( 278306 )  2025/03/28 03:40:21  
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周囲の説得に耳を傾けず… 

 

斎藤元彦・兵庫県知事の疑惑を調べた第三者調査委員会は、パワハラなどの疑惑を告発した後に自死した元西播磨県民局長・Aさん(享年60)を斎藤知事らが処分したことは公益通報者保護法違反だと断定した。だが3月26日に記者会見した斎藤知事は「さまざまな意見がある」として、違法だと認めることを拒否した。その直前、複数の県幹部が斎藤知事に「Aさんの名誉回復を図ってご遺族に謝罪しましょう」と働きかけていたことが分かった。この進言を蹴った斎藤知事に、県職員らの怒りは収まらなくなっている。 

 

第三者委が指摘した計11件のパワハラ行為は認めるが、自分への処分は行なわない。匿名で疑惑を外部に知らせた元県民局長のAさんを特定し、処罰したことが公益通報者への不利益な取り扱いを定めた法に違反するとの指摘はそもそも受け入れない――。 

 

第三者委の報告が公表されてから1週間を経て斎藤知事が3月26日に示した反応に、県職員の一人は怒りを通り越し「もう無理です。斎藤知事とはやっていけない」とあきれ果てた表情を見せた。彼がそう語るのには理由があった。 

 

「斎藤知事が地位にとどまりながら県政の混乱を終わらせるために、複数の県幹部が知事の説得を試みたんです。でも知事はその進言をけんもほろろに扱い、結局解決への道を閉ざしてしまったんです」 

 

そう言って頭を抱えた県職員は「やっぱり斎藤知事では無理です」と絞り出すように話す。失敗した説得とは、告発者であるAさんの名誉を回復させようというものだったという。 

 

「Aさんは昨年3月12日、知事が日常的にパワハラやおねだりを行ない、公金不正支出の疑いもあるなど7項目の疑惑を綴った告発文書をメディアなど10か所に送りました。 

 

文書の存在を知った斎藤知事は腹心だった片山安孝副知事(昨年7月に辞職)らに発信者探しを指示。メールの分析でAさんを疑った片山氏は、事情聴取でAさんから自分が発信者だという自供を引き出し、県公用パソコンを取り上げました。 

 

そして斎藤知事は昨年3月27日の記者会見でAさんを『公務員失格』『うそ八百』と非難したのです。 

 

その後5月には、告発文書を送ったことと、他に3つの不適切な行為をしたとの理由でAさんを停職3か月の懲戒処分にします。ほかの理由はいずれも、取り上げたパソコンの中にあったデータを見て、はじめて県当局が分かった内容でした」(地元記者) 

 

だが、その後、他の職員からもパワハラ証言が出るなどして告発文書には信ぴょう性があるとの見方が強まり、県議会が調査特別委員会(百条委)を設置し疑惑究明が本格的に行なわれることになる。そうしたさなかにAさんが急逝。自死とみられた。 

 

「百条委の設置前、片山氏が取り上げたパソコンの中にあったAさんの私的なデータがプリントアウトされ、当時の井ノ本知明総務部長が県議らに見せて回っていました。 

 

百条委ができてからは、当時いずれも維新に所属し、委員会の副委員長だった岸口実県議と同委メンバーだった増山誠県議がこの私的データの開示を執拗に求めました。いずれも、Aさんを貶めて告発は信用できないと印象づける狙いだったとみられます。Aさんは私的データの内容が出回ることに苦しんでいました」(Aさんの友人) 

 

 

Aさんの尊厳は亡くなった後も傷つけられた。県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤知事が再選を目指した昨年11月の出直し知事選で、「当選は目指さず斎藤さんを応援する」と言って立候補した立花孝志NHK党党首が、Aさんの私的データの「内容」とするものを街頭演説などで公言。 

 

同時に「疑惑はうそで、斎藤さんはハメられた」との主張を繰り返し、これがSNSで拡散し斎藤知事再選を後押ししたとみられている。 

 

だが、選挙の後も百条委の活動は続き、ついに今年3月4日、斎藤知事が部下にキレ散らかしたことはパワハラと認められる要素を満たし「不適切な叱責があったと言わざるを得ない」と明言する調査報告書を公表。そこではAさんの処分も「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と判断した。(♯36) 

 

ここから兵庫県庁を巡る情勢は混迷の度を深める。斎藤氏は県議会本会議が百条委報告を了承した3月5日の記者会見で、報告書は「1つの見解」にすぎないとして受け入れない態度を強調。 

 

さらにAさんの処分を撤回しないのかと聞かれると、突然饒舌になってAさんのパソコンに「倫理上極めて不適切な、わいせつな文書」があったと言い始めたのだ。(♯37) 

 

「この発言で県職員の間では斎藤知事への不信がさらに高まりました。井ノ本氏や岸口、増山両県議と同じことを、知事が自ら始めたと受け止められました」(県職員) 

 

一方、斎藤知事の支持者の間でも「知事と対立する県議会の一部である百条委の報告は信用できない」との不満の声が渦巻き、県が設置した第三者委員会なら百条委の判断を覆すだろうとの期待が高まっていた。 

 

「ところが3月19日に出た第三者委報告は、パワハラも告発者つぶしの公益通報者保護法違反も、百条委以上に明確に認める内容になりました。二つの委員会で相次ぎ“クロ”と扱われた斎藤知事は即座に反応できず、1週間の沈黙を続けたのです」(地元記者) 

 

そして、この間に複数の県幹部が斎藤知事に働きかけたのがAさんの名誉回復を図ることだったという。事情を知る県関係者が話す。 

 

「“わいせつ文書”発言には多くの県職員と幹部が憤り、動揺しました。しかしもう一年も続く県の混乱を収めるには第三者委の報告が出たタイミングしかない。そうした考えで、複数の幹部が斎藤知事に対し、『Aさんの処分を撤回して名誉を回復させ、ご遺族にも謝罪しましょう』と働きかけたんです」 

 

 

百条委報告を一蹴した斎藤知事には県議会からも不満が高まっていたが、定例議会の会期末が近づいても知事に問責や辞職勧告、さらには二度目の不信任決議を突きつけようとの動きは顕在化しなかった。 

 

「『また不信任決議案が出される』といったうわさも一時流れましたが、事情を知らない者によるデマか根拠のない妄想です。なぜなら、県議会の主要会派は県幹部らの知事説得の動きを察知し、奏功することを願っていたからです。 

 

しかしだれも知事の最終決断を読めなかった。そうして迎えた最終日の3月26日に、斎藤知事は第三者委の“違法”との指摘をまったく受け止めず、Aさんの処分は『適切だった』とこれまで同じ主張をしたんです。こうして県職員と議会の最後の期待は吹き飛びました」(県議会筋) 

 

斎藤知事は会見で、公益通報者保護法違反かどうかは弁護士ら専門家でも「意見が分かれる」と主張。違法には当たらないとの主張をしている専門家の例として、斎藤知事を擁護し続けた増山県議が百条委に推薦した弁護士や、「私の弁護士」を挙げた。 

 

「結局、自分の望む方向へ進めるため都合のいい意見しか聞かないということです。Aさんを処分した昨年春と、何も変わっていません」(冒頭の県職員) 

 

Aさんを非難した会見から3月27日で1年。斎藤知事自身の手により、当面混乱を収拾する道は絶たれた。県議会と県職員の間では失望と怒りが広がっている。 

 

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

 

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