( 278476 )  2025/03/28 06:48:19  
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日産が今後の経営戦略をメディアに向けて発表した。 

 

 2024年、ホンダとの協業のニュースを発端に、合弁会社の設立や子会社化などの議論による混乱を経て、ひとまず社長交代という流れに落ち着いた日産。しかし、ここまでのイザコザによる話題は、決していいものではなく、関係者やファンからは大きなため息が出てきたのが実情だ。 

 

 いまの日産に必要なのは、ブランド価値を回復させ、よりユーザーに寄り添った商品展開を進め、信頼性を取り戻すことだろう。 

 

 しかし、「これから心機一転頑張ります!」といったところで、口にするだけなら誰にもできる。必要なのは具体的なビジョンだ。 

 

 2025年3月25日、国内外から日本をはじめさまざまなメディア関係者が、神奈川県厚木市にある、日産テクニカルセンターに招かれた。ここで行われたのが、まさに「これから頑張ります!」宣言を、より具体的に説明するという発表会だ。それも、スマートフォンやカメラのもち込みがNGというなかなかに厳重な体制。いったい何が発表されるのだろうか。 

 

 この日、会場でプレゼンを行ったのは、日産でチーフパフォーマンスオフィサーを務める、ギョーム・カルティエ氏と、4月1日より社長に就任するいま話題の人物、チーフプランニングオフィサー(現職)のイヴァン・エスピノーサ氏、そして、フェアレディZやアリアのデザインを担当した、アルフォンソ・アルバイザ氏の3名。今の日産の顔とも呼べる錚々たるメンバーだ。 

 

 まず、ギョーム氏のプレゼンから会はスタート。 

 

「日産にとってモビリティはワクワクを体現するものであり、それを我々がユーザーに届けるのが使命です。しかし、メーカーは謙虚な姿勢を忘れてはなりません。いまの日産はご存じのとおり、社内外に大きな課題ばかりを抱えているのは事実です。たとえば、グローバル企業である日産といいながら、まだまだ進出できていない市場があることや、カーボンニュートラル社会を目指す上で欠かせない持続可能な生産環境の整備もまだ追いついていません。さらに、現在かかっている莫大な固定費も見直し、売り上げアップも目指さねばならない。とにかく課題だらけです」 

 

 と、現状の日産の立場を改めて整理した。そして、2025年度から順次世界での商品展開を見直していくと宣言。 

 

「具体的には、まず日産は市場戦略を見直し、市場ごとに最適なモデル、パワートレインを展開します。たとえば、北米市場でのSUVは需要も高いので、それらを軸に、EVやPHEV、ハイブリッドの展開を増やす予定です。また、欧州も同じくEVやPHEV、ハイブリッドの展開を拡充していく予定です。一方で中国はEVの輸出拠点として環境を整備し、中国オリジナルモデルの展開も進めていき、より中国市場に沿った商品展開を目指します。それと、メキシコや中近東は日産が非常に力をもっている市場で、日産車が人気です。ここでも、より強力な商品展開を考えています」と語った。 

 

「また、日本に関しては日産のホームであることから、日本ならではの商品展開を進め、日産らしいブランドイメージを再建したく考えています。我々のプロジェクトでもとくに重要な市場です」と、期待を込めたプレゼンを行った。 

 

 なお、この過程において、海外で展開されるプレミアムブランド、「インフィニティ」の今後についても触れた。インフィニティでは、2024年に登場したフラッグシップSUVであるQX80が好調とのことで、よりインフィニティらしいブランドイメージを構築し、日産ブランドとは差別化した商品展開を進めていくとしているそうだ。 

 

 次に登場したのが、注目の次期社長であるイヴァン・エスピノーサ氏。 

 

「日産はバランスが大事な企業です。今後はICE車のマイナーチェンジを積極的に進め、新型EVも多数投入していきます。とくに、ギョーム氏からもあったように、北米、カナダ市場はもっと活性化させねばならず、新モデルを多数投入していく予定です。それと、インフィニティブランドもより価値を上げていきたく考えてます。欧州では新型マイクラやジューク(どちらもEV)を展開するほか、中南米にもEVや新型モデルを投入し、インド、アフリカ、オセアニアにも新型車を導入します。中国では2026年までに新エネルギー車を8モデル投入する用意もあります」 

