( 276601 )  2025/03/21 05:51:15  
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「楽しい日本、これを国民の皆様方と共につくり上げていきたい。『今日より明日は良くなる』と実感し、自分の夢に挑戦し、自己実現を図っていける。そういう活力ある国家であると考えています」。そう石破茂総理大臣が語ったのは2025年1月6日の年頭記者会見だ。しかし、今のところ何も楽しくはない。多くの国民が期待を寄せた「103万円の壁」見直し議論は思うように進まず、米の価格は上がり続けた。そしてガソリン税の暫定税率廃止も与党は動かない。国民の生活を蔑ろにしたあげく、身内の自民党新人議員には10万円分の商品券をばら撒いた。 

 

 そうした中で各新聞が公表した最新世論調査では、石破内閣支持率の大暴落が報じられた。毎日新聞が3月15日、16日に実施した調査では内閣支持率は23%(前回30%)で不支持率は64%(前回54%)となった。一体何が起きているのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

「国家のためには、受けないことでもやらなければならない。受けることばかりやっていると国は滅びる」と、3月8日の党会合で石破茂首相は述べた。その直後、国民には減税を見送り増税を押し付けながら、自民党議員には10万円の商品券を配布していた。言行不一致も甚だしい。「国家のため」という言葉は、結局、権力者や特定の既得権層にとって都合よく使われることが多い。国民に負担を強いる一方で恩恵を受けるのは、財界や政官の癒着構造ではないのか。「国家のため」という言葉に騙されるほど、国民は愚かではない。 

 

 石破首相の支持率は急落している。朝日新聞社が3月15日と16日に実施した全国世論調査によると、内閣支持率は26%にまで低下した。前回2月調査の40%から大幅な下落であり、昨年10月の内閣発足以降で最低の数値である。不支持率は59%で、前回の44%から急増した。 

 

 支持率の低下には、商品券配布問題が大きく影響している。石破首相が自民党の新人議員15人に対し、1人あたり10万円の商品券を配布した行為は、政治倫理と法的遵守の観点から重大な問題である。石破首相は「会食の土産代わりに、私自身のポケットマネーで用意した」と説明し、政治資金規正法や公職選挙法には抵触しないとの認識を示している。 

 

 しかし、政治資金規正法第21条の2では、個人が政治家の政治活動に対して寄付を行うことを禁じている。 

 

 

 商品券配布がこの規定に抵触する可能性が指摘されている。法の趣旨を無視した行為であり、国民の信頼を大きく損なうものだ。 

 

 さらに、首相公邸という公的な場で会食を行い、その場で高額な商品券を配布する行為を「政治活動とは無関係」とする首相の主張には無理がある。専門家からも、倫理観の欠如が露呈しているとの指摘が相次いでいる。こうした行為は到底許されるものではない。 

 

 石破首相は過去の会合でも同様の方法で商品券を渡したことがあると述べている。これが常態化していたとすれば、問題の深刻度はさらに増す。政治と金の問題で自民党に強い逆風が吹いている状況で、金品の授受を行うことがいかに不適切か、首相自身が最も理解していなければならないはずである。 

 

 参議院選挙を控えた自民党内では、新年度予算成立後に総裁を選び直すべきだとする退陣論も浮上している。党内にそもそも人望のない首相にとって、世論の支持こそが最大の支えである。今回の問題への対応が今後の政権運営に及ぼす影響は計り知れない。 

 

 与党内からも批判の声が上がっている。公明党の谷合正明参院会長は「道義的責任を負うべきだ」と指摘し、自民党の武見敬三参院会長も「国民感覚とかけ離れていることは明白だ」と批判した。 

 

 国民民主党の玉木代表は、石破首相が国会の政治倫理審査会で弁明すべきだとの考えを示している。 

 

 商品券配布問題に加え、内閣官房機密費から商品券代が支出された可能性も指摘されている。過去には、官房機密費から国会議員に餞別や香典、スーツ仕立券などが配られたと報じられた。今回の商品券も同様の手法で提供されたのではないかとの疑惑が浮上している。 

 

 参議院選挙が7月に予定されており、これらの問題は選挙結果にも影響を与える可能性が高い。支持率の低下とスキャンダルの発覚により、自民党内で「石破降ろし」の動きが加速する可能性がある。一方、野党はこの機を捉え、政権交代を目指す動きを強めている。国民の信頼を回復するためには、石破首相が問題の真相を明らかにし、適切な対応を取ることが求められる。 

