( 276656 ) 2025/03/21 06:43:13 0 00 ガソリンスタンド(画像:写真AC)
経済産業省が2025年3月19日に発表した3月17日時点のレギュラーガソリンの全国平均小売価格は、1Lあたり184円60銭。前週比で50銭上昇し、8週間ぶりに値上がりした。
ガソリン価格の高騰は、多くの人にとって
「ドライバーの負担増」
として認識されがちだ。しかし、これは車を持たない人にとっても無関係ではない。ガソリン代や関連する税制は、日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼす。それにもかかわらず、車を持たない人の多くはこの問題に無関心であり、
「自分には関係ない」
と考える傾向がある。しかし、本当にそうだろうか。
本稿では、ガソリン価格の変動が社会全体に及ぼす影響を明らかにし、すべての人が“自分ごと”として捉えるべき理由を探る。
ガソリンスタンド(画像:写真AC)
ガソリンは単なるドライバーの燃料費ではない。
・物流 ・公共交通 ・農業 ・漁業 ・製造業
これらの多くがガソリンや軽油を必要としている。つまり、ガソリン価格が上がれば、それに依存するあらゆる産業のコストが増加する。
例えば、スーパーマーケットの商品。トラックで運ばれる生鮮食品の価格は、ガソリン代の高騰によって上昇する。
宅配サービスも例外ではない。配達員のガソリン代が上がれば、企業はその負担を利用者に転嫁せざるを得ない。
また、公共交通もガソリンや軽油を使用する。バス会社の運営コストが増えれば、最終的には運賃の値上げにつながる可能性がある。
こうした影響を考えれば、「車を持たないから関係ない」という考えがいかに浅はかであるかがわかるだろう。
ガソリンスタンド(画像:写真AC)
もうひとつ見過ごされがちな問題が、ガソリンにかかる「税金」の影響だ。日本では、ガソリン価格の約半分が税金であり、以下のようなものが含まれている。
・揮発油税 ・地方揮発油税 ・石油税
政府は財政のバランスを取るためにガソリン税を引き上げることがある。しかし、ガソリン税が上がれば、その負担はドライバーだけにとどまらない。物流業者やバス会社などは増税分を価格に転嫁する。結果として、食品や日用品の値段が上がり、バス運賃も値上がりする。つまり、ガソリン税の増減は「車を持つ人だけの問題」ではなく、
「社会全体の負担」
として跳ね返ってくる。
ガソリン価格の変動は、単なる市場の動きではなく、過去にも社会に大きな影響を与えてきた。特に、1970年代のオイルショックでは、ガソリン価格の急騰が世界中の経済に波紋を広げた。日本でも、1973年と1979年のオイルショックが深刻な影響を及ぼし、物流コストや物価が急上昇した。この時期、ガソリン価格は1Lあたり数倍に跳ね上がり、企業や消費者にとって大きな負担となった。輸送業や製造業ではコストが急増し、その影響は最終的に消費者に転嫁された。
1980年代から1990年代にかけては、石油の安定供給と価格低下を背景に、ガソリン価格は比較的安定していた。しかし近年、供給の不安定さや地政学的な影響が強まり、ガソリン価格の急変動が日常的に発生している。これに伴い、政府はガソリン税や燃料補助金を見直し、価格調整を行ってきたが、すべての調整が消費者負担の軽減につながるわけではない。特に中小企業や低所得層にとっては、大きな経済的負担となっている。
さらに、ガソリン税の役割も重要だ。日本では、ガソリンにかかる税金の多くが道路整備や公共交通機関の運営に使われている。そのため、税収が減れば交通インフラの維持・改善に影響を与え、最終的にはすべての市民にとって重要な問題となる。
このように、ガソリン価格と税制の変動は、単なる価格の問題ではなく、経済や政策の歴史的な変動とも密接に関わっている。
ガソリンスタンド(画像:写真AC)
ガソリン価格や税制に無関心でいると、どのようなリスクがあるのか。
まず、政策決定の場で声を上げる機会を失う。例えば、政府が新たなガソリン税を導入しようとした場合、ドライバーの反対意見は表明されるだろう。しかし、車を持たない人たちが無関心でいれば、社会全体の視点に立った議論にはならない。
また、企業の価格設定にも影響が出る。もし消費者がガソリン価格と生活コストの関係を理解していなければ、企業側は価格を上げやすくなる。消費者が適切な知識を持たなければ、不当に高い価格設定を受け入れてしまうリスクがあるのだ。
さらに、交通インフラへの影響も無視できない。ガソリン税は、道路整備や公共交通の補助金にも使われる。税収が減れば、地方のバス路線が廃止される可能性もある。結果として、車を持たない人の移動手段が制限されることになる。
ガソリンスタンド(画像:写真AC)
では、ガソリン価格の問題を“自分ごと”として考えてもらうにはどうすればよいのか。まず、日常生活とのつながりを意識することが重要だ。例えば、スーパーで買い物をするときに、
「この価格の裏には物流コストがある」
と考えてみる。宅配の送料が上がったときに、「燃料コストが影響しているのかもしれない」と想像する。
次に、政策に関心を持つことだ。ガソリン税の引き上げや補助金の導入は、自動車ユーザーだけでなく、社会全体に影響を及ぼす。だからこそ、選挙の際には、政治家のエネルギー政策や交通政策に注目すべきだ。
また、企業の動向にも目を向けたほうがいい。例えば、大手物流会社が燃料費の高騰により送料を値上げすると発表した場合、その背景には何があるのかを考える習慣をつける。
さらに、学校教育やメディアの役割も大きい。現在の教育では、エネルギー政策や税制について深く学ぶ機会が少ない。ガソリン価格の影響を理解するには、経済全体の仕組みを学ぶことが不可欠だ。
レギュラーガソリンの全国平均価格の推移(画像:資源エネルギー庁)
自分で車を持たないから、ガソリン代の高騰は関係ない――この考え方は、現実とはかけ離れている。
繰り返しになるが、ガソリン価格の変動は、私たちの生活のあらゆる場面に影響を与える。
・物流コスト ・食品価格 ・交通機関の運賃 ・税制 ・政治 ・経済政策
にまで関係している。この問題を“自分ごと”として考えるためには、まず身近な生活とのつながりを意識することが重要だ。日々の買い物、移動手段、税金、企業の価格設定――すべてがガソリン価格と結びついている。
無関心でいることは、結果的に
「知らない間に負担を強いられる」
ことにつながる。ガソリン価格の問題は、決してドライバーだけのものではない。すべての人が影響を受ける問題だからこそ、社会全体で向き合う必要があるのだ。
鳥谷定(自動車ジャーナリスト)
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