( 277191 ) 2025/03/23 07:37:10 0 00 (c) Adobe Stock
農水省の資料によると、「備蓄米」は、1年に20トンずつ買い入れ、5年経ったものから、豚・牛など「飼料用」として市場に出回る。この度放出それる備蓄米は家畜用のものだったのか?経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が農水省に取材したーー。
政府はコメ価格の高騰を抑制するため、備蓄米の市場放出を進めている。3月中旬には初回の入札が実施され、15万トンのうち約14万トンが落札された。全国農業協同組合連合会(JA全農)などの業者が落札した備蓄米の引き渡しを開始し、順次市場に流通させる予定である。消費者への影響や流通の透明性をめぐる課題が浮上している。
政府が管理する備蓄米は、食料安全保障の観点から一定量が確保され、必要に応じて市場に供給される。今回の放出は、急激なコメ価格の上昇に対応するためのものであり、全国で流通させることで価格の安定化を狙っている。JA全農は落札した備蓄米を卸売業者へ販売するが、「備蓄米」と表示しないよう要請している。消費者の買い占めによる混乱を避ける意図があると説明する。流通の透明性を求める声もあり、消費者からは賛否が分かれる。備蓄米と一般米の品質に大きな違いはないとされるが、実際はどうなのだろう。筆者は、農水省に取材(3月18日)を行った。
ーー農水省の資料(※1)を読むと、従来放出される「備蓄米」は、1年に20トンずつ買い入れ、5年経ったものから、豚・牛など「飼料用」として市場に出回ると書いてある。今回のものも飼料用なのか。今年放出されるのは何年産のものなのか。
(農水省貿易業務課)
今回、放出つされるお米は、令和6年産と令和5年産のものを出しています。
ーー比較的新しいお米が放出されると?
(農水省貿易業務課)
比較的、ではなく、一番新しいものです。
ーー豚、牛云々の飼料用とはどういうことなのですか。
(農水省貿易業務課)
国内の需要、需給に影響を与えない、というのが基本方針です。ですので、5年経ったものから、食用でない用途として売っています。
ーー品質が食用に適さないというよりも、そういった(国内の需要、需給に影響を与えない)アプローチをするために、飼料用ということになっているのですね。
(農水省貿易業務課)
5年経ったものが、新米と同じようなものかと言われると違うかもしれない。ただし、5年経っても十分食べられる品質は保っています。
ーー今回、一番新しい備蓄米が放出されるということですが、品質は担保されるのですか。政府がどうせ買ってくれるからと、1番よいものを渡さない、なんてことはありませんか。
(農水省貿易業務課)
どうなんでしょう……農産物検査法というものがあり、同法で1等から3等まで格付けされたもののみを売ってくださいと。3等以上であれば、民間で流通しているお米と変わりません。品種によっては、人気・不人気があるでしょうから、人気の品種は民間に先に流れるようなことはあるかもしれません。
ーー備蓄米における1等から3等までの割合を把握していますか?
(農水省貿易業務課)
農林水産省のホームページにありますが。年によって変化はあるものの、だいたい平常年でいうと約7割が1等米です。私たちが一般に買っているものも同じぐらいの比率です。備蓄米だからといって、人気の品種ではないかもしれないですけど、品質が劣るものが売られているということはありません。また、そういうことがないように、品質の基準を設けているわけです。通常、流通しているものと変わりません。
ーーありがとうございました。
JA全農が卸売業者に対して備蓄米の表示を避けるよう求めたことについて、流通業者の対応は分かれている。一部の業者は、消費者の誤解を防ぐため、明確な表記を求める声を上げている。混乱を避けるためにJA全農の方針に従う業者も多い。消費者の間では「備蓄米と一般米の違いを明確にしてほしい」という意見がある。特にブランド米の価格がどの程度下がるか不透明な状況にあり、購入時の判断材料として「備蓄米」の表記が必要だと考える消費者もいる。
備蓄米は全国24道県の41品種にわたるが、その内訳が詳細に公表されていないことも問題視されている。品種ごとに価格が異なるため、ブランド米にどの程度の影響があるか不明瞭である。一部の流通業者は「ブレンド米」として販売する方針を示しており、外食産業ではコスト削減の観点から歓迎する動きも見られる。
農水省の資料(※1)によれば、備蓄米の食味等分析試験の結果概要は公開されている。2024年産のお米は収穫から6〜8ヶ月程度、2023年産については18〜24か月程度、保管されていることから、2024年産の備蓄米については、主観による絶対評価が2.8〜2.2。
主観による絶対評価は、「5.非常においしく食べられる」、「4.おいしく食べられる」、「3.普通に食べられる」、「2.少し劣るが食べられる」、「1.受け入れられない」の5段階で評価されている。つまり2024年産は「普通に食べられる」と「少し劣るが食べられる」。2023年産は、18か月で絶対評価が1.8となっているので、「少し劣るが食べられる」から「受け入れられない」の間となっている。
たしかに農水省の説明通りにきちんとした保管をしているのだとしても、2023年産の備蓄米は、絶対評価として劣るものがあり、食品小売にはきちんと何年産の備蓄米なのかを明記をしてほしいものだ。
政府の備蓄米放出による価格抑制効果は未知数である。今回の落札価格は60キロあたり2万1,217円(税抜)で、1月時点のコメの相対取引価格2万5,927円(税・流通コスト込)と比較すると多少安価ではある。
店頭価格にどれほど反映されるかは、流通過程での精米費用や輸送コストによる影響を受ける。全国のスーパーで販売されるコメの平均価格は、3月初旬時点で5キロあたり4,077円(税込)となっており、政府の放出決定後も上昇傾向が続いている。消費者が価格低下を実感できるかはわからない。どんなに安く政府がお米を放出したとしても、売られる値段は、コストではなく現在の市場価格を反映したものである。
農林水産省は、さらに7万トンの追加放出を予定しており、供給量の増加による市場価格の安定を期待しているが、江藤農林水産大臣とて「流通正常化には時間がかかる」と述べており、短期的な効果には慎重な見方を示している。あまり大きな期待をするのはよくない。
今回の備蓄米放出は、コメ価格の高騰を抑制するための政策として実施されたが、その効果は限定的だ。
平時には農業輸出国に、緊急時には輸出分を国内に振り分ける、というのが日本の食料安全保障にとって唯一の解であり、減反政策と補助金づけは日本人農家に滅びろと言っているに等しい。農地が狭く、過酷な農業条件にあってワインなど農産品の輸出が盛んなチリなどを参考にするとよい。
一部識者(かつて農水大臣であった頃の石破茂首相も)において主張される農家への直接支払い制度(ベーシックインカム)は、「技術効率に対して負の影響を与える」「直接所得移転が増えると、農家の生産努力が低下する(※2)ものであり、危険だ。
すべての政府支援を直ちになくせとまでいうのは不可能だろうが、日本の高い商品力を持つ農産品を、政府の保護政策で腐ることのないよう農水省は解体的出直しをする必要があろう。
※1 農林水産省・資料「政府備蓄米の運営について」
※2 マケドニア大学他『パラメトリック・アプローチによる規模効率の測定と説明:ギリシャのタバコ生産者のケース』2005年 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1574-0864.2005.00084.x
小倉健一
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