 

 商品券配布問題以上に深刻なのは、石破首相の政治観が1980年代で止まっている点である。ふるさと創生(竹下内閣)や田中角栄の政治手法を持ち出し、現代の政治を語る姿勢には違和感を覚える。 

 

 

 商品券を配布した理由として、「自分ももらっていた」と説明しているが、それは正当化の理由にはならない。竹下登や田中角栄がお金の問題で失脚したのを理解していないのか。 

 

 石破首相の唯一の政策と言っていい「地方創生」。その一環として、公務員を60市町村に派遣する「伴走支援」は問題が多い。政策の目的が不明確であり、実効性にも疑問が残る。中央省庁の職員が短期間だけ自治体に関与する制度にすぎず、副業感覚で地方行政に口を出す仕組みになっている。1年という短期間で地方の構造的課題を解決できるはずがない。解決可能な問題であれば、そもそも地方創生の必要はない。 

 

 この制度の本質は、単に補助金を地方自治体に流すための仕組みである。官僚が地方の課題に関わっているふりをするだけで、根本的な解決にはつながらない。責任の所在があいまいであり、1年限りの支援では地域の未来を変えることはできない。耳障りの良い政策を掲げても、実態が伴わなければ地方の衰退(都市の疲弊)を加速させるだけである。 

 

 日本経済の成長には都市集中が不可欠である。知識、資本、人材が集まる都市は生産性を最大化し、イノベーションを生み出す。人口密度の高い地域では企業間の相互作用が活発になり、情報共有の効率が向上する。労働市場が厚くなり、適材適所の配置が可能になる。交通、通信、物流の利便性も高く、資本の流動性が向上し、金融市場が活性化する。人材と資本が都市に集まることで、産業の成長が加速し、経済全体の生産性が向上する。 

 

 地方分散には限界がある。人口減少が進み、労働力の確保が難しくなっている。市場規模が小さく、企業の進出メリットが乏しい。産業が単一構造になりやすく、景気変動の影響を受けやすい。高度な教育機関や研究施設が不足し、技術革新の機会が限られる。交通や通信の利便性も低く、ビジネスの展開に支障をきたす。都市の集積効果を損なえば、経済の成長力が低下する。 

 

 世界の成長モデルを見ても、成功した国は都市集中型の戦略を採用している。ニューヨーク、ロンドン、シリコンバレー、上海、ソウルは、都市の集積を活かし、国全体の成長を牽引している。地方分散を進めた国は成長の鈍化に直面し、再び都市集中へと政策転換を迫られている。市場原理に基づけば、人と資本は成長が見込める地域に集まる。意図的な分散政策は非効率であり、経済停滞を招く要因となる。 

 

 

 日本の経済成長には東京、大阪、名古屋を中心とした都市圏の強化が必要である。大胆な規制緩和、適切な減税が求められる。資本の適切な配分が成長の原動力となり、都市経済の持続的発展を実現する。競争力を持つ都市への投資を優先することが経済合理性に適う。 

 

 石破政権は、政策ダメ、人望なし、カネにも汚いという三拍子が揃ってしまったわけだが、商品券配布問題よりも深刻なのは、地方に資金を投入すれば、日本が発展すると信じている1980年代の自民党的思考である。ポーランドや台湾にも一人当たりGDPで抜かれた現状を直視し、時代遅れの政策から脱却しなければならない。 

 

 台湾で、2、3日過ごせば、ライドシェアは快適だし、経済が自由であることの恩恵を体感できるはずだ。セキュリティ技術、半導体技術において、台湾は日本のはるか彼方を走っている。九州と同じ程度の人口しかない台湾、彼らに先輩風を吹かせていたこともあった日本。負けて悔しくないのか。 

 

 化石脳を持つ自民党議員たちは上野の科学博物館「恐竜博」にでも展示しておくのでちょうどいい。恐竜が滅んだ理由を聞くように、子どもたちから「なんで日本は滅んだの?」と聞かれて、お母さんが「無意味なことでお金を使い果たしたからだよ」と答えるのが目に浮かぶようだ。本当にそんな未来が来ないよう私たちは過去との決別を果たさねばならない。経済成長に向けた歳出削減を財源に「年収の壁」を176万にして、規制緩和を本格的に進めるべきである。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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