( 284091 )  2025/04/19 03:05:38  
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 日本に移住する中国人が急増している。特に目立っているのが、経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」を取得して移住する中国人だ。経営・管理ビザは資本金500万円以上を用意し、事業所などを確保すれば取得できる。中国のSNSでは「年齢、学歴、言葉の厳しい要件はない」などと手軽さを強調し、日本への移住を指南する投稿があふれている。大阪では経営・管理ビザを使って民泊を経営する中国人が相次ぎ、住民からは不安の声が聞かれる。 その実態と背景に迫る。 

 

天下茶屋の住宅地で、特区民泊を経営する中国人の張さん(大阪市西成区で、画像は一部修整しています)=中原正純撮影 

 

 「日本で暮らすため、民泊を始めたんです」 

 

 大阪市西成区の昔ながらの木造住宅が並ぶ天下茶屋地区。中国四川省出身の張華さん(32)(女性、仮名)は2024年2月、リフォーム済みの築50年超の木造2階建てを約3000万円で購入し、民泊経営者として経営・管理の在留資格で滞在している。 

 

 中国では日本料理店を経営していた。出張で日本を何度か訪れるうち、日本の文化や生活環境に魅力を感じたという。 

 

 移住の方法は「中国版インスタグラム」と呼ばれるSNS「小紅書(RED)」で調べた。飲食店を開きたかったが、SNSには「民泊が簡単」と書かれており、SNSで探した中国人行政書士に頼むと、実際に約3か月で在留許可が下りた。 

 

 実際、中国のSNS「小紅書」には、「日本に移住する簡単な方法」として、民泊経営を紹介する投稿があふれている。「日本語ができなくても問題ない」とも書かれている。 

 

 張さんが大阪を選んだのは、中国から近く、東京より住宅が安かったことなどが理由だ。日本語は話せず、民泊用の住宅や自宅の購入は中国人の不動産業者に頼んだ。中国や台湾、欧米から観光客が訪れ、経営も軌道に乗り始めている。 

 

 長男(6)と2人で暮らす張さんは「日本の暮らしに満足している。いつか飲食店を開き、中国に残っている夫を呼びたい」と話した。 

 

大阪市内の特区民泊の営業者 

 

 大阪で今、「中国系民泊」が急増している。 

 

 民泊には、住宅宿泊事業法(民泊法)に基づくものと、国家戦略特区に認められた地域で営業できる「特区民泊」がある。通常の民泊は年間の営業日数が180日に制限されるが、特区民泊は制限がない。 

 

 阪南大の松村嘉久教授(観光地理学)が、大阪市内の国家戦略特区制度に基づく「特区民泊」 5587件(2024年末時点)について調査したところ、41%にあたる2305件が、営業者または営業法人の代表者の名前が中国系だった。中国系の特区民泊はコロナ禍後に急増しており、その半数は2022年以降に市から認定を受けていた。 

 

 

大阪市の特区民泊の認定施設と中国人の推移 

 

 特に増えているのが西成区だ。 

 

 西成区の天下茶屋地区には、長屋住宅の間に、新築されたり、リフォームされたりした民泊が散在している。地区に40年近く住む女性(68)の自宅には昨年以降、不動産会社から自宅の売却を勧めるチラシが相次いで入っている。女性は「コロナ禍後、このあたりは中国人の民泊だらけ」と話す。見知らぬ外国人が出入りすることを不安に感じ、引っ越す住民もいるという。 

 

 地元で不動産業を営む男性も「中国人が物件を買いあさり、ミニバブルだ」と明かす。日本人が手をつけないような築古の物件をリフォームするケースも目立ち、価格が高騰している。 

 

 西成区は、南海電鉄で関西空港に直結し、大阪・ミナミも近い。大阪・関西万博に合わせ、ビジネス目的で民泊を営む中国人もいるとみられるが、松村教授はこう考えている。 

 

 「民泊が移住の手段になっているのではないか」 

 

特区民泊の経営者として経営・管理ビザで移住する流れのイメージ 

 

 松村教授によると、中国系民泊を運営する法人の登記簿では、法人設立当初は中国に住んでいた代表の中国人が、特区民泊の認定を受ける前後に日本に移住するケースが多数確認された。法人の資本金は、多くが経営・管理ビザの取得要件と同じ500万円だった。 

 

 ビザを取得するために民泊の運営法人を設立し、移住する――。松村教授は「こうした方法が中国人の間で広まり、国内にも支援する業者がいるのだろう」と推測する。 

 

 中国のSNSには、民泊以外にも、 「日本語ができなくても問題ない」などとして、 貿易業やECサイト運営などが紹介されている。 

 

 2023年6月に大阪に移住した許健さん(50)(男性、仮名)も経営・管理ビザで、中国人に日本の不動産会社などを紹介するコンサルタント業をしている。 

 

 移住したのは、中国の「ゼロコロナ政策」への疑問からだ。世界で初めて新型コロナウイルスの感染が広がった湖北省武漢で2011年から書店を営んでいたが、約2か月半の厳しいロックダウン(都市封鎖)で、営業停止を余儀なくされた。 

 

 故郷の上海も2022年に都市封鎖され、移住を決意。日本に住む中国人の友人に相談し、行政書士に手続きを依頼すると、申請から3か月ほどで経営・管理ビザが下りたという。 

 

 許さんは「中国は経済状況も悪化している。移住は今後さらに進むだろう」と話した。 

 

 

 在留外国人統計によると、日本で暮らす中国人は2024年6月末時点で84万4187人で、過去10年間で約20万人増えている。 

 

 特に経営・管理ビザで滞在する中国人は急増し、2024年 6月末時点で2万551人で、同ビザが設けられた2015年の2・8倍に増えた。 

 

 移住する中国人が増える背景には、ゼロコロナ政策への反発や経済状況の悪化に伴う将来不安がある。 

 

 中国では海外移住を意味する「潤(ルン)」という隠語も広がっている。発音表記が英語「run」と同じことから「逃げる」の意味で使われているという。 

 

 日本が人気を集める理由には、生活環境や中国からの近さがあるが、条件面もある。 

 

 海外移住コンサルティング会社「アエルワールド」(東京)の大森健史社長(50)は経営・管理ビザの要件「資本金500万円」について「格安だ」と言う。 

 

 大森氏によると、米国の同様のビザ(投資駐在員ビザ)を取得するには、20万~30万ドル(約3000万~4500万円)程度の投資が必要とされ、永住するには最低80万ドル(約1億2000万円)以上の投資が求められるという。 

 

 2022年に上海から経営・管理ビザで来日した王紅運さん(40歳代、男性、仮名)は、大阪市内にタワーマンションなど複数の不動産を持つ富裕層だ。「500万円で移住できる日本は安すぎる」と言い切った。 

 

 松村教授は「経営・管理ビザは、日本で事業を行う外国人のための在留資格だが、移住のために安易に使われているのではないか。今後も移住する中国人が増えるとみられ、日本社会とのあつれきをうむ可能性もある。民泊を含め、事業の実態があるのかしっかりとチェックすることが必要だ」と指摘している。 

 

※この記事は、読売新聞社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。 

 

 

 
 

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