( 278841 ) 2025/03/30 03:57:38 0 00 写真:現代ビジネス
産経新聞とFNNが2月末に行った世論調査で、30代の政党支持率で自民党が3位に転落したことが明らかになった。1位は国民民主党で、2位がれいわ新選組だったことが、世間に衝撃を与えた。
〈産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が22、23両日に実施した合同世論調査で、若年層の政党支持率に「異変」があった。18~29歳では国民民主党が18・9%でトップとなり、自民党の11・8%を上回った。30代では国民民主が15・9%、れいわ新選組が14・4%となり、自民は11・2%で3番手に甘んじた。(中略)
若年層の支持に下支えされ、全体の支持率では国民民主が前回調査(1月18、19両日実施)比2・6ポイント増の9・8%で野党トップとなった。れいわは同1・7ポイント増の5・2%で、令和3年1月の現行制度での調査開始以降で最も高い数字を記録した。維新も同3・2ポイント増の5・7%と復調した〉(産経新聞「30代の支持率、自民が3番手に転落 国民民主、れいわの後塵拝す」2025年2月24日より)
結論からはっきり言うと、次の参院選で国民民主党が大きくその党勢を伸ばすであろうことは言うまでもないとして、れいわ新選組も負けず劣らず躍進することになるだろう。
れいわ新選組は前回の統一地方選で大躍進を果たし、前回の衆院選でも議席を3から9に増大させたことが記憶に新しい。かれらはその勢いを保ったまま次の参院選に臨む。他の政党の党勢にかかわらず独自の戦いを展開して大幅に議席を伸ばすだろう。全国的な影響力はさらに増す。ともすれば国民民主党や日本維新の会に引けを取らない「第三勢力」にまで成長する可能性がある。
かれらは2020年代後半の日本で、あなたが望むと望まざるとにかかわらず、間違いなく政治や経済や社会の「嵐」の中心になる。政治の世界でなにを議論するにしても、もはや「れいわ新選組」の存在を避けて通ることはできなくなる。
「れいわ新選組」の中心的な勢力基盤となっている地域は関東平野の東部(東京・千葉・埼玉)で、それ以外では大きく見劣りするものの、各主要都市圏の地方議会に議席を出せるくらいの一定の支持層を持っている。
支持層は主として30~40代の現役世代である。SNSで言われているほど無職やニートの集まりではないが、所得水準は低い。あまり政治についてのリテラシーが高いとはいえない。断っておくが馬鹿にしているわけではない。むしろそういう層にリーチする戦略を党としてきちんと練れているからこそ、「れいわ新選組」は強いのである。
政治経済に対する基礎的知識が乏しい人びとというのは、だからといって必ずしも政治的に無関心であるというわけではない。「政治家はなにかよからぬことをして、自分たちの生活を苦しくしている」という漠然とした不満は抱いている。しかし、自分たちの生活を苦しくする「よからぬこと」の実像は明確につかむことができないでいる。
「れいわ新選組」は、そういう曖昧な不満を抱える層に“わかりやすい答え”をキャッチーに提供することで勢力を伸ばしてきた。オーソドックスといって差し支えないポピュリズム政党であり、「脱原発(放射能恐怖)」とか「反TPP」の大衆的機運が過ぎ去ったあとに彼らが持ち出した最大の旗印が、いまも変わらない「消費税(廃止)」である。
所得水準が低くてリテラシーの乏しい層にとって、もっとも身近な税金は所得税や住民税より「消費税」である。「消費税=よくわからないけど、とりあえず庶民を苦しめるわるい税」という漠然とした認識が顕著に共有されている。れいわ新選組の代表・山本太郎氏はそういう空気感をきっちり嗅ぎ取っている。
「ソレ減税減税~! 消費税なくせ~! 消費税なくせ~! あソレ消費税消費税!なくせなくせ~!」などと、俳優仕込みのよく通る声でリズムよく音頭をとりながら練り歩く山本氏の街宣を見たことがある人もいるかもしれないが、アレがとにかくヤンキー層には刺さる。
「消費税」というのが「とりあえずなくすべき悪い税金の親玉」くらいの解像度で世の中を見ている、(言い方は悪いが)政治経済への知識が乏しく学習意欲も乏しい30~40代の人びとからの支持を「総取り」している。誇張表現でなく本当の本当に「総取り」しているのである。
SNSで熱心にれいわ新選組を支持する人びとのことを、周囲の人はしばしば「れいわ脳」などと呼んで軽蔑しているようだ。だが実際には、そういう人びとの想いを嘲笑せず真摯に受けとめて応えるからこそ、れいわ新選組はますます党勢を強めている。かれらは「見棄てられた人びと」と向き合っているのである。
