( 283091 ) 2025/04/15 05:28:46 0 00 大阪・関西万博の開幕に備えた予行演習「テストラン」が始まり、会場を訪れた人たち=4日午前、大阪市此花区の夢洲(写真:共同通信社)
大阪・関西万博が4月13日、開幕する。約160カ国が参加し、10月13日までの184日間、大阪湾の人工島「夢洲」で開かれる国家イベントだが、準備段階では、会場建設費の増大、工事の大幅な遅れ、前売り券の販売不振など迷走が目立った。開幕直前のテストラン(予行演習)では無料招待された約10万人から賛否の声が上がったが、実際のところはどうなのか。
昨年8月刊行の検証本『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書)の著者らが実情を掘り下げる。第2回は、ノンフィクションライターの西岡研介氏が「機運醸成」がつまずいた原因を解説する。
■ 前売りは目標の6割、世論調査でも不人気続く
大阪・関西万博の開幕を1週間後に控え、4月4日から3日間行われた予行演習「テストラン」。無料招待された協賛企業関係者や大阪府民ら約9万8000人が参加したが、「並ばない万博」を掲げているにもかかわらず、入場ゲートや予約なしで観覧できる企業パピリオンでは長蛇の列ができるなど、さっそく課題が露呈した。
その一方、参加者が楽しそうに会場をめぐる様子は連日、在阪の新聞やテレビで報じられ、ここへ来てようやく開催機運が高まってきたかにも見える。参加者のうち4万人は抽選で選ばれた府民だが、定員の9倍近い約35万人の応募があったといい、地元での盛り上がりもうかがわせた。
だが、政府や大阪府・市、民間企業でつくる万博の運営主体、「2025年日本国際博覧会協会」(万博協会)の関係者は浮かない表情でこう語るのだ。
「協会の副会長でもある吉村(洋文・大阪府)知事は、35万人の応募に『多くの方が万博に期待している』と喜んでいました。でも多くの応募があったのは、はっきり言ってタダだから。依然として前売り券の売り上げは低空飛行を続けており、地元・大阪はともかく、全国的に機運が盛り上がっているとは、とても言えません」
万博協会が発表した最新の前売り券販売状況は約870万枚(4月2日現在)。目標としていた1400万枚のやっと6割で、うち700万枚は企業の買い取り分だ。個人販売は、ネット購入の複雑さや協会の個人情報保護方針への疑念もあって、低調が続いている。
さらに、報道各社の世論調査が万博協会を震撼させたという。共同通信が3月23日に配信した調査結果によると、大阪・関西万博に「行きたいとは思わない」とする回答は74.8%に上り、「行きたいと思う」の3倍に達した。同時期の産経新聞とFNNの合同調査では、「全く行きたくない」「あまり行きたくない」が合わせて68%、時事通信の調査では「行きたいと思わない」が65.3%だった。
■ 「博覧会のプロ」電通が東京五輪事件で運営から撤退
万博協会関係者が続ける。
「協会では、個人販売が伸びない要因を『万博の中身が分からないから』などと分析していましたが、これらの調査結果を見るに、中身が明らかになるにつれ、逆に行きたくない人が増えている気がします。
不人気の要因は、海外パビリオンの建設遅れや安全面への不安など様々あるでしょうが、トータルで見れば、機運醸成に失敗したことに尽きる。最大の原因は、事前の宣伝も含め、博覧会運営のプロだった電通が準備段階で抜けてしまったことです」
広告業界のガリバーとして知られる電通は、いわゆる「博展(博覧会・展示会)業界」の雄としての顔も持つ。
電通は、アジア初の万国博覧会となった1970年の大阪万博に招致段階から関わり、同万博の成功によって、日本における「国際博のパイオニア」となった。その後、75年の沖縄海洋博、85年のつくば万博、2005年の愛知万博でも招致に関わり、開催が決まった段階で主催団体に社員を出向させ、機運醸成はもちろん、パビリオン建設からチケット販売まで、すべてを取り仕切ってきた。
今回の大阪・関西万博にも当然、電通は招致段階から関わっていた。だが、思わぬ事件を機に撤退を余儀なくされる。22年に発覚した東京五輪をめぐる一連の汚職事件である。
電通のOBや元幹部が収賄や談合に絡み、逮捕・起訴された(後に有罪)この事件で、万博協会は23年2月、電通をはじめ事件に関与した広告代理店各社を1年間、指名停止処分にした。これを受け、電通は協会から社員全員を引き上げ、運営から完全に退いたのである。
電通に依存してきた日本の博覧会の歴史、そして「電通不在」が今回の万博に及ぼした影響、さらには電通の撤退後、同社に代わって機運醸成を担ってきた吉本興業の失速などについては、『大阪・関西万博「失敗」の本質』に詳述した。
■ 吉本は「アンバサダー」松本のスキャンダルが痛手に
