( 278736 )  2025/03/29 07:06:39  
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 石破茂政権の支持率が軒並み急落している。高額療養費制度の患者負担上限額見直しに伴う迷走などに加え、3月3日に首相が公邸で自民党衆院1回生議員と会食した際、「お土産」名目で1人あたり10万円分の商品券を配布したことが発覚。野党は「法律違反の可能性がある」と追及し、与党からも「国民感覚とズレている」との批判があがる。いよいよ石破首相の「退陣カウントダウン」が始まったのか。経済アナリストの佐藤健太が解説するーー。 

 

 一体、この国の政治家たちは何をやっているのかと情けなくなる。昨年の国会は、自民党の派閥パーティーをめぐる裏金事件で一色だった。政権選択を賭けた衆院選は「裏金議員」か否かで線引きされ、最大の争点が「政治とカネ」問題という始末だった。もちろん、それも政治家の資質や姿勢という観点では重要だったに違いない。ただ、国家ビジョンや物価高を踏まえた経済政策などで活発に論を競うよりも重視されたのは残念でしかない。 

 

 ロシアとウクライナの戦闘が続き、パレスチナ問題も再燃する激動の時代、先進国の国政における代表者を選ぶ最大の争点が「政治とカネ」というのは滑稽でしかないだろう。今年は米国でドナルド・トランプ大統領が再登板し、世界各国は関税やディール(取引)をめぐって激しい駆け引きをしている。こうした中で今度は「商品券」問題が発覚したというのだから辟易としてしまう。 

 

 当然ながら、メディアが実施する世論調査で石破内閣の支持率は軒並み急落している。 主な調査を見ると、共同通信の世論調査(3月22、23日実施)で内閣支持率は2月の調査時から12.0ポイント急落し、27.6%と政権発足後最低になった。商品券の配布は「問題だ」とする回答は71.6%に上る。ANNの調査(同)では支持率が前月から8.3ポイント減の29.2%となり、初めて3割を切った。商品券配布を「問題」とする人は66%で、共同通信の調査と同じく商品券問題が政権を直撃していることがわかる。 

 

 産経新聞とFNNの調査(同)でも内閣支持率は2月から13.9ポイント下落し、30.4%となった。日経新聞とテレビ東京の調査(3月21~23日実施)では2月から5ポイント減の35%だ。産経の調査で商品券問題に関する首相の説明に否定的な評価は8割近くに上り、日経の調査でも「納得できない」との回答は72%に上っている。 

 

 

 ただ、本当にこんなことをしていて良いのだろうか。たしかに1人あたり10万円分の商品券を配布するのは国民感覚からズレている。物価高で国民生活が打撃を受ける中、国会議員だけは別世界なのかと思うほどだ。ポイ活を必死にしている筆者からすれば、羨ましいという感覚を越えて「ズルい」としか映らない。しかし、誤解を恐れずに言えば「こんなこと」で貴重な国会の時間を使わないでもらいたい。 

 

 ANNの調査によれば、この商品券問題で石破首相が辞めるべきと「思う」は24.6%にとどまり、「思わない」は65.2%に上っている。産経の調査でも「辞める必要ない」は62.6%だ。永田町の論理から言えば、支持率が急落した首相は与党からも野党からも退陣圧力がかかる。だが、世論調査の結果は筆者の感覚と近いものがある。要は、仮に法令違反があるのならば捜査当局や司法の場に委ねれば良く、それよりも物価対策や経済をどうするのかを国会では優先的に議論し、実現させていって欲しいということだろう。 

 

 石破首相は3月13日、商品券配布に関して記者団に「会食のお土産代わりに、ご家族への労いなどの観点から私自身の私費、ポケットマネーで用意したもの」「政治活動に関する寄付でもなく、政治資金規正法上の問題はない。公職選挙法にも抵触するものでもない」などと説明した。ただ、外形的には首相から政治家サイドに「お土産」の範疇を超えたものが渡っているという批判対象になり得る。政治家個人への金銭等の寄付を禁じる政治資金規正法に抵触するとの声もあるだろう。 

 

