( 282636 ) 2025/04/13 06:21:27 0 00 Photo by gettyimages
トランプ関税発動で、株価が乱高下しています。
4日には日経平均が一時2900円下げたか思うと、翌日は2000円近い上げとなり、さらに翌日は約1000円下げるという、まさにジェットコースター相場となっています。
こうした中で、図らずもその弱点を露呈したのが「新NISA」でした。
「新NISA」は、当時の岸田政権の肝入りで、2024年1月から始まった投資制度。政府や金融機関が大宣伝したことで、2024年12月末時点で約2560万口座を獲得しました。
「新NISA」の口座では売却時に利益が出ても、通常の投資口座のように約20%の税金(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%の合計20.315%)がかからず、丸々儲けになります。政府や金融機関はこのメリットをこれでもかと強調し、多くの素人を投資に誘いこむことに成功したのです。
ただ、「新NISA」は値下がりした時にはデメリットがあり、それについての説明は、ほとんどなされてきませんでした。そんな中、現代ビジネスでは〈話題の新NISA、実は「落とし穴」だらけ…荻原博子が「おやめなさい」と断言するワケ〉という記事を書いて(2024年1月)警鐘を鳴らしたのですが、株価が上がっている状況では残念ながら充分にデメリットが伝わっていなかったようです。
そこでもう一度、国も金融機関も教えたがらない「新NISA」のデメリットと、今のような状況下でどう対処すれば傷を最小限に食い止められるかを紹介したいと思います。
「新NISA口座」には、証券の「普通口座」に比べて、主に4つの大きな弱点があります。
それは、「損切りからの買い戻しがしにくい」「ナンピンがしにくい」「損益通算ができない」「損失繰越ができない」です。
まず、「損切りからの買い戻し」について見てみましょう。
投資のプロは、株価が下がる気配が出てきたらすかさず売りに走り、下落し切ったところで同じものを買い戻すということで、損失を防いでいます。
たとえば、200万円で買った株が1割下落して180万円になって、この先も下がりそうだとなったら、その時点売却します。いわゆる「損切り」です。
多くのプロは、下がりそうだと判断した途端に「損切り」に走ることが、現在のような状況では必要以上に株が下げていくことになる理由でもあります。
しかし、売りっぱなしかと言えばそうではありません。とりあえず売って、手元に確保したお金で、さらに値下がったところで買い戻すのです。先のケースで言えば20万円損して売った株を、次に100万円で買い戻すのです。その後株価が120万円になれば20万円の儲けになり、先の損を埋めることができるし、それ以上値が上がれば利益が増えるからです。
つまり、表面的には200万円だった株が70万円下がって130万円になっていたとしても、早めの損切りと買い戻しができれば10万円の利益が得られるということです。
ところが「新NISA」では、これができない。
200万円で買った株を180万円で売ることはできますが、この株が100万円になった時点で買い戻すことができないのです。
なぜなら、「新NISA」の成長投資枠で買える株は、年間に240万円まで。すでに200万円の株を買っているので、その年に買える金額はあと40万円分しかありません。新たに100万円の株を買おうと思ったら、来年まで待たなくてはならないのです。
結果、ずっと持ち続けて200万円に戻るのを待つか、諦めて売って、損を確定させるしかなくなるのです。
ナンピンがしにくい
「ナンピンがしにくい」のも、「新NISA」のデメリットです。
「ナンピン(難平)」とは、保有している株価が下がった時に、下がった株をさらに買い増して、取得コストを下げる方法。たとえば、100万円で買った株が50万円になってしまったとします。ここでさらに100万円用意して2株買えば、投資額は200万円で3株持っている。この時の平均取得価格は約67万円となるため、100万円に戻らなくても67万円を上回った段階で売れば、そこで利益が出るのです。
