( 276876 )  2025/03/22 06:05:22  
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ホワイトハウスのレビット大統領報道官が日本のコメについて「700%の関税がある」と批判した(AP/アフロ ) 

 

 ホワイトハウスのレビット大統領報道官が記者会見で、「日本は(米国から輸入する)コメに700%の高関税を課している」と名指しで批判した。これに対し林芳正官房長官は、ミニマムアクセス(最低輸入量)が一定量無関税であるのに加え、そのほかの輸入米も1キログラム(㎏)当たり341円の関税になっていると反論した。 

 

 ミニマムアクセスを超えた輸入米に対する日本の関税は、2005年の世界貿易機関(WTO)交渉時に当時のコメの国際価格を基に実質的な関税率を778%と計算していたものの、現在のコメの国際価格の上昇により関税率は既に大幅に下がっている。レビット大統領報道官の発言は事実誤認と言えるのだが、これはトランプ政権下でコメに対する関税が今後引き下げられる可能性を示唆していることでもある。 

 

 一方、日本政府は、コメの輸出量を24年の4.5万トンから、30年までに約8倍の35万トンとする目標を定める方向で調整しているという(「日本農業新聞、朝日新聞」)。 

 

 「日本のコメの味は世界一」と、日本でよく言われているが、その「世界一」のコメが海外で売れ、海外産のジャポニカ米(以下短粒種)と競って戦えているのだろうか? 

 

 昨今の日本国内でも米不足を背景に、海外産のコメが日本の市場に入り出している。筆者はこの2年間、東南アジアのコメ消費の現場を見てみてきたが、そこでは短粒種の日本産米がすでに他国産の短粒種との厳しい競争にさらされている。海外で起きていることが国内でも起きるのではないかと危惧される。 

 

 そこで、2月末にオーストラリアのメルボルンを訪問し、見てきたコメの消費の一端をレポートし、今後のコメ生産について考えてみたい。 

 

 メルボルンでもよく見かける国民的スーパーマーケット「woolworths」。ここで目にしたコシヒカリはオーストラリア産ばかり。750グラム(g)で5豪ドル、1㎏で約630円(1豪ドル:95円と計算、以下同じ)ほどだ。日本産米は見かけなかった。 

 

 メルボルンでも人気のスーパーマーケット「coles」には、日本産米と同じ短粒種のベトナム産のHINATAが売られていた。価格は、5㎏30豪ドルで、2850円(キロ570円)である。ここでも日本産米は見かけない。 

 

 オーストラリアで日本産米は売られていないのか? ネット等で探し出した日本産米を扱う数店のうち一つが、中華街界隈にあるTANGという中国系スーパーマーケットだった。日本産米は、5㎏で約5000円(キロ約1000円)。オーストラリア産やベトナム産の短粒種より割高だ。台湾の短粒種の新米も並んで売られていたが、セールなのか、5㎏で約2000円(キロ約400円)と割安だった。 

 

 「私たち日本人にも日本産米は高すぎて、たくさん買えない」。オーストラリアのメルボルンに住む日本人女性は打ち明ける。 

 

 女性の夫は日本人で、成長期の子どもも和食で育った。日本産米の方が味は良いとわかっているが、毎食食べる余裕がないという。仕方なく、日本産米に安価なベトナム産米、オーストラリア産米をブレンドして、育ち盛りの子どもたちの旺盛な食欲に対応しているそうだ。 

 

 

 それでは日本食レストランではどうなっているのか? 

 

 メルボルン市内の日本食レストランに入ると、山盛りのご飯が出てきた。店員に「どこのお米ですか?」と聞いたところ、「オーストラリア産のお米」とのこと。日本で食べるお米より少しパサパサする感じはあったが十分においしかった。 

 

 滞在中に何軒か庶民的な日本食レストランに入ったが、日本産米を食べる機会はなかった。やはり、ここにも〝価格の壁〟があるのだろうか。 

 

 最低賃金が日本の2倍と言われているオーストラリア。メルボルン市内には若い日本人が目立った。高い給与を得ながら、英語などを身に付けたいと考えるワーキングホリデーの若い人たちのようだ。 

 

 ただし、ラーメンが約2000円、ハンバーガーセットも2000円ほどと外食費も2倍ぐらいする。物価もかなり高めだ。 

 

 先ほどの日本人女性を含めて、現地に住む複数の日本人から話を聞いたところ、「若い人は生活費を抑えるため、割安なパスタを購入して自宅で食べることが多い」という。美味しいと分かっていても日本産米にはなかなか手が出ない現状があるようだ。 

 

 広く流通するオーストラリア産やベトナム産の短粒種はキロ600円前後。これに対し、オーストラリアで売られている日本産米(短粒種)は、キロ1000円程度である。そう大きくない価格差のようにも見えるが、それが現地の日本人にとっても日本産米を高嶺の花としているのが現実だ。 

 

 筆者は10年以上前から、バンコクの日本人やタイ人バイヤーと話をしてきた。その際、「日本産米の購入者は基本的に日本人で、店頭価格キロ1000円以上では販売数は限られる」と指摘されている。 

 

 24年12月現在の日本国内でのコメの農家売り渡し価格は、「令和のコメ騒動」の影響もあって高騰し、玄米キロ400円以上になっている。今後下がる可能性はあるものの、輸送費、現地での小売価格などを考えると、精米後のものを600円程度で売るのは難しいことが分かる。 

 

 まさに相当規模のコスト削減が必要となる。それには、大規模農家の効率的な農地集約や中小規模農家のグループ化によって、各農家がスマート農業などを導入して効率化を図られるような環境づくりも求められる。 

 

 また、最新技術の導入も重要で、現在期待されている技術の一つに乾田直播・節水灌漑(マイコスDDSR)がある。この方法では、田植えをせずに直接、種を田に播き、水の使用を最小限に抑えることで、栽培コストを大幅に削減し、メタン発生が抑えられるという環境負荷軽減の効果が期待される。このため「超低コスト・低メタン輸出米」にもなりうる。まだ研究段階であるが、実現できれば、増産も可能となり、稲作農家には非常に明るい未来も見えてくる。 

 

 ただ、すべてにおいて農家個人や農業界の意識改革をしなければならず、「絵に描いた餅」にならないように、政府は将来像を丁寧に説明することが求められる。日本食レストランなど業務用も含め、誰にいくらで売るのか、そのためにはどのような栽培技術が必要なのかを具体的に示す必要があるだろう。 

 

 

 JAや行政などは、10年以上前から、海外で日本産米の販売に取り組んできている。コメ輸出の経験値は蓄積されている。 

 

 その課題を整理し、改善すべき点は何か、そして輸出を持続可能にするために、官民一体となった研究開発を進め、農家が新しい栽培技術を導入・増産できるような環境を整えることが求められる。 

 

 それは、輸出だけの問題ではない。冒頭のレビット大統領報道官の発言にもあるように、いつコメの関税に手をつけられるか、わからない。そうなってくると、現時点でもスーパーマーケットなどで見かける輸入米がさらに増える可能性もある。海外産と国内産のコメが競争する時代が来るだろう。 

 

 海外市場で起きている激しい競争が国内でも起きる可能性がある。その時、海外で戦える日本産米であれば、来たるべき国内での競争にも耐えうるはずだ。そのためにも政府が生産者にも消費者にも納得できるロードマップを示し、その準備を農家と農業関係者が知恵を出し合い総力を挙げて、今こそ推進すべきではないだろうか。 

 

福田浩一 

 

 

 
 

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