( 278146 ) 2025/03/27 05:41:37 0 00 2000年の国民的ヒット作『やまとなでしこ』の配信が解禁された(出所:Netflix Japan公式Instagram)
“愛は、年収”。この鮮烈なキャッチフレーズを掲げた月9ドラマを覚えているだろうか。
2000年に放送された大ヒットドラマ『やまとなでしこ』(フジテレビ系)のNetflix・FODプレミアム配信が先月から解禁され、じわじわ再注目されている。
最終回は当時、平均世帯視聴率34.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した、言わずもがなドラマ史に残る名作だ。新作ドラマの制作が軒並みストップした2020年に放送された20周年特別編が記憶にある方もいるだろう。
放送から25年もの時が流れ、ふたたびアニバーサリーイヤーに復活した『やまとなでしこ』。今見てもなお感じる新鮮な魅力とは一体どのようなものだろうか。
■“合コンの女王”を令和に見ると…
主人公は松嶋菜々子演じる才色兼備のキャビンアテンダント、神野桜子。貧しい家庭の生まれに強いコンプレックスを抱える彼女は、お金に人一倍の執着があり、高収入の結婚相手を求めて合コンを繰り返している。
「借金まみれのハンサム男と裕福な豚男。どっちが結婚して女を幸せにしてくれると思いますか」
「どうしてルックスや性格で男を選ぶのは褒められて、お金で男を選んじゃいけないの?」
身も蓋もないがいっそ清々しい、そんな桜子の名台詞は作中で数えきれない。彼女がパートナーに望むのは「お金」のみで、愛情も整った容姿も若さも特に必要ないという。そのかわりにお金への欲望は天井知らずで、大病院の跡取り息子・東十条司(東幹久)と交際中の身でありながら、さらに上のお金持ちと出会うべく合コンに精を出している。
そんな桜子にうっかりひと目惚れするのが、堤真一演じる素朴な青年・中原欧介だ。欧介はかつて数学の才能を評価されてアメリカに留学していたインテリだが、道半ばで挫折。破産寸前の実家の魚屋を継いで庶民的な生活を送っていた。
過去の失恋を引きずっていた彼は、友人に無理やり連れ出された合コンで元カノとよく似た桜子と出会い、あっけなく恋に落ちる。欧介は好かれたい一心で肩書きを“医者”と偽り、なかなか引き返せなくなってしまうところから2人の物語ははじまる。
誰もが羨む高嶺の花である桜子と、貧乏だが人のよい欧介。勘違いから始まる、まさに王道のラブストーリーだ。
平成生まれの筆者は、放送当時を鮮明には覚えていない。2000年にトリップした気持ちで本作を久々に視聴したところ、令和に見る婚活ドラマとしての新鮮さに惹きつけられた。
■当時の“肉食系な婚活”が今では一般的に
『やまとなでしこ』といえば、桜子たちキャビンアテンダントが繰り広げる華やかな合コン描写。過去1500回以上合コンをしてきたと明言する彼女は、お金持ちに近づくためなら手段を選ばないしたたかな女性として描かれる。
ともすると打算的で奔放に見える、桜子の「結婚相手を条件で選び、何人もと出会いまくる」スタンスだが、今見ると幅広い層の共感を誘うキャラクター像のように思える。
若者の恋愛離れとは言われつつも、最近ではマッチングアプリの利用がすっかり一般的になり、出会いの場そのものはカジュアル化している。毎週のように違う恋人候補と会ってまたすぐ次に行く、桜子のような婚活スタイルも、程度の差はあれどもはや特段珍しいことではない。
実際に、筆者の周囲にいる20代後半〜30代前半の友人からも「マッチングアプリで会った人」の話題はそれなりの頻度で出てくるし、何人かとデートしていると聞いたところで、へぇそうなんだで終わる話である。
桜子の行動も「ずいぶんガツガツしているなぁ」と引かれるよりは、むしろ「ちゃんと行動していて偉い」印象を持つ人が今はより多いのではないだろうか(桜子の場合は交際中の身なので、その点は規格外なのだが)。
また桜子が結婚相手の条件(収入)を重要視する姿勢も、意外と好感を持たれそうな要素である。
現在のマッチングアプリのシステムでは、収入幅、顔写真、学歴、職業など恋愛市場のステータスとして判断されうるプロフィール情報が気軽に目に入る。便利なことも多い一方、無意識のうちに理想的な条件を欲張ったり、そんな構造に無自覚になりやすい環境でもあるのではないだろうか。
対して桜子は、「お金」という自分の欲しいものがただ一つ明確で、圧倒的な行動量も伴っているまっとうな努力の人だ。放送当時も多くの人に支持されたその主人公像は、現代でも再評価されて視聴者の心を掴むに違いないのである。
■「マッチングアプリなら即除外」される出会い
さらに『やまとなでしこ』が婚活ドラマとして示唆的なのは、多くの男性と出会ってきた桜子が最後に見つけた相手が、当初の希望条件とかけ離れた男性だということだ。
マッチングアプリやSNSが普及した今、自分の望むステータスを満たす相手や、アルゴリズムに推奨された相手と会うことは容易になった。それが婚活であればなおさら、何かしらの共通点があったり、好感が持てそうな相手を候補に選ぶのではないだろうか。
逆に自分自身がまだ自覚していない「好みの条件」を持つ相手と出会うことは、意外と難しい。その選択肢を気づかぬうちに自分で却下している(あるいはアルゴリズムによって除外されている)こともありうる。お金持ちを求める桜子も、マッチングアプリであれば欧介は即除外する存在だったはず。
そんな中で『やまとなでしこ』は、婚活市場で接点のない者同士が出会い、握りしめていた“条件”を手放すことで恋愛を成就させる、現代らしいメッセージ性を感じる作品でもある。
ときに衝突しながら距離を近づけていく2人のロマンティックな化学反応を、今こそ楽しんでほしい。
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白川 穂先 :エンタメコラムニスト/文筆家
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