 

 日本市場へは、以下のように述べた。 

 

「それから日産は、日本がホームグランドであることは揺るぎない事実です。よって、ここをおろそかにしてはいけません。2026年には、第3世代となる新型e-POWERを搭載した新型車を投入する予定のほか、3代目となる新型リーフ(後述)も展開します。この第3世代e-POWERは、いままでのe-POWERが苦手としていた高速走行も効率的に行える次世代のパワーユニットとなっています。これは、アメリカなどの高速移動が多いハイウェイでも真価を発揮するので、世界中の人々が待ち望んだユニットになるはずです」と語った 

 

 日本市場を盛り上げる計画も忘れておらず、今後もより積極的な商品展開をしていくとした。 

 

「日産では、『代表モデル』『高競争力モデル』『パートナーシップ活用モデル』の3つのカテゴリーがあります。『代表モデル』は、いうまでもなくこれはブランドの顔となるクルマです。『高競争力モデル』は、ライバル車種が多い激戦区のカテゴリー。『パートナーシップ活用モデル』は、ルノーや三菱と協力して作ったモデルで、OEMモデルです。これらをうまく活用することで、より魅力的な商品展開が可能となります。日産の今後にご期待ください」 

 

 さて、次期社長のイヴァン氏。日産に入社してから25年目となるベテラン社員で、一部で噂されているとおりの大のクルマ好き。それも生粋の日産ファンだ。300ZX(Z32型)を見て、「ポルシェみたいな性能のクルマが半額で買えるってマジかよ!」というのが、日産との出会いだったという(実際いまの愛車は現行型のZだ)。若いころは、愛車をDIYで整備したりすることもあったそうだ。 

 

 会場からはいくつかの質問も飛んだ。 

 

「いまの日産はモデルライフが長すぎるが、今後の考えは?」「日産は日本の企業なのに日本の商品がハッキリ言って非力だ。どうする予定か」という質問に対しては、「社内の各部署の考えと市場のリアルでは乖離があるのが現状です。売れる台数や開発にかかるリソースの共有と見直しが急務だ。そこを早急に改善していく」と述べた。 

 

 また、「日本における日産は高価格モデルが少なく、ブランド価値が落ちている。日本の平均価格を上げ、商品価値を上げていきたく考えている。なお、『このモデルはこの地域だけ』ということは今後減らし、グローバルで通用するクルマを多く展開したいね。それと、日本ではガソリン車の人気がまだまだ根強い。その辺りも積極的に再検討したい」とも語った。 

 

 そのほかにも、「いまの日産はとにかく社員のモチベーションが下がっており、窮地に陥っているのは事実だ。しかし、日産には素晴らしい社員たちがいて、素晴らしい技術があるのは揺るぎない事実。今日それを感じ取ってもらいたい」 

 

 さらに報道陣からは、「GT-Rは今後どうするつもりですか?」と質問が飛んだ。これに対しては、「GT-RやZは日産を象徴するクルマなので作らなければいけない。スポーツカーは正直利益が出ないので、会社的にはいい分野とはいえない。しかし、作るのが使命と考えている。それに、こういったクルマがあれば、社員たちは確実にモチベーションが上がるからね」と、クルマ好きを震わせるような考えも口にした。本人がクルマ好きなのだから、このひと言には期待できそうだ。 

 

 最後に、「ホンダとの協業はどうするのか?」という質問に対しては、「パートナーはホンダに限らず多方面で考えている。とはいえ、協業というのは引き続き行う予定だ。それと同時に、日産というブランド価値を守らねばならない」と語る。 

 

「ここ最近は、市場変化が目覚ましい。バイデン政権ではEVを〜……なんていってたのに、いまではその逆だ。つまり、いままでのペースでクルマを作っていては追いつかない。従来は新車の開発に約55カ月かかっていたが、今後は37カ月でできるよう環境を整備していく。マイナーチェンジは30カ月が目標だ。とにかくスピードが重要な世界なので」と、日産の開発プロセス改善にも意欲を示した。 

