( 280526 ) 2025/04/05 05:56:09 0 00 新CMのキャラクターに起用された堀江貴文さん(画像:「完全メシ」公式Xより)
「
」がXでトレンド入りしていると思って調べてみると、同社商品「完全メシ」のCMにホリエモンこと、実業家の堀江貴文さんを起用していることが、一部のXユーザーから反発されたようだ。
筆者自身、スマホでこのCMが流れてくるのを目にしており、「日清食品は攻めてるなあ」と感じていたので、「ああ、このことだったか」とすぐに理解できた。
「不買運動」については、堀江さんのこれまでの政治的な発言(特に政府寄りの発言)を批判している投稿も見られたが、大半は「こんなやつを起用するな」「食欲が失せる」といったものだった。反発は、堀江さんのキャラクターや言動に対するイメージに負うもののようだ。
日清食品は、堀江さんを起用することのリスクを考えなかったのだろうか? そして、CMは取り下げになるのだろうか。
【写真を見る】炎上した「ホリエモンのCM」の中見…何が人々の逆鱗に触れた? (10枚)
■キリンとサントリーの対応の違い
広告に実業家や学者など、いわゆる「有識者」を起用する例は、過去にも少なくなかったし、「炎上」に至っている例もいくつかある。
キリン「氷結」の広告は取り下げられたが、Amazonプライムやサントリー「伊右衛門 特茶」は取り下げられていない。
なお、同じ飲料メーカーでも、キリンとサントリーで対応が異なっている点も興味深い。このたびのフジテレビ問題でのCM撤退に関しても、キリンは再開に慎重、サントリーは前向き(ただし条件付き)の態度を示している。
同じ業界でも、リスクに対する向き合い方は、企業によって異なっている点は興味深いところだ。
■「許される/許されない」の境界はどこにある?
広報・宣伝への有識者の起用は「箔づけ」の効果がある。例えば、医薬品や健康用品・食品が、効果・効能をアピールするために医者などの医療従事者を起用するといったことは、これまでも行われている。
最近「炎上」が起きている事例は、有識者の専門性よりは知名度に頼ったものが多い。有名になる人物は、攻めた言動を行っていたり、キャラクターが立っていたりする傾向がある。また、有名になると言動も注目される反面、叩かれる機会も多くなる。
起用する側としては、リスクとリターンを事前にしっかり見積もっておく必要がある。
ただ、起用して「許される」「許されない」の境界線は明快とは言えないのが実態だ。
キリンは、2023年にも成田悠輔さんを「氷結」のPR動画に起用していたが、このときはまだ成田さんの過去発言は炎上しておらず、成田さんの知名度もいまほど高くなく、起用に対する批判はほぼ見られなかった。
取り下げるのが適切か否かは、視聴者・顧客の反応に対して、企業側がどういう判断をするのか? ということに尽きる。
また、このたびの日清食品の「不買運動」に際して、一昨年アンミカさんを「どん兵衛」のCMに起用したことが蒸し返されている。
2023年12月、「どん兵衛」のウェブCMに、アンミカさんが「どんぎつね」のキャラクターで登場したのだが、これが炎上し、「
」がSNS上で盛り上がった。
アンミカさんが韓国にルーツを持つことを公表しており、政治的な発言も多いことから、愛国系アカウントから叩かれたことが炎上の主因だ。女優の吉岡里帆さんが「どんぎつね」を演じて好評だったことも、アンミカさんへの批判の勢いに拍車をかけた。
ただし、吉岡里帆さんはすでにCM契約が終了しており、アンミカさんの起用は期間限定のプロモーションだった。
■ホリエモンCMの取り下げは「ない」理由
SNSでは「アンミカの次はホリエモンか!」と叩かれているのだが、逆に考えると、アンミカさんで「炎上」した際に、日清食品は「問題はなかった」と判断したからこそ、このたびの堀江さんの起用に結びついているのではないかと思う。
意図的に炎上を狙っているわけではないので、「炎上マーケティング」とは言えないが、ある程度の炎上は織り込み済みで、日清は効果のほうが上回っていると考えて起用しているはずだ。
SNSで不買運動が起きているからといって、日清食品はそれを深刻には捉えていないだろうし、堀江さんを降板させることもないだろう。
実際、不買運動に対して「過剰反応だ」「バカバカしい」という声も数多く見られており、単純に「炎上」とも言いがたい状況である。
筆者は堀江さんと同世代(筆者が1歳年上)だが、堀江さんに対しては、言動に共感できないところはあるが既得権益と戦った起業家として評価している。
「完全メシ」のCMを見ると、同商品のメインターゲットは「健康は気にしているが、なかなか実行できない中年男性」と考えられる。
「ジャンク感があるけど栄養バランスがいい」というメッセージは共感できるし、堀江さんと同年代の藤木直人さんや、大森南朋さんが宣伝するよりも、リアリティが感じられる。広告としてはよく考えられていると思う。
■炎上しても懲りない日清食品
堀江さん、アンミカさんの件以外にも、日清食品は過去に何度も「炎上」を起こしている。
2016年には、タレントの矢口真里さんを起用した、カップヌードルのテレビCM「OBAKA's UNIVERSITY」が「不倫を擁護している」といった批判を受け、公開1週間で取りやめになった。
2018年には、VTuber(バーチャルYouTuber)とのコラボ動画に競合他社の商品をバットで叩くシーンが含まれており、即刻動画を取り下げている。
2019年には、テニスプレイヤーの大坂なおみさんと「新テニスの王子様」のコラボCMで、大坂なおみさんの肌の色が白く描かれていたことで「ホワイトウォッシュ」(非白人を白人のように描くこと)として批判され、動画は取り下げられた。
こうして見ていくと、日清食品は過去に何度も炎上を起こしているし、取り下げも行っていることがわかるだろう。
「懲りていない」という意見もあるかもしれないが、取り下げるべきときはちゃんと取り下げているし、問題があった際には謝罪もしている。
過去の炎上体験から学びつつ、挑戦的な広告・プロモーションは続けるというのが日清食品の基本スタンスのように見える。
それで顧客が離れてしまうかというと、決してそうではない。気に食わなければ叩いたり「不買運動」を起こしたりしてもいいのだが、日清食品は気にしないだろう。批判を肥やしにして、これからも懲りずに同じようなことをやり続けるに違いない。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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