れいわ新選組の支持層は、とにかく周囲の人びとに対して熱心に投票を呼びかける。自分の地域から出た候補者を本気で推している。親族にはもちろん、友人知人から近隣住民にも「布教活動」をためらわずやる。その熱量はもしかしたら、現存する国政政党のなかでは最強かもしれない。
国民民主党や日本維新の会の支持層にも、年齢的にはれいわ新選組の支持層と被る部分はあるが、両党の支持層の所得水準や学歴水準や政治経済リテラシーは比較的高く、そういう人は往々にして「押しつけがましい応援活動」を嫌う。やり方がスマートではないし、「宗教っぽくてキモい(と思われたらどうしよう)」という認識が動いてしまうからだ。
リテラシーの高いスマートな有権者は、選挙が近づいて唐突に「政治の話」をすると、周囲に引かれてしまうのではないか、というリスクを懸念してしまう。もっともらしいことを考えて、一歩踏み込むことをおそれてしまう。「まあ、思想信条の自由があるし、だれに投票するかは自由だからね」と。自分の体面を気にして、せいぜい“半身”でしか応援できない人が多い。
この部分において、れいわ新選組の支持層はまったく異なる。所得高め・知的水準高めのインテリ寄りの人たちにくらべて、他人からどう思われるかは少しも気にしていない。SNSでの評判なんかどうでもいい。その点では他人からは「節操なし」な態度に見えるかもしれないが、「この国には一人ひとりに思想信条の自由があるからね」とか、そういう賢しらぶった “本気にならない言い訳” や便利なエクスキューズを使わないことは、政治の世界では「強さ」なのである。
親から「れいわに入れろ」と言われて引いたとか、友人がれいわ脳になって引いたとか、SNSではそうした恐怖体験がしばしばシェアされて波紋を呼んでいるが、かれらはSNSのインテリ層が「厚顔無恥だ」と嫌がる言動を堂々とやれる。山本太郎氏がそれくらい支持層を強く鼓舞する求心力を持っているからだ。「仲間を集めて世直しすることは、なにも恥ずかしいことじゃない」と背中を押してくれるから、心おきなく「れいわ推し」をやれる。
インテリが斜に構えたシニカルな態度で、周囲の人たちに自分の支持政党への支持を呼びかけるのをためらっているのを尻目に、れいわ支持者は手当たり次第に応援を呼びかける。そのコミュニケーションはSNS上でほとんど可視化されない。個人間のメッセージのやりとりで行われているものが大部分だからだ。ゆえにネット民には「衆院選でいきなり議席3倍」という最終的な結果だけが突きつけられて、度肝を抜かれる。
身も蓋もない言い方をすると、れいわ新選組の支持層の雰囲気は元気だったころの創価学会によく似ている。言い換えれば、創価学会のアクティブな支持層が丸ごと高齢化して、かつて創価学会(公明党)がリーチしていた30代~40代の層にれいわ新選組が食い込んだともいえるかもしれない。公明党はその意味で世代継承に失敗した(本来ならリーチしたかった・すべきだった若い層をれいわに丸ごと奪われた)ともいえるので、今後は党勢が衰えていく一方になるだろう。
れいわ新選組の基本政策は公式サイトからすべて閲覧することができるが、アッパーマス層より上の人びとへの“敵意”がかなり強めの、いうなれば典型的な左派ポピュリズム的公約がずらりと並んでいる。そこから見えるのは「金持ちや企業は不当に富をため込んでいるので、それを吐き出させて社会に公正をもたらすべきだ」といった、古典的・伝統的なマルクス主義的世界観だ。
具体的には、所得税の累進性を強化し、企業の法人税を強化し、金融所得税を強化し、徹底して中間層以上への課税を強化し、そうして低所得層が嫌いな「消費税」を廃止するほか、かれらに向けてさまざまな支援や補助という形の再分配を行うことを旨とする。社会保険料を所得税の累進性に紐づけるなど、低所得層の保護を徹底するスタンスを明確にしている。もっとも、れいわ新選組の政策が本当に実行されたなら、これで最大の恩恵に預かるのは現役世代の低所得層ではなくて高齢者になってしまうだろうが。
れいわ新選組の言っていることややろうとしていることは大きく新奇性があるわけではない。往年の日本共産党や社民党の公約とそこまで大差があるわけではない。しかしながら、日本共産党や社民党が支持層の高齢化と「真面目くさったインテリしぐさ」によって大衆の若いマス層から見放され、世代継承に失敗した結果として生まれたその政治的空白を、よりキャッチーで、よりポップで、より庶民派で、より陽気で、より親しみやすく情熱的な雰囲気のれいわ新選組が取って代わったということだ。