 野党は“鬼の首”でも取ったように首相を追及し、民主党政権時代の首相経験者である立憲民主党の野田佳彦代表は衆院政治倫理審査会での弁明を求めている。首相も「納得いただけなければ、他の機会が与えられればする」と応じる構えで、またしても昨年の「政治とカネ」問題のような国会シーンが展開されている。 

 

 どうしても解せないのは、「なぜ石破首相だけ?」「なぜ商品券だけ?」という点だ。首相はこれまでにも同様に配布したケースがあるようだが、報道によれば岸田文雄前首相や安倍晋三元首相の時代にも行われていたとされている。それならば、なぜ石破首相だけが問題視されているのか不思議でならない。もっと言えば歴代政権の慣例だったのではないか、自民党以外の宰相は本当に問題がなかったのか、といった疑念を抱いてしまう。 

 

 

 もしも、石破首相が説明する「ポケットマネー」が事実ではなく、「官房機密費」などを用いていたならば、そんなことに国民の血税を使うのは言語道断だ。共産党の志位和夫議長は3月22日の「X」(旧ツイッター)で、「私が2002年4月に暴露した官房機密費の政府内部資料(91~92年の時期のもの)。『商品券』312万円とある。機密費を使って商品券をバラまくやり方は今日にいたるもずっと続けられてきた。こんな悪しき習慣は今度こそやめさせねばならない!」とつづっている。 

 

 志位氏が添付したメモの画像には、たしかに「商品券」という項目がある。その他にも「長官室手当」「SP経費」「○○出版記念」「記者懇会費」などの名目で支払金額と収入金額が羅列されている。官房機密費は性質上、その使途が秘密にされてきた。かつては「外遊」に国会議員が赴く前、首相官邸に寄って“お手当”をもらっていたという話もある。ただ、残念ながら商品券の配布に機密費が使われていたか否かは国会でいくら議論しようとも証明できないのではないか。 

 

 もっと言えば、石破首相が配布した商品券の原資がポケットマネーであれ、官房機密費であれ、「なぜ商品券だけ」問題視されているのか理解できない。言うまでもなく、首相ともなれば会食が多い。仮に自民党議員との飲食費を首相が払っていたとして「飲食でおごるのはOK」、でも「商品券はダメ」という理由がわからないのだ。同じ10万円分であれば国民感覚としては同じであり、何が違うのか説明してもらいたい。 

 

 自民党に限らず、政党の代表や幹事長、国対委員長ら幹部には役職に応じた「手当」が多くの党にあるはずだ。その幹部たちは「商品券」は配布しなくても同僚議員と飲食する際におごることはないのか。それが「手当」からなのか、ポケットマネーからなのか説明する必要もあるだろう。それらが全て公開され、透明性のある上で首相を批判するなら理解できるが、今の状態では決してフェアではないと映る。 

 

 マスメディアにも1つ触れておきたい。「あなたたちは、取材対象や取引先と会食した際にすべて割り勘ですか?」と。さすがに「懇談会」のような場合は会費制が多いだろうが、少人数のケースは相手側が払っている時も多いのではないか。 

 

 

 さらに言えば、取材対象の企業幹部と会食した際や就任祝いなどの時に「ビール券」や「商品券」などが渡されるケースもあるといわれている。もちろん、すべてのマスメディアに当てはまるわけではないにせよ、そうした場合が最近もみられるのはいかがなものか。 

 

 かつてはテレビ番組の出演者がトーク中にタバコを吸い、会社でも机上に灰皿が普通に置いてあった。長時間労働こそが当たり前という悪しき慣習が蔓延り、セクハラもパワハラも見て見ぬふりの状態が続いてきたことは否定できないだろう。だが、時代は令和だ。昭和の遺物のような感覚や制度はもはや許される時代ではない。 

 

 石破首相は「なんで俺だけ?」というのが本音だろうが、国民感覚とのズレは致命傷となり得る。自民党内からも今夏の参院選を前に「石破おろし」の声が日増しに高まる中、時代遅れの感覚はクリーンさを売りにしてきた石破首相こそが先頭に立って取っ払わなければならない。それができないようならば、自ら潔く退陣すべきなのかもしれない。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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