( 277351 )  2025/03/24 05:22:30  
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ワシントンのIMF本部=2018年5月(ロイター=共同) 

 

 国際通貨基金(IMF)は2月7日、対日審査を終え声明を公表。「年収103万円の壁」見直しなどが財政赤字を拡大させる恐れがあることに懸念を表明した。赤字が年々、累積される中、国際社会は日本の財政運営に厳しい目を向けている。近著(共著)「持続不可能な財政」で日本の危機的状況を訴えた日本総合研究所主席研究員・河村小百合氏に日本の置かれた状況を聞いた。(共同通信=太田清) 

 

2010年2月、ギリシャ政府の緊縮策に反発し、首都アテネの国会議事堂前広場で警官隊と衝突するデモ参加者ら(共同) 

 

▽債務調整 

 

 ―103万円の壁引き上げについて、IMFは歳入確保、歳出削減などを通じた財源の確保を求めた。 

 

 「当然の見解だ。日本の財政は国際的に見ても極めて悪く、税収が増えた場合、まず国債発行額削減などを通じた財政健全化に充てるべきで、財源の確保のないまま減税することは許される状況にはない」 

 

 ―IMFは大規模災害に備えた財政余力の確保も求めた。 

 

 「日本では近い将来、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの大規模災害の発生が予想され、実際に起きた場合は、政府は巨額の財政出動を余儀なくされる。その際に余力がなければ、すぐにでも債務調整に追い込まれる恐れが強まる」 

 

 ―債務調整とは何か。 

 

 「大幅な増税や歳出削減が考えられるし、基幹税の増税で賄いきれなければ、国民の金融資産や不動産に財産税を課し強制的に徴収、債務返済に充てるということもありえる」 

 

 「ギリシャやアイスランドなど海外の例を見ると、海外に資産が逃げないように資本移動を規制した上で預金を封鎖することも同時に行われている」 

 

「年収103万円の壁」の見直しなどの合意文書に署名した(左から)日本維新の会の岩谷幹事長、自民党の森山幹事長、公明党の西田幹事長=3月3日、国会 

 

 ▽資産課税 

 

 「国債の債務不履行(デフォルト)を行えば、その多くを保有している金融機関の破綻が生じ金融システム崩壊につながりかねない。一方で、所得税や法人税、消費税などフローの経済活動に対する課税は、次々に満期が到来する国債の元本償還には不足する可能性が強く、そうなれば政府は大規模な資産課税に踏み切らざるを得ないだろう」 

 

 ―日本の財政が危機的な状況になった場合、IMFによる救済はあり得るのか。 

 

 「日本の国債は多くが国内で消化されており、現在のところ海外保有比率は低い。それだけ国内に貯蓄余剰があるということだ。言い換えれば2000兆円を超える個人金融資産、巨額の企業の内部留保があり、IMFはまずこれを使って債務を整理するよう求めるだろう」 

 

 ―そういう意味では、たとえ日本が危機に陥り国民の資産を徴収せざるを得なくなっても、真の意味での危機ではないと言うことか。 

 

 「国際機関の観点からは、そういうことになるだろう」 

 

 

都内で取材に答える河村小百合氏(共同) 

 

 ▽恣意的 

 

 ―日本の財政状況に話を戻すと、内閣府は年に2回、経済財政試算を公表。最新の1月17日の試算では経済成長すれば債務残高の対名目国内総生産(GDP)比は今後減少、低成長でも横ばいにとどまるとの見通しを示した。 

 

 「ばら色の予想だが、内閣府の試算は、潜在成長率や物価上昇率、長期金利について、あり得ないほど楽観的かつ不自然な前提を基に行われており、恣意的なものではないかと疑うほどだ」 

 

 「対して経済協力開発機構(OECD)が昨年1月に公表した日本の財政見通しは、より現実的な見方をしており、現状が続くとのベースラインの予測では目先は2026年ごろにかけて改善しても、その後は悪化の一途をたどるとみている」 

 

 「財政見通しについては、米国が議会予算局、英国が予算責任庁と、ともに独立財政機関が行っているが、日本の場合、政府の1部門である内閣府だ。独立性、客観性のある見通しが出せるのかは疑問だ」 

 

 ▽インフレの時代 

 

 ―コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降、世界はインフレ、高金利の時代に入ったとの指摘がある。 

 

 「米国でのトランプ政権誕生を受け、各国は防衛力強化のために財政拡張せざるを得なくなるなど昨今のインフレは当面続くとみた方がいい。それだけ日本の財政事情は厳しくなることが予想され、政府には財政健全化に向けた真剣な姿勢がこれまで以上に求められる状況となっている」 

 

  ×  ×  × 

 

 かわむら・さゆり 京都大卒業後、日銀を経て日本総研入社。2019年より現職。同年から財政制度等審議会財政制度分科会委員。 

 

 

 
 

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