( 277196 )  2025/03/23 07:44:08  
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王様のように振る舞うアメリカのトランプ大統領。筆者は政策がうまくいかず、株価は暴落に向かうと予測する(写真:ブルームバーグ) 

 

 今後も世界の株価の下落は止まらない。これからも一進一退を繰り返しながら最終的には暴落となるだろう。 

 

 アメリカのドナルド・トランプ大統領が方針転換をして「関税やめた」と言うか、それとも意固地になって、さらに過激に関税政策を振り回し続けるのか。そのどちらかによっても、大きく変わる。 

 

■トランプ大統領の過激行動に「他国が団結して反逆」も 

 

 以前のトランプ氏であればもちろん、今回も自信満々の流れが続いていれば、前者の「やめた(あるいは条件変更)」になるが、流れが悪くなって余裕がなくなれば後者だろう。 

 

 これからは間違いなく後者だ。ディール(取引)だろうが何だろうが、せいぜいゼロサムゲーム。現実には、時間と機会のロス、貿易阻害、その他のあらゆるリスクが拡大し、いいことは1つもない。その結果、縮小均衡どころか、縮小崩壊だろう。 

 

 そして、ディールはうまくいかない。全員が「いじめっ子番長」の言うことを聞いているうちは、だれも歯向かわない。だが、誰かが声をあげ、いじめっ子の思い通りにならない前例が1つでもできれば、一気にそちらの選択肢に皆が流れ込むだろう。場合によっては「いじめられっ子」たちの逆襲、大衆の反逆ならぬ、仮想敵国の「小国」が団結した反逆となり、アメリカは最悪の場合、孤立どころか破綻する。 

 

 戦争において、二正面作戦はたいがい失敗するものだ。そして、そういう戦略をとること自体が、その主体の傲慢さや自信過剰によるピークアウトも象徴していることが少なくない。 

 

■「全方位喧嘩」の結果、「国内からの反発」も招くことに 

 

 その観点からすると、二正面作戦どころか、トランプ氏の「全方位喧嘩戦法」は、確実に破綻する。例えばまったくアメリカの利益になる要素のない南アフリカに対して「少数派の白人に対して人種差別を行っている」などと非難するようでは、こうした戦法の破綻ももう間もなくだ。 

 

 なぜならこんなことをしていると、外的要因だけでなく、内的要因も同時に襲ってくることになるからだ。 

 

 外的要因とは、まずはカナダだ。ディールの余地はない。これまでの親友を裏切れば、向こうは死ぬ気で闘ってくる。しかも、トランプ氏は大国主義で、小国を馬鹿にしている。 

 

 「窮鼠猫を噛む」で、脅しによって進めようとしていたディールはスタックする(身動きがとれない状態になる)だろう。これで外的流れは一変するはずだ。つい最近までなら、「自分の国だけは目を付けられないように歯向かわない、自分だけは逃れよう」などとアメリカに「お土産」を渡し続けるとしてきた国々が、「これは様相が変わってきたぞ」、とお土産をいったんひっこめる。すべてのディールは膠着する。 

 

 

 こうなると、内的危機がやってくる。トランプ氏に血迷って熱狂し、支持してきた全米の有権者たちが「なんだ、話が違うじゃないか。これでは生活は苦しくなるばかりだ」と熱狂の反動が来る。第1次トランプ政権のときと違って、2次政権発足前後からこれまでは一枚岩的に支持してきた共和党議員たちもバラバラとなり、トランプ批判が始まる。同時に、政権内部でも、すでに始まっているイーロン・マスク氏への嫉妬が反抗や攻撃に変わり、政権内部から崩壊していくだろう。 

 

 これらは、だれでも想定できるシナリオだ。だが、なぜかこれがコンセンサスとなって、株式市場がこの悪いストーリーを織り込む展開にはならない。理由は以下の2つだ。 

 

■市場がトランプ氏の戦略破綻を織り込まない2つの理由 

 

 第1に、インテリたちは、自分たちの思考回路でしか世の中を見ることができない。現実が不合理でも、それをそのまま受け止めることができず、自分で勝手に論理づけてしまい、現実とは別の見方を披露して、現象の裏にあたかも論理が(しかも自分が理解でき、自分の好みである論理が)存在するように得意気に解説するからだ。 

 

 そして、悲惨なことになるという議論は、メディアは好きではないので(特に日本は)、メディアに露出している人々は、メディアに出続けることが重要であるため、メディアに嫌われるような悲観的なシナリオを避けて発言する。 

 

 よく注意してテレビなどを見ていれば、真実を理解していそうな人ほど、悲観論を含ませているが、表面的には悲観論に見えないように発言している。ばかばかしい。真実を語ってテレビから追い出された方がよっぽどましだ。というより、それが言論人の使命だろう。 

 

 しかし、第2に、マーケットはメディアに迎合する言論人よりも、はるかに始末が悪い。なぜなら、事実から常に目を背け、自分に都合のいいストーリーで株を買い、株価を上昇させ(下落を反転させ)、表面的には破綻していない論理でその株価上昇を説明してごまかすからだ。 

 