 

 

 さて、日産の首脳陣が今後の日産について語ったところで、次に我々が目にしたのは今後販売される予定の新型車たちだ。オフレコ車両も多かったが、その一部をお伝えしたい。 

 

 まず、デザイナーのアルフォンソ・アルバイザ氏のアンベイルにてお披露目したのは、3代目となる新型の日産リーフだ。 

 

「初代リーフは日産を象徴する革命的な1台でした。この新型は、そんな初代モデルからインスピレーションを受けています。小さなパワーでありながら、空力を重視し、風が流れるようになっているのが特徴です。しかし、風が流れるような佇まいでありながら、モダンで筋肉質なボディラインとしています。ルーフはパノラミックルーフを採用し、リヤは迫力のあるパワフルな印象としています」と、特徴を語った。デザインにはおおよそ3年の歳月を費やしたとのこと。 

 

 日産のデザインには、「粋」「間」「整」「傾く」「移ろい」という軸があり、このリーフにはさらに「駿」と「翔」という要素も与え、クリーンかつ繊細でありながら、力強さも取り入れた、日本らしさを全面に押し出している新世代のEVとしている。 

 

 現行モデルのリーフと比較すると、よりSUVチックな雰囲気となっており、実車を見た印象としては、フラッグシップEV「アリア」を小さくしたような佇まいだ。 

 

 プラットフォームはアリアと同様のCMF EVプラットフォームとし、3-in-1パワートレインを採用。足まわりは19インチのホイールとし、北米モデルにはNACS充電サポートを搭載するほか、日産初のテスラスーパーチャージャーへも対応する。 

 

 走行性能や空力特性の見直しで、現行モデルと比較して大幅な航続距離改善が見込まれているそうだ。続報に期待したい。 

 

 発表のステージでは、国内外合わせて30モデル以上の新型車を投入すると発表があったが、会場の外には、今後販売も予定されているモデルや、海外専売モデルを含め、15台ほどの車両が用意されていた。 

 

 現場には、イヴァン氏が語った『パートナーシップ活用モデル』に含まれる、ルノー5 E-Techエレクトリックをベースに、欧州で販売されるマイクラEVや、2023年のJMSで発表されたコンセプトモデル、「ハイパーパンク」をベースに、市販化一歩手前までの状態となっている、新型ジュークEVも置かれていた。 

 

「こんな奇抜なデザインになった背景は、『元々CG(ポリゴン)で作ってるクルマなんだから、そのまま実車もポリゴンにしちゃえ』という意見からこうなりました」と関係者は語る。明らかに異質……とまではいかないが、この見た目で街を走っていたら注目度抜群だろう。その是非は見た人の判断によるが……。ちなみに、見た目は当時のコンセプトカーにかなり近かった。ボディサイズこそもっとコンパクトだが。 

 

 また、エクサキャノピーを彷彿とさせるコンセプトEVバンや、北米で販売予定の新型ローグ(日本ではエクストレイル)、同じく北米などで人気のピックアップトラックのフロンティア、新型リーフの廉価グレードなども置いてあった。 

 

 この記事で語れるのは一部モデルだが、オフレコとなる展示車両のなかには、これから販売予定とされる、誰もが待ち望んだであろう、大注目必至の新型モデルなども含まれていた(鋭意開発中とのこと)。これらを見たら、「日産の逆襲劇が本当に始まりそうだな」と、本当に感じられるような内容であった。続報に期待したい。 

 

 どん底に陥っているといっても過言ではない現在の日産。口で「頑張ります」とはいくらでもいえるが、数十万人社員の人生を預かっているだけに、結果を残さなければいけない。これ以上後には引けないのだ。よって、次期社長となるイヴァン氏に課せられた責任はあまりにも重い。ただ、今回の発表を見て、そんな心配は無用になるかもしれないと感じた。なぜなら、もうすぐ新生日産の第1章が始まるのだから。 

 

WEB CARTOP 井上悠大 

 

 

 
 

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