( 278211 ) 2025/03/27 06:58:26 0 00 (c) Adobe Stock
兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラ疑惑などの内部告 発をされた問題で、弁護士らで構成する第三者委員会は3月19日、「斎藤知事にはパワハラ行為があった」と断じる調査報告書を県代表監査委員に提出した。県議会の調査特別委員会(百条委員会)は「パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった」と認定していたが、より厳しく認定した形だ。斎藤知事を巡っては、昨年9月に不信任決議が可決されたが、11月の出直し選挙で再選。その時の選挙にかかった費用は21億円でこれを民主主義のコストというのだろうか。県民からは辞職や再選挙を求める声もあがるが、関係者は慎重論も強い。経済アナリストの佐藤健太氏が解説するーー。
「机を叩くのは相手を威圧する行為であり、パワハラであると認定します。夜間休日にチャットを送り、業務を行うことを求めるのは行き過ぎだと思っています」。県からの委託契約に基づき昨年9月から事実関係の調査をしてきた第三者委員会の藤本久俊委員長はこのように指摘し、調査対象となった16項目のうち10項目の行為をパワハラと認定した。
第三者委員会は6人の委員・調査員で構成。2024年3月、県西播磨県民局長だった男性職員が「告発」し、同4月に県の公益通報窓口に通報した内容などについて調査してきた。公表された86ページにわたる調査報告書を見ると、「パワハラ」「不適切な言動」などに該当するとされたのは次の行為だ。少し長くなるが、重要箇所を抜粋して書いておきたい。
パワハラ行為と認定された1つ目は、出張先の考古博物館のエントランスが自動車進入禁止だったため約20メートル手前で知事が公用車を降りることになった際、出迎えた職員を激しく叱責した。第三者委はこの言動が「指導の必要性がない上に、相当性を欠く方法で行われた」と認定した。
2つ目は、「空飛ぶクルマ」についての報道が企業との連携協定締結式前にされたことに知事が厳しい口調で担当職員を問い詰めた行為。これも「叱責、指導する業務上の必要性はなく、理不尽と言うべきものであって、パワハラに当たる」とされた。
3つ目は、教育委員会が所管する県立美術館が夏休み期間中に休館するとの新聞記事を見た際、知事は「聞いていない」と激怒して関係職員を叱責した。報告書では「他の職員にも知らしめる形で『こんなことでは県立美術館への予算措置はできません』と述べて、怒りの程度が強いことを表現し、圧力をかけた」と不適切行為に認定した。
4つ目は、兵庫県が受賞した選定証授与式のマスコミ取材がないことを問題視した知事が夜間・休日に職員へチャットを送り、取材交渉するよう繰り返し強く求めた行為。「実現困難な業務についてする過剰な要求」とパワハラ認定された。
5つ目も取材関連だ。関係職員に対して取材があったことを報告せず、報道内容の事前レクチャーがなかったことなどを知事が叱責した行為で、「職員に過大な要求を求め、それができないことへの叱責であり、パワハラに当たる」とされた。
6つ目は、港湾計画事業に関する報道がなされたことに関して知事は担当職員を呼び、「許せない」などと机を叩いて叱責した。これも「相手の職員に精神的衝撃を与えたことは否定できない。伝え聞いた職員は、畏怖し、その勤務環境は悪化した」と断じ、パワハラに当たるとした。
7つ目は、マッチングシステムに関する知事協議で担当者が説明を始める前に知事は「なぜ今聞かないといけないのか」などと一蹴した行為。「予算化された事案について、説明を聞くことなく、知らない等と述べたり、担当者をないがしろにしたりすることは、相当性を欠く」と結論づけた。
8つ目も知事協議で「こんな話聞いていない」「なんで勝手に作っているのか」などと担当者らを知事が叱責した。報告書は「一部の職員に、斎藤知事は事情を聞いてくれないとの気分を生んだ」とパワハラ認定された。
9つ目は、知事肝いり事業の協議でキャンペーン用の団扇を見ながら斎藤氏は舌打ちし、大きな溜息をついた。知事のメッセージと顔写真を入れた団扇でなかったといい、「舌打ちをし、ため息をついて相手に考えさせようとすることは、無用に相手を威圧し、萎縮効果を生じさせるものであって、相当ではない」と判断された。
