( 283691 )  2025/04/17 06:34:41  
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米首都ワシントンの連邦準備制度理事会(FRB)本部=2022年1月22日、中井正裕撮影 

 

 トランプ米政権の「相互関税」発動後、米連邦準備制度理事会(FRB)に対する追加利下げ期待が広がっている。想定を超える高関税で米経済が急激に悪化し、景気を下支えする必要があるとの観測が強まっているためだ。従来は「関税が物価上昇(インフレ)を招き、利下げが遠のく」との見方が支配的だったが、逆に利下げが早まるシナリオに修正されつつある。 

 

 「著しい景気減速で景気後退の脅威すらあるならば、私は以前考えていたよりも早く、大幅な利下げを支持する」。FRBのウォラー理事は14日、米中西部セントルイスのイベントでの講演でこう強調した。トランプ関税について、インフレ再加速は「一時的」な現象とみる一方、「ここ数十年で米経済を襲った最大のショックの一つ」と位置づけ、米経済の下支えを重視する姿勢を鮮明にした。 

 

 2025年のFRBの金融政策決定会合で投票権を持つボストン連銀のコリンズ総裁も11日、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューに対し、「トランプ関税」で金融市場が大きく混乱した場合は、「FRBが市場安定のため対策に乗り出す準備がある」と表明。利下げ以外に、潤沢な資金供給などの「緊急対策」にも言及し、市場の安定確保に努める考えを示した。 

 

 FRBは24年9月、歴史的インフレが収束に向かったと判断し、12月まで3会合連続で計1・0%の利下げを実施した。その後、トランプ政権の関税引き上げでどの程度インフレが再加速するかを見極める「様子見」モードに転じた。 

 

 1月20日に発足したトランプ政権は、鉄鋼・アルミニウムや自動車に対する25%関税などを矢継ぎ早に発表したが、この時点では、トランプ関税の米経済への打撃に関する懸念は「インフレ再燃」にとどまっていた。市場では「せっかく沈静化に向かっていた物価高が再燃し、FRBの追加利下げは当面見送り」(米銀アナリスト)とのムードが中心だった。 

 

 この空気を一変させたのが、トランプ大統領が4月2日、「米国解放日」と位置づけて発表した「相互関税」だ。全ての貿易相手国に対する一律10%に加え、日本や欧州連合(EU)、中国など約60カ国・地域に大幅な上乗せ関税を課す内容だ。 

 

 上乗せ分は中国を除き発動が停止されたが、ほぼ100年前の「戦前レベル」にまで米国の平均関税率を引き上げる驚きの決定と、報復関税で対抗する中国との貿易戦争の深刻化に、金融市場は動揺。米JPモルガンが年内に世界経済が景気後退に陥る確率を60%に引き上げるリポートを発表するなど、トランプ関税が深刻な経済悪化を引き起こすとの懸念が急浮上した。米インフレ率は今後数カ月で直近の2・4%から5%程度にまで上昇するとみられているが、今やトランプ関税の悪影響の焦点は、貿易量や企業の設備投資の急減、失業率の上昇などに移ってしまった。 

 

 FRBのパウエル議長も4日、米経済がインフレと成長率鈍化のダブルパンチに見舞われる可能性があるとの認識を表明した。食品などの値上がりで庶民が生活苦に陥るにもかかわらず景気悪化が止まらない「スタグフレーション」発生の現実味が増している。 

 

 ビジネスに有利な低金利を好むトランプ氏は、繰り返しFRBに対し利下げを要求してきた。従来は「関税でインフレ要因を作るトランプ氏自身が、FRBの利下げを遠ざけている」(証券アナリスト)と冷めた見方が多かったが、現在は市場が望まない皮肉な形でFRBに利下げを迫るようになっている。【ワシントン大久保渉】 

 

 

 
 

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