( 279621 )  2025/04/02 04:15:04  
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記者の目で見たフジ・第三者委員会会見の裏側 

 

 元タレント・中居正広氏とフジテレビの元女性アナウンサーとの間で起きた性的なトラブルに関連して、3月31日にフジ・メディア・ホールディングス(FMH)とフジテレビジョンが開いた記者会見。その会見場では「どこからが質問?」「2カ月でこの情報量は弁護士すごい」といった記者の声が飛び交っていました。98媒体、265人の報道陣が参加した会見当日、裏側では何が起こっていたのかを詳報します。 

 

 3月29日付でメディア各社に送付された「第三者委員会 調査報告会見ならびに(株)フジ・メディア・ホールディングス (株)フジテレビジョン記者会見のお知らせ」と題された資料には、3月31日にそれぞれの会見が予定されていることが記されていました。 

 

 驚いたのはその受付時間が「13時30分より」となっていたことで、17時から第三者委員会が調査報告会見を行い、19時からFMHとフジテレビが会見を行うと案内されている中、通常の会見と比べるとかなり早い時間から受付を行うとしていました。 

 

 ねとらぼ編集部はこの会見についての問い合わせが遅れてしまったのですが、フジテレビ広報部の柔軟な対応により、当日の取材許可を得ることができました。 

 

 会見場となったのはフジテレビ本社内のオフィスタワー22階。 

 

 料理記事執筆のため、西新井のスタジオで14時に撮影を終えた筆者は、エプロン片手に東京臨海新交通臨海線・ゆりかもめに飛び乗りました。 

 

 台場駅からフジテレビ本社へ向かうと、本社前には複数の報道陣がおり、中には生中継のリハーサルらしきものを行っているメディアの姿もありました。 

 

 本社前には「フジテレビ会見STAFF」と書かれたカードを首から下げているスーツ姿のスタッフがおり、「会見に来た」旨を伝えると手荷物検査を受けるように言われました。 

 

 カバンの中身の確認と金属探知機による検査を終えるとそのまま受付に通されます。 

 

 名刺を1枚渡して媒体名と名前を名乗ると、「フジテレビ記者会見」と書かれたカードを首からかけるように言われましたが、このカードには「※当日限り有効」と印刷されていたのが印象的でした。 

 

 

 受付を済ませるとスタッフが1人ついてくれ、エレベーターホールまで案内されます。すると今度はエレベーターに一緒に乗り込んでくれるスタッフにバトンタッチ。22階で降りると、さらにエレベーターから会見場まで誘導してくれるスタッフがおり、さらに別のスタッフが会見に関する注意とお願いが書かれた紙の資料を渡してくれて、「よかったらお水もどうぞ」とすすめられました。 

 

 記者人生の中で今までにスタッフ数が多いな、と感じた会見といえば2019年に開かれた吉本興業の闇営業を巡る謝罪会見だったのですが、その比ではないぐらいありとあらゆる場所にスタッフと警備員がいて驚きました。 

 

 会場内は縦長の構造になっており、最前列がスチールカメラマン、その後ろにペン記者のパイプ椅子、さらにその後ろにムービー用カメラ台、最後列にテーブルとコンセントが一体になった充電ブースといった構造。 

 

 また会場内にはフリーWi-Fiも用意されており、これは記者にとって柔軟な配慮だと皆さん喜んでいました。 

 

 最後列に座ると質問ができないとのことで、筆者は前方のペン記者席に座ることにしました。 

 

 受付の時間が遅かったのでかなり後方を覚悟していましたが、意外にも前から5列目以内に座ることができました。その後、パソコンの準備などをしているとスタッフたちが慌ただしく動き始め、分厚い紙の資料が配られました。 

 

 タイトルは「調査報告書要約版」。第三者委員会による394ページに及ぶ調査報告書を51ページに要約したものとなっており、記者たちはいっせいに蛍光ペンや付箋を使って重要と思われる箇所を探し始めました。 

 

 また会見の約30分前には司会よりムービーカメラマン向けの音声信号テストを実施する旨が告知され、会見で使用するマイクなどの技術チェックも始まりました。 

 

 会見開始時刻ちょうどに第三者委員会のメンバーが入場して一礼。詳細な調査結果を、委員長を務めた竹内朗弁護士が説明していきます。詳しい会見の内容は別の記事を掲載しているので、本記事では割愛します。 

 

 

 会見の中で空気が変わったのは、3月27日にフジテレビとFMHからの退任が発表された日枝久元取締役相談役に関する質問が飛んだ瞬間。「日枝氏に説明責任はないのか」と問われた第三者委員会が「説明責任があるかないかといえば、一定の説明責任はある」と答えると、会場内で一気にキーボードを叩く音が大きくなったような気がしました。 

 

 19時終了予定としていた第三者委員会の会見。19時3分ごろに司会者から時間が押しているため、会見を終了とする旨と追加質問はメールで送るようにと告げられると会場内で質問のために手を挙げ続けていた記者たちからは「何も聞けない」と落胆の声が上がったほか、怒鳴り声をあげる記者の姿も見られました。 

 

 また第三者委員会のメンバーが退出する出口に歩み寄っていき、怒号を浴びせる記者も登場するなど会場内は異様な雰囲気に包まれました。 

 