最後は、知事からの夜間や休日のチャットによる継続的な叱責・業務指示だ。第三者委は「対象となる内容が必ずしも緊急性のあるものではなく、翌登庁時に協議すればよいものが多く、職員の生活時間を無用に侵害している」とした。パワハラと認定された10の行為を見ると、そこには知事と職員のコミュニケーション不足や職員風土、組織上の問題点などが浮かび上がる。
斎藤知事が片山安孝元副知事と協議した際に付箋を投げた行為については、片山氏が威圧を受けたとまでは感じていないと述べていること、知事と密接で信頼し合った関係にあったことなどから「パワハラと断定し難い」と判断。スポーツイベントで知事用の個室が用意されていなかったことに知事は不満だったが、担当者が直接叱責されたものではないことからパワハラ認定はされなかった。数々の贈答品を知事が受け取っていたことは「贈収賄と認定することはできない」とした。
一方、元県民局長は県の公益通報窓口にも通報していた。だが、県は公益通報者保護法の対象外と判断した上、停職3カ月の懲戒処分としている。この点について、第三者委は「公益通報に該当する」と判断し、「県の対応は、法律及び指針の趣旨に反するものであって、極めて不当であった」と指摘。さらに通報者の探索がなされたことや元県民局長の公用パソコンを引き上げた行為などは「違法」と断じ、知事の意向で内部公益通報の調査結果が出るのに先行して元県民局長を懲戒処分としたことは「不相当」としている。
第三者委がパワハラ行為や公益通報者保護法違反などを認定したことを受けて、斎藤知事は3月21日、記者団に「公務多忙でしばらく時間をもらいたい。(26日の)議会閉会以降に県としてコメントを伝えたい」と語り、辞職は否定した。ただ、県民からは「様々な批判を乗り越えて頑張って欲しい」との声があがる一方で、「兵庫県の恥」「もう一度、知事選をしてほしい」といった厳しい声もあがる。
3月4日に調査報告書を公表した県議会の百条委員会もパワハラ行為で一定の事実を認定している。元県民局長に対する対応は「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と指摘。職員への叱責も「パワハラと言っても過言ではない不適切なものだった」と認定された。ただ、斎藤知事は「議会側から1つの見解が示されたことはしっかり受け止める必要がある。改めるべきは改めていくことが大事」と説明。パワハラ行為に関しては「厳しく指導や注意をしたが、業務上必要な範囲内で県政を良くしたいという思いだった」などと述べるにとどめている。
百条委員会の報告書は元県民局長の告発文書をめぐる対応に関し「県の対応は、組織の長や幹部の不正を告発すると、告発された当事者自らがその内容を否定し、更に通報者を探して公表されたうえ、懲戒などの不利益処分などにより通報者が潰される事例として受けとめられかねない状況にある」と指摘。今後は「外部公益通報に対応できる体制づくりを進めるとともに、告発内容の調査に当事者は関与しないこと、通報者探索及び範囲外共有などは行わないことの明確化が必要である」としている。
だが、斎藤氏は「文書は誹謗中傷性の高い文書。公用パソコンの中には倫理上極めて不適切な文書が作成されていることなどが判明した」などと説明。「ハラスメントは当事者によって司法の場で判断されることが一般的。公益通報についても違法性の判断は司法の場でされる」として、これまでの対応は適切だったとの考えを重ねて示している。
2つの調査報告書を読めば、斎藤知事と職員らの間には少なくとも大きな溝が生じていたことがわかる。何より、パワハラ行為が認定された事実は重いだろう。百条委員会の報告書は「文書問題に端を発する様々な疑惑によって引き起こされた兵庫県の混乱と分断は、いま、憂うべき状態にあることを真摯に受けとめなければならない。県民に対して過不足のない説明責任を果たすとともに、先導的かつ雄県の名にふさわしい進取の気質に富んだ兵庫県政を取り戻すことを切に願うものである」と求めている。
斎藤知事は昨年に県議会で不信任案が可決され、出直し知事選で返り咲きを果たした。直近の“民意”で言えば、斎藤氏はたしかに得ている。ただ、2つの報告書で結論が出されたにもかかわらず、何もしない現状維持では県民が納得せず、県政を力強く前進させることは難しいだろう。県議会からの辞職要求は改めてなされていくはずだ。知事は再び辞職するかどうかの瀬戸際にある。「民主主義のコスト」をどう考えるべきか。兵庫県政の迷走は、2025年もしばらく続きそうだ。
佐藤健太
|
![]() |