( 278196 )  2025/03/27 06:42:10  
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「すき家」のネズミの混入が大きな話題となっている(撮影:今井康一) 

 

 衝撃的なニュースだった。 

 

 鳥取県南吉方にある「すき家」店舗で、今年1月にネズミが混入したみそ汁を提供してしまったようだ。提供を受けた客が食前に指摘した。客は写真を撮影しGoogle MAPにアップロードした。現在は削除されているが、その画像はかなりグロテスクなものだった。 

 

■発表まで2カ月、問題露見まで対応せず 

 

 同店舗は保健所との相談のうえで一時閉店、ネズミの再侵入を防ぐために対策を講じた。そこから同社の発表まで2カ月がかかった。これに批判が集まっている。 

 

 同社は「すき家に関する一部報道について」とするプレスリリースで<喫食前の「みそ汁」に異物が混入しているとのご指摘をいただきました。その場で従業員も目視を行い、異物が混入していたことを確認しています>としているので、客の自作自演ではないとみなして私は論を進めたい。 

 

 <混入原因について調査を行った結果、「みそ汁」の具材をお椀に入れて複数個準備をする段階において、そのうちの1つのお椀の中に異物が混入していたと考えられています>ともある。 

 

 さらに発表が遅れてしまった理由についてはお詫びとともに<発生当初に当社がホームページ等での公表を控えたことで、事後の断片的・間接的な情報により多くのお客様に不安と懸念を抱かせる結果となってしまいました>とした。 

 

 客に健康被害は出なかった。ただし、まさに「事件」ともいうべき事態に発展した。 

 

■企業の真相解明とSNSが騒ぐタイミングのギャップ 

 

 まず、一般的にいえば、企業の危機管理と情報公開のタイミングを考えると、検討すべき点をはらんでいるといえるだろう。発生から2カ月かかったことは説明したとおりだが、その遅れたその事実そのものがSNS上での拡散の原因となった。 

 

 私はゼンショーが隠したいと思っていたとは思わない。むしろ、真相を究明後に公開しようと思っていたはずだ。ただし、ゼンショーは、すき家の事案発生後に、SNSでの拡散をきっかけに認めざるをえなくなった。企業からすると、この意図せぬ「沈黙の期間」が信頼度に影響してしまったのだ。 

 

 すき家は、先に紹介したプレスリリースで<当該従業員が提供前に商品状態の目視確認を怠ったため、異物に気付かずに提供が行われました>と説明している。では、なぜこの「目視確認」という基本中の基本がなぜ実行されなかったのか、疑念の声があがっている。 

 

 

 私からすると、これは酷な批判だ。 

 

 というのも、そう批判している人たちが働いている企業でも、無数のルール違反があるはずだ。「現場では、こうすることになっている。しかし、現場作業者が、なぜルール通りにしなかったのだ」と批判されても、瞬時に答えを出せるならば、事前にその対策を打たねばならなかったはずで、瞬時に答えられたら、それは事前対策を講じなかった悪しき企業のはずだ。 

 

 とはいえ、これはダラダラと対応してもいい、ということではない。客が写真を投稿したGoogle MAPは当初、ささやかな影響しかもたなかった。しかし誰かに「見つかる」と早い。消費者が潜在的にもつ情報発信力と、それに完全には対応しきれない企業側とのギャップは意識されるべきだろう。 

 

■食品の混入が起きる理由 

 

 さらに、これはチェーン展開にも課題を投げかける。それはチェーン店の品質管理システムの脆弱性だ。 

 

 全国で約2000店舗を展開するすき家において、各店舗の品質管理をどう統一的に維持するのかは重要な問題だ。さらにグローバル展開する場合は、他国の失敗が、違う国に波及しかねない。これはあまり指摘する論者はいないが、新たな危機管理の観点だろう。 

 

 というのも、これから国によって経済発展状況も違うし、建物構造や老朽化状況、害獣対策も異なる。衛生管理の状態も違う。この多様な状況において、グローバルに管理せねばならない困難な状況に企業はいる。 

 

 私は個人的に企業のサプライチェーンのコンサルティングに従業している。一般的に食品の混入が起きる理由は次だ。なお、私は次の理由ゆえに「仕方がない」といいたいわけではない。 

 

 1.「施設の老朽化と構造的な問題」:まずは、ゼンショーもいうとおり、老朽化した建物の隙間や破損箇所から害獣が侵入する場合がある。もちろん、これは、換気設備や配管周りの密閉性不足の場合もあるものの、賃貸物件の事情がある。 

 

 2.「衛生管理の問題」:清掃手順の不徹底や頻度不足がある。また、害虫・害獣対策はやっているものの、スタッフがその行為を形骸化してしまっていれば意味がない。さらに、スタッフの衛生教育やトレーニングが不足しているケースがある。 

 

 

 3.「雰囲気・文化問題」:これは上記の1.2.と重複するのだが、従業員が時間に追われているなどのプレッシャーがあれば、対策のすべてが簡素化される可能性がある。また、人手不足に陥っていれば、責任の分散や責任放棄もあるだろう。とくに、マニュアル遵守の文化が醸成されていないケースがある。 

 

 4.「サプライチェーンが複雑な問題」:原材料調達から店舗提供までがあまりに多段階であり、異物の混入が防止できない可能性がある。 

 

 繰り返し、これは一般論であり、ゼンショーや「すき家」での原因を断定するものではない。 

 

■どんな対策ができるのか 

 

 では、どうすればいいだろうか。おそらくプラグマティックな観点からの経営が必要だろう。さらに対策の短期化とトレーサビリティだ。 

 

 まず、SNSが短期間に問題を拡散する可能性があった。しかし、企業としては短期間で原因究明できない。その場合、結局は、消費者の信頼をつなぐために、できうることをやる、ということになるだろう。 

 

 まずは、未完成の状況でも、(即日とまではいわないが)できるだけ早めに「事象」「現時点でわかっている原因」「わかっていないこと」「今後のスケジュール」を公開する。そして、現時点でできうる限りのことを実施していると真摯に説明すること。透明性を図ること。 

 

 そして、次に、私はいよいよ各工場と各店舗に、トレーサビリティシステムを構築する必要が出てきたと感じる。トレーサビリティとは、追跡可能性だ。 

 

 今回、調理段階ではネズミが混入していないとカメラで確認したそうだが、ではどの段階なのか。さらに以前の工程か。それとも、調理後にインシデントでネズミが入ったのか。 

 

 あるいは、客に提供してから、そのわずかな時間に入ったのか。完全証明システムが自社の改善とともに、自社の潔白証明にもなるのではないだろうか。 

 

 やや企業に寄った意見ではあるものの、決してゼンショーだけに起きうる問題ではないはずだ。本件が他山の石になるよう、私はこの事件をきっかけに日本飲食全体の改善を祈っている。 

 

■その他の画像 

 

坂口 孝則 :未来調達研究所 

 

 

 
 

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