れいわ新選組は、言ってしまえば「関東のヤンキー政党」である。政治経済の基礎知識を欠く低所得層の30~40代が中心支持層で、かれらがいま抱いている心配事や不満を敏感にくみ取る天才的な嗅覚の持ち主がリーダーを務めていて、小難しいことを街宣では絶対に語らず、雰囲気で乗れるリズミカルでキャッチーなPR活動が多く、必ずしもれいわ新選組の支持層でなくとも納得しうる「消費税=悪」という世の中全体にうっすら共有されている最大の鉱脈に気づいた政党である。
「SNSのインフルエンサー・オピニオンリーダー」がある種のハブとなって支持を拡大してきた第三勢力(国民民主党や日本維新の会)とは違い、そもそも最初から著名なテレビタレント出身のリーダーを担いでいるため、支持層も往々にしてテレビっ子が多く「SNSでの自分の立ち位置や評判」を気にしている人がいない。
SNS上で熱心に支持拡大活動をしている人はそこまで可視化されていないが、まったく見かけないわけではない。そういう人の特徴として、堂々と「れいわ支持」とプロフィールに書いていることが多い。SNSでクダを巻くインテリ層は、支持政党をこれ見よがしに掲げるプロフィールを一瞥して「うわあ……」と軽蔑をあらわにするが、かれらが堂々と「れいわ支持」と書いて見せるのは、もとよりSNSのインテリくずれにどう思われようが1ミリも気にしていないことの裏返しでもある。
「政治のことを話すのはご法度」的な暗黙の雰囲気を共有する中道系インテリ層とは違って、れいわ支持者は「前のめり」で周囲の人びとにれいわ新選組への支持を求める。だからこそ党勢をいま拡大している。国民民主党がつくりだした「減税を求める大衆 vs. 減税を渋る政府与党・財務省」の構図も追い風にして、次の参院選ではさらに躍進するだろう。
次の参院選を目前にして、石破政権にはさらなる逆風が吹いている。「政治とカネ」の問題を清算するべく動いていた石破総理自身が、新人議員に商品券を渡していたというタレコミがあったのだ。自民党にはますます暗雲が立ち込める情勢で、結果次第では衆院解散も行われる可能性があるが、そうなるともうだれもれいわ新選組を止められない。かれらは野党第三党、いやひょっとすると、国民民主党と並ぶ第二党にすらなりうる。
低所得者への減税や支援を熱心に訴えながら、その原資として敵視する富裕層や大企業の課税強化を訴え、手厚い福祉国家の実現を求めるという政策は大衆が大なり小なり願っていることそのものなのだが、そこには大いなる矛盾が内包されている。「弱い者がより強くなる」というレギュレーションを敷けば、だれもが「弱さ」の方向に向かって競争をはじめてしまうからだ。働く者になるより働く者から上前を撥ねるほうがコスパがよいゲームバランスなら、だれだって「上前を撥ねる役」に回りたがる。
この矛盾を無視して無理矢理実現させようとすれば、恐ろしい未来が待ち受ける。そのツケは円安による物価高騰や金利上昇という形でさらに国民生活を圧迫するだろう。しかし、「いいとこ取りはできない」というのはファクトに基づく正論だが、そういう正論はポピュリズムには勝てない。
れいわ新選組は今後ますます大きな勢力になる。かれらが勢力を伸ばせば伸ばすほど、与党も彼らの存在を無視できなくなる。ただ、自民党政権にとってれいわ新選組の政策で好都合なのは、かれらの政策が実質的には自民党の支持層である高齢者層に有利に働くものが多いことだ。れいわ新選組も福祉国家を強く支持し、社会保障制度についてはより強化・充実を求める立場であるため、そこが自民党との妥協点になりうる。
いまの国会の各党の党勢を見るかぎり、議席を失って立場が弱まり駆け引きに応じざるを得なくなった自民党政権と野党勢力との間では、「福祉ポピュリズム」が最終的な利害の一致点になり、現役世代・中間層の社保負担増という最悪の帰結を見る可能性が非常に高くなっている。
れいわ新選組は、所得も増えず、結婚もできず、家も買えず、子どももいない「持たざる者」が(非インテリ層の)働き盛り世代に増えれば増えるほど、その党勢を増す。言い換えれば、れいわ新選組の支持拡大は「持たざる者の復讐」と見ることもできる。ひと昔前までは多くの人に当たり前に共有されていた「ふつう」のライフイベントだった結婚やマイホームや子育てが「勝ち組(≒中間層以上)の特権」になってしまいつつある現代社会では、たとえ「再分配」によってそういう人たちの暮らしが壊れてしまっても、「見棄てられた人びと」はなんの痛痒も感じない。
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