( 283846 ) 2025/04/18 04:07:48 0 00 日本で2番目に古い商店街で起こった異変
東京・台東区にある日本で2番目に古い商店街「佐竹商店街」。最近ではドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)のロケ地にもなり、テレビでも話題になっていた。しかし、このこの商店街にある人気ラーメン店が、道半ばで閉店をすることになった。
もともとは元浅草郵便局の隣に店を構えていたが、2020年から現在の佐竹商店街に移転してきた『とりそば若松』。フグの調理師免許を持ち、和食を得意とする主人・大森政弘さんが丹精込めて作る「とりそば」が店の看板メニューだ。
無添加で国産、冷凍も使わないことを信念にしており、「鶏ごはん・漬物」が付く「とりそば定食」はなんと900円。2020年に移転してきたときから値段は変えていない。
上品で繊細なスープと、しっとりとしたとり肉の相性が非常によく、いくつになっても食べ続けられるような優しい一杯。まさに和食の料理人が作り出すラーメンだ。
「若鶏唐揚げ」や「だし巻卵」、「茄子田楽」など一品料理も充実しており、夜はお酒を飲みながらのご飯を楽しむ人も多い。
しかし同店は突如、4月末に閉店することが決まったという。いったいどういうことなのか、店主の大森さんに話を聞いた。
「ここはもう契約更新できないって言われてしまい、4月末に店を畳むことになりました。もともと2025年7月までの5年契約をしていて、そのあとも延長しようかと思っていたのですが、1月に手紙が来て、『契約は更新できません』って言われちゃってさ。
7月14日には出ていかなければいけないんですが、閉店した後もいろいろと準備することがあるから、とりあえず4月末を区切りとすることにしました」(大森さん、以下同)
契約終了の半年前に通知されているので違法性があるわけではないのが、あまりにも唐突だったため、大森さんもびっくりしたという。
「私もアパートを人に貸していたことがあるんですが、部屋が更新できなかったら住んでいる人が困るじゃないですか。だから建て替えるときは1カ月保証するとか、引越し代をつけるって当たり前の話なんですよ。それが全くない」
聞くと、店が入っているビルのオーナーが、気づいたら中国人に代わっており、それからの今回の出来事だったという。
「元の大家さんはもともと高齢だったから、別の人に所有権を譲ったってことなんでしょうけどね。正直言うと、私はここであと5年くらいはやろうと思っていました。自分の年齢が今65歳なんですけど、次に3年更新して、もう一度3年更新して71歳。体力的なことを考えると、それくらいがちょうどいいと思っていたんです」
5年前に移転した際、店の内装は大幅に変えた。和食屋らしい“わらすさ入り”の壁材がこだわりのポイントで、トイレの中も同じ壁材にしたそうだ。この内装代などを含めて、当初予定していた10年で返済していく算段があったという。
「まあでも、今はこれが契機だと思うようにしています。これだけ物価が高くなっている中で、ウチはラーメン800円、定食セットを900円で提供していて、自分で売っていて言うのもなんですが、ありえない値段なんです。
お客さんからは『値上げしなよ』って言われましたが、自分が客だったら1000円のラーメンは高く感じる。継続性を考えると限界だったのかなと。もう私みたいな昭和の頭は殴られっぱなしで厳しいですよ」
こうして、佐竹商店街を盛り上げる店の閉業がまた一つ決まってしまった。佐竹商店街では今年3月末にも、商店街のシンボルでもあったスーパーマーケット「PB FARM」が突然閉業。1918年創業のカステラとロールケーキ専門店「中屋洋菓子店」も一昨年に閉店している。
商店街を歩いてみると、平日の昼というのに、シャッターが閉められている物件が多い。一部では佐竹商店街の存続を心配する声も上がり始めているが、その実態はどうなのだろうか。佐竹商店街振興組合の担当者に話を聞いた。
「中屋洋菓子店が閉店したのは、旦那さんが突然亡くなったからです。70代後半くらいだったかな。ほかにはないケーキを売っていて評判がよかったんだけどね。また、今も営業しているほかのどの店も後継者問題は確かにあります。
店主のみなさんは高齢になってきて、商売を替えるか、店を貸すかっていう転換期に来ています。今の時代、子どもたちは会社員になって、店を継ぐのではなく外に出て働きに行っていますから。あと10年、15年すれば大きく変わってくる可能性はあります」(佐竹商店街振興組合、担当者)
だが、組合としては商店街の現状をそこまで悲観的には考えていないという。
「この商店街には定期的に新しい店ができているし、世代交代は少しずつできていると思っています。ドラマの撮影地になったことで、たくさんの人が訪れてくれたこともありました。
ドラマの撮影用に場所や店を貸せば、それで大きな金額も入るので、アーケードの維持費などを賄うこともできます。だからまあ、この商店街もまだまだ捨てたもんじゃないぞ……ってね。商店街のみなさんの団結力も強いですから」(同・担当者)
たとえ店の灯が一つ消えても、また新たな灯が一つ点く。佐竹商店街はこれからも時代に寄り添いながら続いていってくれるはずだ。
取材・文・撮影/ライター神山
ライター神山
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