処分が明けた24年2月以降、電通は「入場チケット販売促進等のための広報・プロモーション業務」(24年6月、約10億5000万円)など、個別の公募には関係企業とJVを組んで入札し、受託している。今年に入って在阪民放を中心にテレビで万博のCMや関連番組が頻繁に流れ、SNSでの情報発信が活発になったのはこのためだ。が、もはや遅きに失した感は否めない。
当の電通関係者が語る。
「電通にとって今回の万博はもはや“消化試合”と化し、東京本社(東京オフィス)の視線はすでに2年後の横浜花博(2027年国際園芸博覧会)に向いています。
というのも、そもそも今回の万博は国家行事にもかかわらず、招致段階から関係者が喧伝してきたように維新の会主導のイベント。これに対し、横浜花博は電通のクライアント政党である自民党のイベントです。電通としては、クライアントが主導する横浜花博の方が今回の万博よりはるかにコミットしやすいんです」
では、電通の撤退後、機運醸成を担ってきた吉本興業はどうか。
大﨑洋会長の退任など社内事情の変化に加え、万博アンバサダーだったダウンタウンの松本人志が週刊文春に性加害スキャンダルを報じられたことを機に、同社が万博に消極姿勢に転じたことは先の本に書いた。24年4月には「公募案件を含め万博協会が発注する事業は受託しない」と発表。すでに決まっていた自社パビリオン出展を除き、万博関連事業からの撤退を表明している。
さらに今年3月には、浜田雅功も「体調不良」を理由に活動を休止。これを受けて、吉本と万博協会は同月末、ダウンタウンがアンバサダーから正式に降りることを発表した。
とはいえ、同社のパビリオン「よしもと waraii myraii館」は無事完成し、所属タレントが在阪テレビ局の万博PR番組に出演するなど、機運醸成の一端を担ってはいる。だが、前出の万博協会関係者によると、このパビリオンの評判がすこぶる悪いのだという。
「私自身も3月の内覧会に参加したんですが、『海外客向けのノンバーバル(非言語)のエンターテインメント』といえば聞こえはいいものの、実際には売れない芸人のステージショーばかり。正直、この内容でよくBIE(博覧会国際事務局)が承認したなと思いました」
■ 「後半になれば盛り上がる」という期待にも暗雲が
もっとも、関係者の評判が芳しくないのは吉本のパビリオンに限った話ではない。前出の電通関係者はこう語る。
「開幕1カ月前の3月中旬、久しぶりに会場を回りましたが、サイン(案内板)が少なく、会場内の建物の位置関係がわかりづらかった。また協会の管理施設などはリース資材を使用していることもあって配色は黒が多く、会場全体のカラーデザインがパッとしません。国際博らしい雰囲気がなく、どこかの地方博に来たんじゃないかと思うほどでした。
やはり“博覧会のプロ”がいないのが原因でしょうね。企業パピリオンも、いま流行りの展示会ソリューション(展示会の成果を上げるための集客や運営についての提案)に基づいたウォークスルー型展示がほとんどで、正直、リピートしなくてもいいなと感じました。
参加国のパビリオンには期待していますが、 タイプA(自前建設型)も、前回のドバイ万博と比べると規模が小さく、どうしても見劣りする。飲食施設も価格設定が高すぎ、観客目線が完全に置き去りです」
こうした万博の中身がすでに多くの国民から見透かされていることが、前売り券の販売不振に現れているのだろう。危機感を募らせた維新代表の吉村知事は今年2月、万博協会トップの十倉雅和会長や事務方トップの石毛博行事務総長の頭越しに官邸を訪問。協会の名誉会長でもある石破茂首相に、協会がそれまで認めてこなかった当日券の販売を認めるよう泣きついたのだ。
この件が決定打となったのか、吉村知事と石毛事務総長は今や「目も合わせず、口もきかない関係」(前出・協会関係者)なのだという。
ここまで機運醸成に失敗した原因を見てきたが、過去の多くの万博では、後半になるにつれ、尻上がりに入場者が増える傾向があった。当日券導入も決まり、万博協会内には楽観視する向きも少なくないというが、前出の電通関係者は「今回ばかりはセオリーが通用しない」と断言する。
「夢洲という会場立地の問題があるからです。道路は橋とトンネルの2本、鉄道は1本に限られ、1日の入場者数には物理的な上限がある。後半に関心が高まったとしても、会場に入れない可能性がある。ということは、開幕直後から10万人単位の入場者をコンスタントに確保していかないと、1160億円の運営費がまかなえず、赤字で終わる可能性が高い。
そもそも維新が夢洲を万博会場にしたのは、IRとの相乗効果を見込んでのことでしたが、そのことが逆に自らの首を絞める結果となったということです」
このメガイベントの成否は、開幕からそう遠くない時期に見えてきそうだ。
【ほかの回を読む】 [1回目]万博は太閤秀吉に学ぶべきだった 難工事でパビリオン揃わず、メタンガスまで発生した夢洲の悪条件 [3回目]万博開催中に大地震が起きたら…橋とトンネルで15万人避難、致命的な場所が会場に選ばれた理由
西岡 研介
|
![]() |