もちろん、ここで下げ止まらずに30万円になってしまうこともあるでしょう。その時もさらに90万円用意して3株買えば、投資額290万円で6株保有しているため、一株あたりのコストは約49万円。つまり、株価が49万円以上に戻れば利益が出る。しかも株数が増えているため、少しの値上がりでも大きな利益が得られます。
ところが先にも述べたように「新NISA」の「成長投資枠」は上限が240万円なので、290万円まで株を買うことはできない。しかも、すでに他の株を買っていると、その分新に買える資金は少なくなっているので、ますます「ナンピン」はしにくくなるわけです。
限度額が240万円でも「新NISA」の口座がいくつか持っていれば、「ナンピン」も自在にできるでしょうが、「新NISA」の口座はひとり1口座に限られています。
つまり、株価が下がった時に、損失を和らげるように臨機応変な対応ができないということです。
「損益通算」ができない
3番目の「損益通算」とは、赤字部分と黒字部分を相殺することを言います。
たとえば、A社の株を100万円で買い、B社の株を同じく100万円で買ったとします。その後、A社の株が70万円になって30万円の損失が出て、B社の株が130万円に上がって30万円の利益が出た場合、通常の証券口座では赤字と黒字を差し引きして儲けはゼロになり、B社株で儲けた30万円に対してかかる税金(約20%)を納めなくてもよくなります。
ところがA社の株が「新NISA」の口座にある場合には、この「損益通算」ができないので、B社株の利益の30万円に対して、約6万円の税金を払わなくてはなりません。
「損失繰越」ができない
最後の「損失繰越」とは、損失を翌年以降最長3年間、繰越すことができるというもの。たとえば、200万円で買った株を100万円で売らなくてはならなくなったら100万円の損になります。通常の口座ではこの損は翌年以降に繰り越すことができます。ですから、次の年に50万円儲かり、その次の年にも50万円儲かったとしても、最初に損している100万円を最長3年間は使えるので、儲けに対して税金を支払う必要はなくなるのです。
もちろん「新NISA」の口座でしか投資しない人は「損益通算」も「繰越控除」も必要ないので問題はありませんが、「新NISA」の投資枠だけでは本格的な投資をするのには小さいので別途に証券口座を持っている人にとっては、デメリットとなるのは間違いありません。
では、実際に、損をしてしまっている人は、どう対処すればいいのでしょうか。
この場合、3つの方法が考えられます。
それは、「塩漬けにして様子を見る」「普通口座との併用」「新NISAから撤退する」です。
多くの人は「塩漬けにして様子を見る」ことにしているのではないでしょうか。「新NISA」の場合、先にも述べたように通常の株取引と違って下落局面では身動きできなくなる可能性が仕組み上あるため、それを選ばざるをえないとも言えます。
乱高下する相場は、吹雪の雪山に似ています。吹雪の中では慌てて転んだりする危険がありますし、視界が悪いので下手に歩き回ると元に戻れなくなります。そんな時には、慌てたり、無理をしたりせず、その場でうずくまって吹雪をやり過ごしたほうが、生存確率は高くなります。
投資も同じで、一旦足を止めて投資をやめる、つみたて購入をしているなら積立をストップして様子を見ることは、悪いことではありません。
ただ、じっとしてさえいればすぐに救出してもらえると安易に考えないほうがよいです。
政府も冷静な対応を呼びかけるし、金融機関も口を揃えて「これは一時的なことなので、持っていればそのうち上がる」と言うでしょう。しかし、この「持っていればそのうち上がる」という言葉は鵜呑みにしないほうがいい。なぜなら、ずっと何もしないまま待っていれば良くなる保証は、どこにもないのですから。
2000年に鳴物入りで売り出された大手証券が販売した日本株ファンドは、会社の営業力もあり、またたく間に資産規模を増やし、当時は「1兆円ファンド」と呼ばれました。ところが、1兆円を集めたところで運悪くITバブルが崩壊し、その煽りを喰ってこのファンドも暴落。1万円の基準価格が09年には3000円まで下がり、値上がりを期待していた人は奈落の底に突き落とされました。その後、13年から戻り歩調にはなったものの売り出し当初の1万円を回復したのは、なんと2017年でした。
