( 277136 )  2025/03/23 06:28:23  
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写真提供:新潮社 

 

 地方創生担当大臣なども歴任し、現在では内閣総理大臣に就任した石破茂氏。同氏は、地方自治や地方創生の問題について、どう考えているのだろうか。石破氏がよくされるという質問に答えていく。本稿は、石破茂『私はこう考える』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。 

 

● 地方創生の政策は 政争の具にすべきでない 

 

 「そもそも地方議員の数が多すぎるのではないでしょうか。税金を節約するのならばそこから始めればいいじゃないですか。夜間に議会をやることにしてボランティアでやればいいのでは」 

 

 平成の大合併等の効果もあって、定数は実際にかなり減ってきました。 

 

 夜間、あるいは休日に議会を開く、といったアイディアもよく聞きます。私はいいことではないかと思います。 

 

 しかし、そうした改革は国が主導してやるものではなく、地方自治の本旨に則り、住民の要求に基づいて行うべきものだと思います。議会も住民が選んでつくっていただくものです。何人の、どういう規模の、どういうシステムの議会にするかも、みなさんの選択で決められるべきものなのです。 

 

 地方議会の良いところは、大都会の議会に比べて、住民との距離が近いところです。せっかくアクセスしやすいのですから、「どうせ役に立たない」「要らない」という前に、地方議員も大いに活用して頂きたいと思います。 

 

 「結局、『地方創生』という取り組みも政権が変わったらまたご破算になるのではないですか」 

 

 確かに内閣が変わったり、政権交代が行われたりすると、前の内閣の取り組みがおざなりになったり、立ち消えになったりすることがあります。 

 

 しかしこの問題については与党、野党で対立し、政争の具にすべきではないはずです。人口減少を食い止め、地方を再生するためには、何とかここまで積み上げた取り組みを永続的なものにしたいものです。 

 

 一部の地方にはいまだに「国主導」を望むような依存体質があるようにも感じられます。簡単にいえば「お金をくれればいい」ということです。 

 

 これまでの首長は「お金をください。事業をつけてね。企業をくださいね」ということを中央でアピールするのが仕事だったという面は否定できません。 

 

 しかし、それでは立ち行かないようになっているのはこれまでに述べてきた通りです。 

 

 

 そもそも「国主導」か「地方主導」か、といった対立構造で考える必要は無いように思います。 

 

 お互いができることを目いっぱいやればいい。それだけのことです。二択である必要は無いのではないでしょうか。 

 

 メディアも、また一部の政治家も、一種の対立構造を作ることが好きです。しかし、そういうものから良い結果が生まれるとは思えません。結局、対立構造を作ると、その解消のために人的、時間的なものも含めて多大なコストがかかるからです。その分のロスが大きくなれば、前向きな方向に使える労力が減ってしまう。 

 

 これまでは、そういうロスを吸収できるような環境が日本にあったから、良かったのです。人口増、経済成長のおかげで、少々のロスは問題にならなかった。しかし、これからはそうはいきません。 

 

 私たちがやろうとしているのは、「地方のことは地方に任せたほうが上手くいく」という例をできるだけ増やして、それを常識としていくということです。 

 

 その意味では、政府の「地方創生担当大臣」などというものは、いささか矛盾した存在なのでしょう。理想はそんな大臣がいなくても、それぞれの地方がやる気を出して、自分たちで知恵を出して、常に盛り上げていくという状態だからです。 

 

 「あれこれ口を出さなくても、我々は我々で地元を活性化しているから心配いりません」 

 

 そうなるために仕事をしているわけで、つまりこんな肩書の大臣が不要となることが望ましい。今はあくまでも過渡期であって、こんな大臣が無用の存在になり、地方が自ら戦略を立て、PDCAサイクル(Plan〈計画〉→Do〈実行〉→Check〈検証〉→Action〈改善〉のサイクルのこと)を回し、住民を幸せにしていける状況になればいいと思います。 

 

● 「今のままでいいじゃない」 面倒くさがる人たちの罪 

 

 多くの成功例、挑戦例は、言うまでもなくやる気のある人たちの力によって成し遂げられたものばかりです。もちろん、地方でも必ずしもやる気のある人ばかりではないでしょう。 

 

 「面倒くさい」 

「そんなことやらなくても」 

 

 こういった反応が返ってくることは珍しくありません。 

 

 私自身、若い頃からあれこれ提案しては、反対されてきました。 

 

 「いいじゃない、今のままで」 

 

 地方に余裕があった頃はそれでもよかったのです。しかし、このまま何もしなければ地方は無くなってしまいます。 

 

