( 276661 ) 2025/03/21 06:49:31 0 00 写真はイメージです(写真:Getty Images)
コロナ禍以降、一気に広がった端末を使った注文形式。人員削減にもなり、今後も増えるとみられるが、客の心情は大歓迎とは言い難く──。 AERA2025年3月24日号より。
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「俺のギガに“タダ乗り”しやがって」
都内の会社員男性(23)は、飲食店でよくそう思う。コロナが明けた頃からだろうか。居酒屋やレストランに行くと、メニュー表ではなくQRコードを印字した紙を渡されることが多くなった。
スマホのカメラをかざすとドリンクやフードのメニューが表示され、そのまま注文できる。初めて持った通信機器はガラケーではなくiPhoneのスマホネイティブ。操作自体は難なくできる。だが、バッテリー残量や通信料がどうしても気になる。
■通信費の客負担はナゼ
「友達と集まったときは自分が注文係になることも多くて、なんだか腑に落ちない。せめてタブレットを設置してほしいです」
自分のスマホを使った注文にモヤモヤしているのは、この男性だけではない。SNSでは議論が度々繰り返され、争点になるのは決まって、通信費をなぜ客が負担せねばならないのか。アエラのアンケートでも「スマホで注文するのが嫌な理由」を回答した36人中11人が通信費を挙げた。
そんな声もあってか都内ではWi−Fiやコンセントを設置する店を見かけるようになった。それが普及すれば一安心か。そう思いきや、こんな事情からスマホオーダーを嘆く人もいた。
「子どもが小さいので、スマホを取り出すと触りたがって騒ぎだすんです」
と教えてくれたのは、子育て中のアメリカ在住女性(45)だ。確かに、とうなずく人も多いのでは。他にも「高齢者にはわかりづらい」「食事中にスマホをいじりたくない」「LINEの友だち追加が必須のものがあるのが煩わしい」といった声が寄せられた。
だが、世はデジタル化に加えてコロナ禍がもたらした非接触時代。端末を使った注文形式は年々広がっている。初期投資の少ないスマホオーダーは小規模店にとってハードルが低く、導入もしやすい。リクルートの調査では、2021年に26.0%だったセルフオーダーの利用経験率は24年調査で57.1%と2倍以上に増加。同社の品川翔さんは、「導入店舗は今後も加速度的に増えていく」と見る。
■スマホ限定メニューを
「注文を取る負担が減ることで余裕が生まれ、スタッフの定着率が上がった飲食店もあります。データの可視化で売れ筋が見え、食品ロスを防げるようになったケースもありました」
と品川さんは説明する。他にもブラウザの自動翻訳機能を使えば多言語にも対応できるため、インバウンド客ともスムーズにコミュニケーションを取ることもできる。人手不足や原材料も高騰している昨今、飲食店にとってメリットが大きいのだ。
スマホオーダーにどれだけモヤモヤしても、その広がりは止まりそうにない。ならば、と前向きになれそうなおもてなしを“モヤモヤ派”の人たちに聞いてみた。
「不快感の多くは客へのタダ乗り感情。だからわかりやすく得だと思えれば歓迎する人も多いのでは。料理の残り個数が表示されたり、スマホ限定メニューがあるとうれしいですよね」
そう話したのは都内で働く女性(31)。この女性以外からも、「スマホ割引」を求める声が多数届いたことを考えると、“お得感”はポイントかもしれない。他には「検索機能」「使い方を説明したPOPの設置」「くじ引き」「紙に載せきれない細かい説明がある」などのアイデアも集まった。
だが、先のアメリカ在住女性のように、スマホ自体を使いづらいケースもある。都内に住む女性(49)は、「水を出すときに『困ったときは聞いてくださいね』と一言あるだけでも、いいお店だと思える」と提案する。デジタル化が進むからこそ、人のありがたさが身にしみるのだ。(編集部・福井しほ)
※AERA 2025年3月24日号
福井しほ
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