( 279856 )  2025/04/03 03:44:58  
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第三者委の報告書を受け、取材に応じる斎藤知事(3月19日、兵庫県庁で) 

 

 兵庫県の斎藤元彦知事が、自身に関するパワハラなど7項目の疑惑を指摘した内部告発について、「うそ八百」と発言した記者会見から、1年が過ぎた。県の第三者委員会は3月19日、10件のパワハラと県の対応の違法性を認定する調査報告書を公表した。問題がなぜ、ここまで大きくなったのかを検証する。 

 

 「問題の発端は、知事が『うそ八百』と発言したことにあると思います」 

 

 第三者委委員長で弁護士の藤本久俊は報告書を公表した3月19日、県庁で開いた記者会見でそう述べた。 

 

記者会見する第三者委の藤本委員長(中央)ら 

 

 「うそ八百」発言は昨年3月27日、定例記者会見で飛び出したものだ。 

 

 斎藤はその約1週間前、前県西播磨県民局長の男性職員(昨年7月死亡)が作成し、一部の報道機関や県議らに送付した告発文書を、知人を通じて入手していた。すぐに副知事(当時)の片山安孝、総務部長(同)の小橋浩一ら側近に指示し、告発者を特定。この日の会見で、3月末に予定されていた男性職員の退職取り消しと解任を発表した。 

 

 「知事として看過できないと判断したのですか」。記者の問いに、斎藤はこう語気を強めた。「業務時間中に、『うそ八百』含めて、文書を作って流す行為は公務員として失格です」 

 

 第三者委の報告書によると、県人事課はこの会見前、発表の詳細については「これ以上申し上げることはできない」との想定問答を用意していた。斎藤は事前に片山と小橋を呼び、「名誉毀損(きそん)で法的に問題のある文書。流布しないよう注意喚起したい」と話したという。 

 

 ただし、斎藤が記者会見で放った「うそ八百」や「公務員失格」という言葉は、想定問答にも、片山らとの打ち合わせにもない厳しい表現だった。 

 

 それまで告発文書の存在は報じられておらず、世間の注目を集めているとも言えなかった。中身の精査は済んでおらず、事実が含まれていた場合、知事の発言は批判される恐れがあった。 

 

 小橋は会見後、斎藤に第三者委の設置を進言したと昨年10月の県議会百条委員会で明かし、「(斎藤は)ちょっと渋い顔をされ、『どうかな』と受け入れられなかった」と証言した。 

 

 

 当初、読売新聞には告発文書は送られていなかったが、斎藤の発言を受けて入手。裏付け取材を進め、「県内企業から高級コーヒーメーカーなどを受け取った」との疑惑について、斎藤ではないものの、側近が受け取り、後に返却していたことをつかんで昨年4月16日の朝刊で報道。告発文書が全くの事実無根ではないことが明らかになった。 

 

 藤本は記者会見で、「うそ八百」発言について、「調査未了の段階でこのような強い語句や断定口調で公に知らしめる必要は、どこにもなかった」と述べた。 

 

 斎藤がここまで強く反応した理由は何だったのか。 

 

 これまで斎藤は、告発文書に具体的な企業名などが記されていることから、「誹謗(ひぼう)中傷性の高い文書で、放置すると多方面に不利益が生じる」と説明している。 

 

 確かに、告発文書には「特定企業との癒着」を指摘する記述があったが、第三者委は「事実は認められなかった」としている。一方で、「机をたたいて激怒」などを含む10件のパワハラを認定した。 

 

 告発文書には「事実」と「事実ではないこと」が混在していたことになる。ところが斎藤は、告発文書の入手直後、文書に疑惑への関与が記載されていた片山や小橋らと対応を協議し、一方的に「事実無根」と断じた。 

 

 報告書では、告発された当事者だけで協議した結果、「各々が自分の指摘されている事実を否定し合う会話の中で、文書を『核心部分が真実でない怪文書』と決めつけた」と明記された。 

 

 県関係者によると、作成者不明の文書が出回ることは過去にもあった。ある県幹部は「今回は、知事の怒りに任せた発言が問題を深刻化させた」と話す。 

 

 早い段階で第三者委の調査を進言した小橋は、昨年10月の百条委で「我々としても、もう少し強く言って止めるべきだったと思う」と後悔を口にした。 

 

 斎藤は3月19日、第三者委が報告書を公表する前の定例記者会見で「うそ八百」発言が適切だったかと問われ、「表現としては強かったので、反省はしている」と答えた。 

 

 

 県の対応を適切だったと主張し続ける斎藤の、数少ない「反省の弁」だった。(敬称略) 

 

(写真:読売新聞) 

 

 片山善博・大正大特任教授(前鳥取県知事) 自治体では、誹謗(ひぼう)中傷からまじめな内容まで、幅広い文書が流布されることがある。私の知事時代にも度々あったが、的外れの内容は相手にしなかった。もし対応が必要なら、当事者が疑いを否定するだけでは信用されないため、直ちに第三者に調査を委ねて客観的に判断してもらう必要がある。斎藤知事が告発者を捜して公の場でつるし上げるような発言をしたことは首長としてあり得ない対応だった。告発文書を巡る初動を誤って、問題を大きくし、現在まで県政の混乱が続く事態となった出発点と言えるだろう。 

 

 

 
 

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