 

 「無くなってもいいじゃないか」 

 

 そう考える人もいるのでしょう。 

 

 しかし、冒頭から申し上げている通り、人材やエネルギーや食糧を生産する地方がなくなって、それらを消費する大都市だけが残ることなどありえないのです。 

 

 まずはその考え方を変えなくてはいけないのではないでしょうか。 

 

 東京から帰ってきた人たちや、地元の志ある人たちが「あれをやってみよう」「これをやってみよう」と言ったら、それをきっかけに少しずつでも変えていくことが必要ではないでしょうか。 

 

 皮肉なことに、この数十年、「いいじゃないの今のままで」でやってきた地方のほうが、手つかずの分野や自然が多く残されているという面もあります。だから、怠けていた地方のほうが、目覚めれば大きく変われる可能性はある。 

 

 中途半端に都市化している地域よりも、そういうところのほうが伸びしろがあるという面もあるのかもしれません。 

 

 「低成長でもいい」「このままでいい」と言うほうが、なんとなくインテリっぽいし、文化的な匂いもするかもしれません。しかし、こういう考え方は実は若い人に対して、非常に残酷であることを自覚していただきたいと思います。 

 

 「あとは下り坂になるかもしれない。ツケはそちらに回しておく。よろしく」 

 

 それでいいはずがありません。 

 

 そして、この問題に率先して取り組むことは、国際的にも意味のあることだと考えています。少子化、超高齢化は先進国共通の悩みですが、中でも日本はそうした問題にもっとも早くぶつかって最先端を走っている国です。 

 

 その課題に率先して取り組んで、解決策を見出していくことは、「課題先進国」としての日本が世界に果たすべき責任でもあるのではないでしょうか。原発事故以降、エネルギー問題に関して、「資源のない日本こそ、率先して再生可能エネルギー問題に取り組み、その先進国になるべきだ。それが日本の役割だ」という主張をよく耳にするようになりました。 

 

 その論理でいけば、やはりこの少子化、高齢化に取り組むこともまた国際的に求められている日本の役割の一つであると考えられます。 

 

 

● 今が最後のチャンス 補助金をアテにしては立ち行かない 

 

 さまざまな問題と、その対策について触れてきました。ここまでをお読みになった中には、「話はわかったが、それはもとをただせば、あんたたち、自民党のせいなんじゃないの」と言いたくなった方もいることでしょう。 

 

 言い訳をするつもりはありません。戦後、ほとんどの期間、政権与党にいたのは自民党です。日本の現状に関しての責任は私たち、自民党に大きな責任があります。 

 

 これはこの問題に限らず、安全保障しかり、エネルギー問題しかり、財政問題しかり、「面倒なことは先送り」としてきたツケなのだろうと考えています。 

 

 最近、話題となることが多くなった安全保障法制にしても、日本が独立を果たした時に、整備をすべきだったでしょう。また、その時に改憲もすべきだったのでしょう。 

 

 それをようやく、進めようということになっています。 

 

 たしかに遅い。しかし、まだ完全に取り返しのつかないところにまでは来ていない。だから「遅きに失した」とならないようにしなければならないと考えています。 

 

 流れを変えるには、地方の力が必要になります。 

 

 地方がただ中央からの補助金をアテにしているといった、これまでのあり方では、国家自体が立ち行かなくなります。地方と、そこに住む人たちが自信を持ち、誇りを持ち、感動するストーリーを紡ぎながら、それぞれの地方を作っていく。その姿勢が今の日本には絶対に必要である、と私は考えています。 

 

 江戸時代に、徳川幕府が地方のために何かやってくれるというようなことはなかったはずです。そのおかげで地方に独自の文化、産業、教育が発展しました。 

 

 その頃に戻れなどと申すつもりはありません。しかし地方の自立ということをもう一度考えてみるべきではないでしょうか。 

 

 官と民のあり方、地方と中央のあり方、官と個人のあり方、そういうものを国民全体でもう一度考えてみる。 

 

 それによって、日本人が幸せになり、地方が豊かになり、日本国全体が豊かになっていく。 

 

 さまざまな問題を抱えているとはいえ、世界的に見ればまだまだ私たちは豊かさを享受し、平和な生活を送れています。 

 

 長い歴史や文化を誇り、しかもその伝統がいまだに息づいています。素晴らしい自然も残っています。先人たちが遺してくれたこの日本を素晴らしい形で将来世代にもつなぎ、残していくのは、今の時代の私たちの責任です。 

 

石破 茂 

 

 

 
 

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