( 278716 )  2025/03/29 06:43:23  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FredFroese 

 

70代からはお金とどう向き合えばいいか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「頑張って稼いだお金なのに、高齢になっても楽しく使うことができない人が多い。とくに団塊の世代は、これ以上欲を出して投資で儲けようと思わないほうが、心豊かに暮らせるだろう」という――。 

 

 ※本稿は、荻原博子『65歳からは、お金の心配をやめなさい』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。 

 

■団塊の世代が「貯めたお金」を使えないワケ 

 

 老後というと、健康がまず第一です。しかし、介護を含めお金の心配ばかりがクローズアップされすぎている気がします。 

 

 そのため、70歳を過ぎて、そのままいけば、つつがなく幸せな暮らしができそうな人まで、「老後資金が足りなくなるのでは」とか、漠然と「老後が不安」と感じていて、心が休まらない状態です。 

 

 70代になれば、お金を増やす必要はないのですから、残りの人生でお金をどう使うかに目を向けるべきではないでしょうか。 

 

 本稿では資産防衛から一歩進んで、幸せなお金の使い方について考えていきましょう。 

 

 「日本人は、死ぬ前がいちばんお金持ち」だと言われています。 

 

 10年前に出した、『貯め込むな! お金は死ぬ前に使え。』(マガジンハウス)という本を書くにあたって、いろいろと調べたのですが、当時の60〜69歳の貯蓄額は、2484万円で、どの世代よりも金持ちでした。 

 

 じつは、こうした状況はいまも変わらず、当時60代だった世代が70代になり、今は最もお金持ちです(「家計調査〈貯蓄・負債編〉」2023年)。 

 

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世帯主が50代の世帯 

貯蓄現在高1705万円、負債現在高715万円 

1705万円−715万円=990万円 

 

世帯主が60代の世帯 

貯蓄現在高2432万円、負債現在高201万円 

2432万円−201万円=2231万円 

 

世帯主が70歳以上の世帯 

貯蓄現在高2503万円、負債現在高78万円 

2503万円−78万円=2581万円 

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 世帯主が70歳以上の世帯は、貯蓄現在高は最も多く、負債現在高が少ないので、どの世代よりもお金を持っていることになります。 

 

 とくに、団塊の世代は群を抜いてお金を持っていますから、これ以上欲を出して投資で儲けようと思わないほうが、心豊かに暮らせるのではないでしょうか。 

 

 

■楽しくお金を使えないのは日本の教育に原因 

 

 いまの高齢者は、小さな頃から節約と貯金が身についている人が多く、たくさんお金を持っている上に、人並み以上の贅沢は求めず、いまだにお金をコツコツと貯金している人がたくさんいます。 

 

 慎ましく暮らすことは大切ですが、必要以上に慎ましい人を見ると、私は「お金の使い方を教わってこなかったからではないか」と思うようになりました。 

 

 頑張って稼いだお金なのに、高齢になっても楽しく使うことができないのです。 

 

 それは、日本の教育に原因があります。 

 

 日本は、1945年に、第二次世界大戦で敗戦し、東京などは焦土となりました。そこから経済を復興させるには、銀行にお金を集め、銀行が企業にそのお金を貸し付け、その金で企業が設備投資をしたり多くの人を雇い、雇われた人たちがしっかり働いて稼ぐ。そして、稼いだお金を銀行に貯金するという経済循環が不可欠でした。 

 

 そこで、政府は国をあげて「貯蓄教育」をしてきたのです。 

 

■小学校の5年生、6年生を体育館に集めて「強制貯金」 

 

 いま、政府は積極的に投資を呼びかけ、「新NISA」をスタートさせましたが、当時の政策は真逆で、「投資より貯金をしましょう」と盛んに宣伝していました。 

 

 戦争が終わった翌年の1946年に、通貨安定対策本部を中心に「救国貯蓄運動」がスタートすると、「25年度“特別貯蓄”で3400億円達成」などのスローガンを掲げ、貯蓄教育のために小学校に「こども銀行」をつくりました。 

 

 「こども銀行」などと聞くと、団塊の世代より後に生まれた人たちは、おもちゃのお金を使って貯金の教育をするのかと思うかもしれませんが、そんな模擬的なものではありません。 

 

 学校が「子ども通帳」なるものをつくり、毎月決まった日に小学校の5年生、6年生が体育館に集められ、そこで待ち構えている金融機関に、家から現金を持ってきて貯金するのです。 

 

 つまり、当時の貯蓄教育は、子どもに対する「強制貯金」そのものでした。 

 

 

■「無駄なお金は使わずに貯金する」という精神 

 

 こうして幼い時に、国によって「投資より貯蓄」を頭のてっぺんから爪先まで徹底的に叩き込まれた子どもたちが、団塊世代なのです。 

 

 「三つ子の魂百まで」と言いますが、彼らの根底には「無駄なお金は使わずに貯金する」という精神が脈々と流れています。 

 

 ずっと節約して無駄なお金を使わずに貯金し続けてきたので、楽しいお金の使い方がわからない。それは、誰からも教えられてこなかったからです。 

 

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70歳になっても、 

資産を増やそうと考えるのはやめなさい 

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荻原 博子(おぎわら・ひろこ) 

経済ジャーナリスト 

1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からはお金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。 

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経済ジャーナリスト 荻原 博子 

 

 

 
 

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