 だから、「マーケットの情報伝達機能」などというものは、一度も現実に機能したことはない。マーケットが表すのは、現実世界で起きていること、これから起きることではなく、投資家(投機家)たちの、現在の都合あるいは現在の願望、つまり、「投資家願望の現状」という彼らの世界についての事実を表しているのだ。マーケットの情報とは、「投資家心理」の情報のことなのである。 

 

 

 ただ、これもいつものことだ。2008年のリーマンショックのときも、2020年のコロナショックのときも、実体経済は株式市場に振り回された。今回も同じだ。 

 

しかし、今回違うのは、実体経済、実体社会の危機は、これまでのいくつものバブル崩壊時と大きく異なっている。前回の「『この世が終わった』のを知らないのは日本だけだ」(3月8日配信)でも書いたように、今は、この世の終わりの始まりなのだ。われわれは、これに備えなくてはならない。 

 

 トランプ氏は、多くの有識者の妄想と異なり、ただ、自分がディールを支配している快楽に酔っているだけだ。あるいは、ウクライナ戦争の停戦仲介によるノーベル平和賞狙い、割に合わない「世界の警察役」負担からのアメリカの解放、そして世界経済における最大消費者としての恩恵の見返りを外国には与えない、というトランプ氏個人と超短期のアメリカファーストの複数の目的で動いているかもしれない。いずれにせよ、この目論見は失敗に終わる。 

 

■「アメリカの覇権」は消滅する 

 

 だが、より問題なのは、この後だ。2026年の中間選挙後か、それとも2029年の「トランプ後」なのかはわからないが、いずれにせよ、もう少し長期的に持続可能な、しかし、アメリカファーストの「新しい現実」の下でのアメリカの行動原理にどう対応していくか、それにどう備えるかが問われているのだ。 

 

 ここで「新しい現実」をもう一度整理しよう。アメリカの孤立主義は復活する。世界の警察をする経済的メリットも余力もなくなり、アメリカ軍の睨みは世界から消え、世界中で紛争が現状よりも格段に増え、常態化する。アメリカの軍事的に覇権をとろうとする意欲は、最も警戒している中国に対しては残るかもしれないが、後述するように、あるタイミングで消えるだろう。 

 

 アメリカの覇権が消えると言っても、これはアメリカが覇権を握っていたのは、長く見積もってもこの100年程度のことであり、世界は以前の通常状態に戻るだけだ。 

 

 そもそも欧州からみれば、アメリカは「新世界」であり、別世界なのである。この結果、覇権国家は名実ともになくなる。同国の政治学者でコンサルティング会社の社長であるイアン・ブレマー氏が言い続けてきた「Gゼロ」の世界だ。 

 

■トランプ政権のウクライナ停戦仲介の真の目的は何か 

 

 

 一方、中国は、覇権を取れないだろうし、取りにもいかないだろう。中国の歴史において、アジアにおける覇権は中国のものであったが、遊牧民が支配している時代を除き、中国は膨張的な覇権主義は取ってこなかった。確かに時折は膨張の気配を見せることもなくなかった。例えば、15世紀には西洋膨張主義(つまり近代資本主義)の代わりに、中国が先に世界を支配する可能性もあった。だが、内憂で内政優先となり、その機会を逃した。 

 

 しかし、これは中国における、「普通の現実」であり、最近の「一帯一路」やアフリカ、太平洋島しょ国などへの拡大主義も、現在の内憂が存在するという状況からすると、結局は減退していくだろう。とはいえ、今後は、表向きは台湾、裏的には崩壊後のロシアを狙っていくだろう。あくまで近隣諸国から獲得していくはずだ。 

 

 一方、ロシアは崩壊する。旧式の武器と資源が膨大に残る危険な国、今の北朝鮮をさらに遥かに危険にしたような国へとなっていくだろう。 

 

 崩壊過程で暴発して終わるのか、内部から崩壊するのかは、わからないが、ロシアが崩壊した後には、世界は、残った資源を奪い合うことになる。その際、圧倒的に有利なのが中国だ。そして、それはすでに始まっている。 

 

 ロシアは欧米に経済封鎖をされ、資源を中国に売りさばいて外貨を獲得している有様だ。現状、着々と中国は資源を割安に獲得している。この動きに対しアメリカは、トランプ政権後を準備しているブレーンだけでなく、現在のトランプ政権のブレーンも、中国を利することを阻止するために、ロシアをこちら側に引き込む狙いを持っている。G7にロシアを呼び戻そうとするのも、その一環だ。アメリカの本音は、ウクライナがどうなっても構わないが、ロシアの資源が中国に向かうのを抑える。これがロシア・ウクライナを仲裁する目的だ。 

 

 だからウクライナのレアアースだけでなく、ロシアの資源を中国側ではなく、こちら側に渡させるような道を作り、現在だけでなく、将来にわたって、ロシアの資源を支配することを目的としている。そのときに、ロシアに対しては、資源の対価は十分に払って構わない。中国が得をしさえしなければいいのだ。 

 

 したがって、アメリカはトランプ政権においても、その後の政権においても、新しい現実においては、ウクライナなどの小国の利益を無視するだろう。 

 

 

 
 

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