しかも、1兆円を越えた資産額は直近では500億円まで減少したこともあり、今年6月には先の証券会社が運用する別の日本株ファンドに併合されて消滅が決まりました。「持っていれば、そのうち上がる」という言葉の根拠がいかに希薄なものかがわかるではないでしょうか。つまり、株式市場がなくならない限り、日経平均は元に戻る時がくるでしょう。しかし、あなたが購入した個別株や投資信託はその時まで存在するとは限らないわけです。
一部の識者は、この混乱は長く続かないと見ているようですが、これについても私は懐疑的です。
今回の株価の高下の原因ははっきりしていて、トランプ大統領ひとりの言動で起きているものです。
今回トランプは関税を武器に各国にアメリカが有利になるような交渉を仕掛け、その成果で中間選挙を勝利に導こうとしているとも言われています。
トランプが参考にしていると言われているハドソン・ベイ・キャピタルのスティーブン・ミランのレポート(A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System)を見ると、アメリカはもっと貿易相手国に対して安全保障や市場解放の負担を求めれば、短期的には混乱しても将来的には得るものが大きいとあります。
もし、これを参考にしていたら、株価の乱高下などは織り込み済みで、その後アメリカは急浮上して中間選挙で勝利を収めると思って突き進んでいるのかもしれません。
ところが、現実はトランプ大統領の思惑通りに進むとは限りません。
既にカナダやフランス、中国などが報復姿勢になり、本格的な貿易戦争の様相となっています。
プーチンが、ウクライナを舐めてすぐに戦争が終わると思っていたように、トランプも各国を舐めてかかっている節があります。だとすれば、ウクライナ侵攻のように泥沼の混乱が長く続くことも覚悟しておいたほうがいいでしょう。
混乱がしばらく続くとすれば、どうするのがいいでしょうか。私はこの際「新NISA」から撤退するのもありだと思っています。
「新NISA」では、オルカン(オール・カントリー)と呼ばれる世界中に投資する投資信託をさまざまな人が勧めていて、リスク分散のためにこれを買っている人が多くいます。
ただ、実際には運用の6割が、今嵐の渦中にあるアメリカへの投資です。アメリカの経済が悪化すれば金利が下がり、日米の金利差縮小などから円高になる可能性もあります。そうなれば為替差損も受けることになります。つまり、アメリカ株の下落と為替差損のダブルパンチを被る危険性もあるわけです。もしもオルカン一択の投資をしているのならまず停止するのはもちろんですが、手放すことも視野に入れたようがいい気がします。
また、個別株投資なら、銘柄によっては保有していれば配当をもらえる可能性がありますが、投資信託では逆に持っている間ずっと信託報酬という手数料を取られ続けていくことも忘れてはいけません。特にアクティブファンドの場合、この手数料がかなり高く、長期で持っていると支払う手数料だけでもバカになりません。市場が元に戻っても手数料分は損になることは忘れてはいけません。
安い時にも買い続けるから平均購入単価が下がって、値上がりした時に大きく利益が膨らむ。だから投資を続けましょうと金融機関は言うでしょう。それは、買い続けてくれればそれだけ手数料が入るからです。
トランプの始めた貿易戦争の先行きはまだ不透明です。リーマンショック時は、世界株式が下落前の水準に回復するのに約6年かかりました。しかも最も下落した時は高値の61%下落しています。これから月も投資を続ければ元本が増える分、損失の絶対額は拡大します。それを見続けることは精神的な負担もかなりのものです。もし、それはご免だと思うなら、購入は一旦停止し、買うはずの資金は現金で積み上げておいたほうがいいかもしれません。
特に、「つみたてNISA」のように、高くても安くても自動的に同じ商品を買い続けてしまうような投資は即刻停止し、積み立てるはずのお金は、貯金しおきましょう。どうしても投資したかったら、まとまったお金で安い時を狙って新たに投資を再開すればいいのです。もし、まだ「新NISA」を始めていないなら、わざわざ危険な投資の世界に足を踏み込むことは避けたほうがベターです。
荻原 博子(経済ジャーナリスト)
|
![]() |