( 282721 ) 2025/04/13 07:52:39 0 00 読売テレビニュース
桜が満開となり、多くの観光客で賑わう春の京都では、今年もオーバーツーリーズムに悩まされていた。繰り返されるマナー違反、人気観光地への一極集中、住民に浴びせられる暴言…。行き過ぎた観光客の行動の実態を取材した。(取材・報告=田上瑛莉香)
住職のXの投稿
京都市東山区の「ねねの道」に面して建つ高台寺岡林院。普段、一般には公開していない寺だ。
この寺の住職がXに投稿した内容が、いま、話題になっている。
「実際に他の誰かが被害に遭ってからでは遅すぎます もう遅すぎるくらい疲弊しています これ以上京都、日本が食い荒らされれば日本が日本ではなくなります」
壊された欄干
悲痛な思いを投稿したのは、許可なく敷地内に立ち入る観光客による被害があったからだと、青山公胤住職は明かす。
去年9月に壊された欄干は、竹がバラバラになり、特に上部が粉々になっている。
塀に張り付けた外国語の警告文
寺は対策をとらざるを得なくなり、「危険!!触るな!!」「Danger‼Don't Touch!!」などと日本語や英語、中国語などの警告文を寺の塀に貼った。
住職は「こんな貼り紙したくない。絶対しない方が景観としてもいいし、貼り紙しなくていいのが一番だ」と打ち明けた。
Xを投稿した青山公胤住職
さらに、寺では別の被害も…。参道の入り口で停車していた車に注意したところ、思わぬ罵声が返ってきたという。
青山公胤住職 「『こんなとこ止めんといて』って声をかけたら『白タクじゃねえよ殺すぞ』って言われてしまって…びっくりですよ」
住職は、「人が救われる場所だったり、安らぎを得られたりする場所のはずのお寺でそんな(怖い)思いをしてほしくない、という思いからXで発信した」と訴える。
私有地で写真撮影する観光客
観光客らによる迷惑行為は、寺の周辺でも頻発していた。
住宅の入り口などに立ち入り、撮影する人の姿が後を絶たない。SNSが普及し写真撮影も旅の楽しみの一つに。“映え”を意識する気持ちからなのかー。
取材に「誰も住んでいないと思った」と答えた
私有地の敷地内で写真を撮る外国人観光客に取材班が「許可をとっているのか」と話を聞くと、「知らなかった」「誰も住んでいないと思って、ちょっと写真を撮るなら大丈夫だと思った」などと答えた。
さらに、住職らによると、観光客に便乗してマナーを理解せずに商業的な写真を撮影するカメラマンも増え、トラブルが多発しているという。
中国人観光客が侵入した愛宕念仏寺
後を絶たない観光名所での行き過ぎた迷惑行為。京都府警は4月、右京区の「愛宕念仏寺」で“拝観休止日”にもかかわらず侵入した疑いで、中国人観光客の28歳の男を逮捕した。
男は境内で写真を撮るなどしていて、警察の調べに対し、「観光スポットの寺が休みで門が閉まっていたので、悪いとわかっていたが塀を乗り越えて勝手に入った」と話している。
愛宕念仏寺の西村公栄住職
境内には1200体の羅漢石像が置かれ、「日本一の隠れ寺」と呼ばれるほど外国人観光客から人気のスポット。観光客の急増により、寺が設けた週1回の“拝観休止日”に事件は起きた。
男はその後、不起訴となったが、愛宕念仏寺の西村公栄住職は、「自分のやりたいようにしてマナーもへったくれも関係なしで。『言葉が通じない』とか『書いてあるものの意味が分からない』といって忍び込んでええものなのか」と憤った。
あふれたゴミ箱(去年11月)
旅の楽しみの一つである「食べ歩き」もまた、住民の暮らしを脅かしている。
これまで観光客が使った串やカップなどのポイ捨てや、ゴミ箱からあふれても捨てられる状況が問題になっていたが、被害は住宅地にも及んでいた。
住宅街に置かれたゴミ(視聴者提供)
これは3月、取材班が嵐山に住む住民から入手した写真。
住民が段ボールなどの資源ごみを出していたが、食べ歩きで出たとみられる容器だけでなく、缶などもその上に置かれていたという。
写真を撮影した住民は、「ゴミ収集時に回収されないまま残るので、結局、自分たちで掃除をしている。迷惑しているし、腹立たしい」と怒りをあらわにする。
値上げされる宿泊税
オーバーツーリズム対策などへ財源を確保するため、京都市は宿泊税の金額を引き上げ、来年3月から適用する予定だ。
現在は税額を3段階に分けているが改正後は5つの区分に変わる。宿泊料が1泊10万円以上の場合には1万円と、上限額は現在の10倍になる。
市の担当者は、「宿泊税を使ってさまざまな取り組みを進めないといけない。これまでの約2倍、年間合計で130億円程度を使って(対策を)やることがでてくるだろうと試算した」と話す。
宿泊税の使い道
これまで市は、宿泊税を市バスの混雑緩和のための「観光特急バス」などに使っていた。
今回増える財源を活用し、市民の観光へのイメージ悪化に対応するため、「観光課題の対策と同時に、市民生活の向上につながる都市基盤整備を行う」として、市バスの市民優先価格や、地下鉄のホーム柵の整備などに取り組む方針だという。
九州大学の田中俊徳准教授
オーバーツーリズム対策に詳しい九州大学アジア・オセアニア研究教育機構の田中俊徳准教授は、「これだけ問題になってくると、旅行者のモラルに頼るだけでは限界が来ている」と語る。
宿泊税の値上げについて、田中準教授は、「迷惑をこうむっているのは、京都の市民ですから、京都市民が納得することに焦点を当てていくということが非常に重要」と指摘する。
増加の一途をたどる観光客
秋には再び観光のピークを迎える古都・京都―。来る人も住む人も納得できる“本当”に有効な対策が求められている。
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