています。県との間で一定の利害関係がある組合から贈与されたものだけに『違法な収賄とはいえなくとも、知事も受領しないことが望ましかった』と、ほとんど“グレー”認定です」(県議会関係者) 

 

 

告発文書に挙げられた他の5項目は指摘の事実は認められなかったと判断したが、報告書がこれらと並んで重きを置いて調べたのが、斎藤知事が主導して告発文書の発送者をAさんと特定し処分した問題についてだ。 

 

斎藤知事は告発文書の存在を知った直後の昨年3月21日、当時の片山安孝副知事(昨年7月に辞職)ら側近に命じて告発者捜しを指示。メールの解析からAさんに目星をつけた片山氏は、同月25日に事情聴取したAさんに文書の作成と配布を認めさせ、Aさんが使っていた県の公用パソコンを取り上げている。 

 

その2日後の3月27日に斎藤知事は記者会見で、告発は「嘘八百」で、Aさんは「公務員として失格」などと非難し、予定されていたAさんの退職をやめさせた県は5月に停職3か月の懲戒処分をAさんに科している。 

 

「それだけではありません。片山氏が取り上げたパソコンの中にあった私的なデータを当時の井ノ本知明総務部長がプリントアウトして県議らに見せて回り、設置直後の百条委では当時維新の岸口実、増山誠両県議がこのデータの開示を執拗に求めました。 

 

彼らはみな“斎藤派”で、私的データの内容を暴露してAさんを貶め、告発には信用性がないと印象づけるためだったとみられます。データ内容が出回ることに苦しんでいたAさんは、昨年7月に自死しました」(Aさんの友人) 

 

斎藤知事らが匿名の告発者を特定し処分した行為は公益通報者への不利益な取り扱いを禁じた公益通報者保護法違反の疑いがあると百条委で複数の専門家が指摘。百条委はこれについて「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と結論づけた。 

 

さらに、同法には処罰規定がなかったが、今回の事件を機に、通報者を処罰した者は6か月以下の拘禁刑を科すなどと定めた改正法案が3月4日に閣議決定されている。 

 

第三者委は斎藤知事らのこの行動についても、百条委以上に踏み込んだ断固とした判断を出した。 

 

「まず、Aさんの文書送付が公益通報に当たることを明確にした上で、文書に疑惑の当事者として書かれた斎藤知事や片山氏が調査を指示したり処分に関与したりしたことは法の趣旨に反し『極めて不当』と指摘しました。その上で、Aさんのメールを調査し事情聴取やパソコンを取り上げたことは『違法である』と言い切っています。 

 

県は取り上げたパソコンの中にあった文書をもとに発見したとする3つの問題行動と、告発文書を出したことの計4つの理由を挙げてAさんを処分しましたが、告発文書の作成と配布を理由とした処分は『違法、無効』と断じています」(地元記者) 

 

 

これだけ問題が多いと指摘される告発者捜しについて斎藤知事は「(告発文書は)誹謗中傷性が高く、公益通報ではない」として、処分は妥当だったとの考えを変えていない。 

 

それどころか、百条委報告で違法性の指摘を受けた3月5日には記者会見で、Aさんのパソコンには「わいせつな文書」があったと言い始め、情報公開請求があれば開示を検討することも示唆した。これには県職員から「井ノ本総務部長や岸口、増山両県議がやったAさんを貶める印象操作を自らやり始めた」と強い批判が起きている。 

 

第三者委の報告書はこの経緯に触れた上で、結語で「本調査委員会が最も述べたいこと」として「組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべき」とまで言及した。 

 

これにかぶせて第三者委のトップを務めた藤本久俊弁護士は報告書公表後の記者会見で、斎藤氏が昨年3月にAさんを「嘘八百」「公務員失格」と発言した自体が「パワハラであった」と断言した。 

 

「斎藤氏が示唆したAさんのパソコンの中身の開示は、公益性がないとして3月18日に県人事課が行なわないことを決めました。藤本委員長は会見でこのことに触れ、『県は自浄力を発揮していただいたなと、少しほっとした気分でおります』と発言しました。その目は心なしかうるんでいるように見えました」(地元記者) 

 

Aさんの告発の正当性と、処分の不当性は、ほとんど動かしがたいほど評価が固まった。今後の斎藤知事の言動に注目が集まりそうだ。 

 

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

 

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