 約20分の休憩中、突然配れたのはFMH・フジテレビの連盟で書かれた「再生・改革に向けて」という資料2種類。合わせて約50ページになる資料が届くと記者たちは「5分で読めということ?」と言いつつ、またもや必死に本文を追っていきます。 

 

 資料の読みやすさなどから「これ専門家は誰が入ってるんですかね」といった報道陣ならではの視点での声も聞かれました。 

 

 定刻になるとフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の次期社長でフジテレビの清水賢治社長が登場し、深く頭を下げました。 

 

詳しい会見の内容は別の記事を掲載しているので、本記事では割愛します。 

 

 質疑応答のパートで突然「苦言を呈しに来ました」と、ある宗教団体についての批判を大声で始めた女性の記者(?)が持論を展開し続けた際には、本会見で唯一マイクの音声がカットされました。 

 

 それまでにも報告書内で匿名となっている箇所をあえて固有名詞を挙げて質問するような記者がおり、司会や第三者委員会などから再三注意されていましたが、マイクが取り上げられたのは後にも先にもこの1回きりでした。しかし不規則発言や本件と関係のない質問やヤジを飛ばすといった行為をとっても退席を命じられることはありませんでした。 

 

 

 質問に清水社長が答えていた中、突然聞こえてきたのは「長いんだよ!」という怒号。マイクに乗らなくても聞こえるほどの大声で「中見がないんだったらダラダラしゃべるな!」などと叫んでいる記者がおり、司会から不規則発言はやめるようにと注意されていました。 

 

 質問は1社1回限りの原則で進み、やっと筆者に質問権が当たったのですがなぜか先ほどまで隣に座っていた記者が別の席に移動してマイクを横取り。別の記者から「あなたは2回目でしょうが!」と怒られていましたが完全無視を決め込んでそのまま質問を始めました。終盤ということもあり、記者の理性が少しずつ崩壊してきたのでしょうか。ねとらぼ編集部からの質問については別の記事に掲載しているので、本記事では割愛します。 

 

 そんな中、ついに全社1問の質問を終えて2巡目がスタートしました。 

 

 残り数問と制約された場面で混乱が起きたのは、松本人志さんに関する質問。フジテレビによると「本事案と関係ない質問」とのことで企業広報にメールしてくださいと質問をさえぎられていました。 

 

 その後も別の記者から質問なのか演説なのか分からないように思われる質問 が続き、清水社長が「すみません、これはどこからが質問なんでしょうか」と聞き返す場面も。 

 

 そして最後の質問に対する清水社長の回答が終了。司会から「スムーズは進行へのご協力ありがとうございました」とのあいさつがあり、会見は22時27分ごろに終了しました。 

 

 今回の会見で筆者の印象に残った点は大きく分けて3つ。 

 

 1つ目は「司会者の巧みな戦略」です。通常の会見ではどちらかというとスーツを着た大人しそうな記者が序盤にあてられる傾向が強い中、本会見では一癖ありそうな記者やフリーランスの記者が中心に当てられており、オールドメディアの記者からはかなり不満の声が聞かれました。 

 

 しかし筆者はこれをフジテレビ側の巧みな戦略ではないかとにらみました。 

 

 というのも今回の会見においては「質問は1社1問1回限り」とされていたのですが、この制約は「第三者委員会会見」と「FMHの会見」を合わせて1回というルールだったため、難易度の高い質問をしてきそうな名物記者たちを答弁なれしている第三者委員会の弁護士にぶつけることでフジテレビ側の回答難易度を下げようという考えが働いているのではと感じたのです。 

 

 もちろんたまたまそうした状況となった可能性もありますが、序盤から会見場内で誰かが当たるたびに「あぁ、あの人来てるんだ」と言われるような記者たちがこぞって質問権を得ている様子はなかなか異様でした。 

 

 2つ目は「これは質問なのか、演説なのかという記者の質問」です。 

 

 質問権を得た途端、「苦言を呈しに来ました」と、ある宗教団体についての批判を大声で始めた参加者がいたことはいくつかのメディアが報じていましたが、これ以外にも質問内容が判然としないものが多数見受けられ、清水社長が「すみません、これはどこからが質問なんでしょうか」と聞き返す場面までありました。 

 

 最後に、「なぜ記者は怒鳴り散らしているのか」。多くの記者が何かの義憤に駆られているような姿勢で、第三者委員会のメンバーと清水社長に怒りをぶつけるような質問の仕方をしている点は現場にいてとても違和感がありました。 

 

 記者会見は記者やメディアのために存在するのではありません。また、記者は読者・視聴者の理解を深めるため、その代理として質問しているという立ち位置だと筆者は考えています。  

 

 にもかかわらず詰問口調で「まさか調べてないとは言わないでしょうね」というような質問の仕方をしたり、他の人が質問している場面で不規則発言を繰り返したり、1人1回という質問のルールを無視して強引な質問を続ける記者たちを見て、同じ職業ということが恥ずかしくなりました。 

 

 今回の記者会見は、フジテレビ内でのコンプライアンスや社会一般的なルールが守られていなかったことから開かれたものともいえます。しかしそれを追求する記者たちがルールを守れていないという点は非常に残念に感じました。 

 

 

 
 

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