( 279751 ) 2025/04/02 06:45:17 0 00 金閣寺(画像:写真AC)
訪日外国人観光客が殺到する京都市で2024年秋、日本人客が有名観光地で減り、周辺部で増えたことがわかった。京都市が勧める分散観光の効果か、日本人の“京都離れ”が進んだのか。通勤ラッシュ並みに混雑したJR嵯峨野線の列車が嵯峨嵐山駅(京都市右京区)に到着する。乗客が吐き出されると、ホームが見る間に人で埋まった。桜の満開時期にはまだ早い3月下旬の平日、午前中から訪日客が大挙して嵐山へ向かう。訪日客の数に圧倒され、日本人客の姿は目立たない。桂川沿いのコーヒースタンドは50人を超す訪日客が入店待ちの列。
警備員が列の整理に走り回るが、次から次へと訪日客がやってきて列は長くなる一方だ。メインストリートの長辻通はバスやマイカー、人力車がひっきりなしに通るなか、車道にはみ出して通行する訪日客もいた。
「桜の時期はまだやのに、訪日客が増えている」と長辻通の売店従業員。東京都世田谷区から来た60代の夫婦は
「周りは外国の方ばかり。桜が満開になる前なら、もう少し混雑してないと思ったのに」
と目を丸くしていた。
訪日客でホームが埋まった今春のJR嵯峨嵐山駅(画像:高田泰)
訪日客ラッシュで京都市内の有名観光地は混雑が常態化しているが、異変も起きている。京都市が2024年11月1日~12月15日に市内の観光地を訪ねた人の数をKDDIやスマートフォンアプリの位置情報データから集計し、2023年11月3日~12月17日と比べたところ、日本人客が有名観光地で減少し、周辺部で増えていたことだ。
京都市によると、市内の有名観光地では日本人客が北野天満宮(上京区)で42%、伏見稲荷大社(伏見区)で23%、清水五条と祇園の花見小路(ともに東山区)、金閣寺(北区)で各19%、錦市場(中京区)で16%、嵐山の渡月橋(右京区)で11%減った。逆に訪日客は24~46%増えている。
日本人客が増えたのは、京都市が有名観光地の混雑緩和を目指して推奨している周辺部。京北(右京区)で59%、伏見稲荷大社以外の伏見(伏見区)で29%、山科(山科区)で25%、西京(西京区)で23%、高雄(右京区)で10%伸びている。
この調査はあくまで観光地ごとの人出に焦点を当てたもので、京都市全体の観光客数を推計したものではないが、京都市は有名観光地全体で日本人客が15%程度減り、訪日客が概ね30%増える一方、周辺部で日本人客が20%ほど増えたと分析している。
叡山電鉄で戻ってきた人でいっぱいになった2024年秋の出町柳駅(画像:高田泰)
調査時期は京都市内を訪れる観光客が最も多くなる秋の紅葉シーズン。2024年秋はコロナ禍の影響が消え、大勢の訪日客が押し寄せたが、紅葉の見ごろが遅れたこともあり、12月半ばになっても観光地で人の波が衰えなかった。
急激な円安を背景に初めて京都市を訪れた訪日客が増えたとみられる。大阪市の大手旅行代理店は
「初めての訪日客は知名度が高い首都圏と関西に集中し、定番の観光地を行き先に選んでいた」
と振り返る。その結果、京都市では嵐山や清水など有名観光地で訪日客が余計に目立った。
JR京都駅(下京区)は東京からの新幹線、大阪からの新快速が到着するたびに、大量の訪日客が降り立ち、嵐山へ向かう嵯峨野線ホームや清水方面のバスが出る烏丸口の市バス乗り場に長い列を作った。清水寺に通じる産寧坂(東山区)では、修学旅行の中高生が訪日客に囲まれてはぐれそうになり、慌てる場面を何度も見かけた。
訪日客が急増して混乱に陥った周辺部もあった。左京区を走る叡山電鉄沿線だ。鞍馬寺や貴船神社、もみじのトンネルなど紅葉名所が多いことから、例年この時期は混雑するが、昨秋の混雑は例年以上。京都市中心部の出発口となる出町柳駅(左京区)は狭いホームを人が埋め尽くし、一部の駅で積み残しが発生した。
貴船神社周辺では交通渋滞でバスやマイカーが立ち往生する場面があちこちで見られた。周辺の観光案内をする貴船観光会は当時
「今季の渋滞は特にひどい」
と驚いていた。
修学旅行生が訪日客に飲み込まれた2024年秋の産寧坂(画像:高田泰)
異変の原因はどこにあるのだろうか。高知県高知市の公務員(34歳)が
「毎年の家族旅行から京都市を外した。あまりにも混雑がひどすぎる」
というように、混雑を嫌がって京都観光を敬遠する人もいる。修学旅行先を京都市から他地域へ変更する学校も相次いできた。このため、日本人客の“京都離れ”が始まったと指摘する声がある。
確かに、京都市の観光総合調査によると、訪日客の市内宿泊数が過去最高を更新しているのに、日本人の宿泊数は2010(平成22)年をピークに頭打ち状態。京都市観光協会の主要ホテル調査では、2024年の客室稼働率が78.5%で、前年を5.1ポイント上回ったものの、コロナ禍前の2019年には2.8ポイント及ばない。
しかし、京都府の観光入込客数は2023年段階で2019年を上回っている。増加が目立ったのは、平等院(宇治市)など京都市周辺。混雑が続く京都市の有名観光地を避け、足を延ばしたとも考えられる。
今回の位置情報調査でも、11月2日~12月1日の土休日に市バス、市営地下鉄を利用した乗客数は前年同期を市バスで2.5%、地下鉄で0.3%上回った。京都観光を目指す人の流れは増え続けているわけだ。京都市観光MICE推進室は周辺部での観光客増加について
「分散の取り組みに一定の効果が出た」
と見ている。
周辺部の観光地は叡山電鉄が2両編成で運行しているように輸送力が小さいうえ、狭い道路が少なくない。このまま観光客が増え続ければ、すぐに大混雑となり、観光客の“京都離れ”を本格化させる可能性がある。分散観光に一定の効果があったとしても、京都市は安心していられない。
高田泰(フリージャーナリスト)
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