( 276511 ) 2025/03/21 04:04:55 0 00 地下鉄サリンから30年 オウムへの懸念は消えず 若者を狙う後続団体の勧誘手法とは
1995年に発生した地下鉄サリン事件から30年が経った。かつてオウム真理教は高学歴のエリートを取り込んでいたが、今なお教団への懸念は消えていない。長年、オウム真理教事件を取材してきたテレビ朝日・清田浩司社会部デスクが、東大出身の元教団幹部を取材した。こうしたなか、「現代社会はカルトに対して脆弱」という懸念の声も聞かれる。
地下鉄サリン事件発生前から、教団は暴走を続けていた。
1989年11月、脱会支援に携わっていた坂本堤弁護士一家が殺害された。1994年6月には、長野県松本市の住宅街でサリンを噴射し、多数の死傷者が発生した。
その後も事件を重ね、1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生した。そして、同年5月には麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚が逮捕された。
オウム真理教は宗教法人格を剥奪された後も、名前を変えて存続している状況だ。公安調査庁によると、分裂した3つの団体が今なお活動を続けている。
「アレフ」は、松本元死刑囚への帰依を明示している。公安調査庁によると、今年1月に行われたアレフへの立ち入り検査で、松本元死刑囚の写真が祭壇に飾られている様子が確認された。おととし4月の立ち入り検査では、“松本元死刑囚の脳波データを注入する”とされるヘッドギアの使用も確認された。
「山田らの集団」も、アレフとは一定の距離をとりつつ、松本元死刑囚への帰依を示しているとみられる。昨年12月の立ち入り検査では、松本元死刑囚の唱える言葉を電気信号化したデータを流して作るとされる「甘露水」のタンクが確認された。昨年9月には、松本元死刑囚の著書を教材として活動していることも確認された。
一方、上祐史浩氏が設立した「ひかりの輪」は、“麻原隠し”を徹底し、処分を免れる取り組みを強化しているとされる。“麻原ゆかりの地”と独自に位置付けた神社仏閣などを「聖地めぐり」として繰り返し訪問するなど、本質的な部分を維持しているとみられる。
公安審査委員会は3つの団体に観察処分を行い、アレフに対しては施設の使用などを禁止する再発防止処分も実施した。ちなみに、国内の構成員は3団体合わせて約1600人に及ぶという。
公安調査庁によると、オウムの後継団体は若者を対象に勧誘を続けているとされる。過去10年における3団体の新規構成員は、地下鉄サリン事件などの知識がない20代から30代の若い世代が7割を超えている。
では、どのような手口で勧誘を行っているのか。
アレフでは、団体名を隠し、SNSで偽装サークルを設定して仲間を募集。「メンタルヘルス講座」などをうたい、対象を30歳以下に設定しているという。
構成員が講師や補佐役として登場し、講義や雑談を通じて距離を縮める。「地下鉄サリン事件はオウム真理教以外のものによる陰謀だ」などと説明し、団体への抵抗感を持たないよう誘導しているとみられる。
さらに、入会に応じると判断した段階で、団体名を明かして入会を促す。ためらう相手には「今まで学んできたことが無駄になる」などと強い口調で詰め寄り、断りづらい環境に追い込み、入会させるという。
さらにアレフは、公安調査庁から資産隠しを指摘されている。アレフは事件などの被害者や遺族を支援する「オウム真理教犯罪被害者支援機構」に対し、2018年以降は10億円に上る損害賠償残債務の支払いを一切行っていない状況だ。
アレフが団体規制法に基づき報告した資産は、2019年の約13億円から2023年には約1700万円へと減少している状況だが、実際には少なくとも8億円の資産を保有しているとされている。
公安調査庁は、アレフが実質的に経営する複数の収益事業においても資産が報告されていないとして、賠償逃れと資産隠しを指摘している。この指摘について、テレビ朝日はアレフ側に質問状を送ったが、回答はなかった。
かつてオウム真理教は高学歴のエリートを取り込んでいた。教団の中枢にいた上祐史浩氏、村井秀夫元幹部、豊田亨元死刑囚はいずれも高学歴の理系エリートだった。
テレビ朝日・清田社会部デスクが、東大理学部出身の元教団幹部を取材した。
元幹部は「ノーベル物理学賞を目指したが、逆立ちしても勝てない先輩がいて、挫折感を感じた。(バブル)で周囲の学生が浮かれている状況に違和感があった。絶対的なものにすがりたかった。一切の魂を救済する松本元死刑囚に傾倒した」と述べた。
当時、松本元死刑囚は信者たちに「世紀末にハルマゲドン(世界最終戦争)が起こる」と説き、教団の武装化を進めた。
こうしたなか、「当時よりも今の社会がカルトに対して脆弱になっている」との懸念もある。アメリカを中心に、ネット上で極端な陰謀論を拡散しているのが「Qアノン」と呼ばれる陰謀論を信奉する人たちだ。
Qアノンは「世界はディープステート(闇の政府)に支配されている」と主張し、2021年の米連邦議会襲撃事件にも信奉者が関与した。Qアノンはネットなどを介して、日本にも広がっているという。
日本でも、陰謀論はたびたび広がっている。昨年の能登半島地震では「地震の原因は人工地震」とされる根拠のない情報がSNS上で拡散された。オウム真理教も、1995年の阪神大震災を「地震兵器による攻撃」と主張していた。
カルトにはまる心理に詳しい立正大学心理学部・西田公昭教授は「陰謀論は『真実を知った』という高揚感を感じさせる。インターネットの『フィルターバブル』、自分と同じ傾向の情報に囲まれる状態では、陰謀論のような情報に一度触れると、その考えから抜け出せなくなる傾向がある」と指摘している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年3月20日放送分より)
テレビ朝日
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