( 284131 )  2025/04/19 03:52:08  
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江藤農水相 

 

 コメが5キロで4214円──改めて価格高騰を再認識した方も多かっただろう。農林水産省は4月14日、スーパーにおけるコメの「販売数量・価格の推移」を発表した。資料によると昨年の3月25日から31日まで、コメ5キロは2057円だった。ところが6月ごろから上昇に転じ、今年1月には3500円を突破。備蓄米が放出されても価格が下がらず、遂に4200円台という記録的な高値となった。一方、米ホワイトハウスの報道官は、日本が米国から輸入するコメに「700%の関税を課している」とたびたび批判。この税率は正確さを欠くと指摘されるが、今後、アメリカ産のコメが大量に流通するようになれば、今以上にコメ価格が乱高下する危険性もある。 

 

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 コメの店頭価格を取材している記者は「農水省の発表した価格は全国の平均価格です。そのため都市部は、より高い値段になっています」と言う。 

 

「農水省の調査を見ると、今年2月はコメ5キロの全国平均価格が3829円だったそうです。しかし首都圏、それも都心のスーパーを取材すると、同じ2月に5キロのコメは安くても4500円台、ブランド米になると5000円を超えていました。首都圏や政令指定都市など都市部のスーパーは3月の上旬に一度、4000円台前半まで値が下がった店も散見されました。しかし『早ければ備蓄米が店頭に並ぶ』と報じられた3月下旬になると、あべこべに価格は再上昇。そして4月頭にはさらに高騰し、とうとう4500円台を超えてしまったのです」 

 

 実は都市部を中心に、一部の業界関係者の間では「再びコメが5キロ5000円台になる可能性」が取り沙汰されているという。 

 

「すでに5000円を突破した地域もあります。総務省が3月に発表した2月の小売物価統計調査で、那覇市のコシヒカリ5キロは5027円だったことが判明しました。全国的なコメ高騰に加え、沖縄では輸送費の上昇も価格を押し上げました。首都圏を筆頭に都市部では那覇市の高騰を“対岸の火事”とは言えない状況になりつつあります。5キロ5000円台に逆戻りする可能性として、コメ不足に苦しむ卸業者が少なくないことが挙げられるでしょう」(同・記者) 

 

 

 一部の卸業者は取引先のスーパーに対し、「4月中旬以降、納入できるコメの量は減る」と事前に通告している。 

 

 さらにゴールデンウィークで流通が止まることもコメの量を減らすリスクとなりうる。業界関係者の間では「4月下旬から5月上旬までは首都圏を中心に、さらに価格上昇が続くのではないか」という観測が乱れ飛んでいる。 

 

 実際、コメの価格が高いとか安いとかいう問題以前に、コメの販売コーナーが空っぽになっているスーパーが都心部では増えてきている。 

 

 Xをチェックすると《またスーパーからお米が消えてた》、《スーパーにコメがない》、《値上がり云々の前に、スーパーにコメがないんですけど…》、《スーパーにコメを買いに行ったら全くない 政府放出米とやらはもう売り切れたのか? 》──こうした投稿が増えているのが分かる。供給量が減れば、価格は上昇する。これは経済学の初歩だ。 

 

「これまで農水省は備蓄米を2回放出しましたが、価格は下がるどころか上がりました。そこで慌てて7月まで毎月放出すると発表しました。ところがXでは『そもそも備蓄米が売られてない』という投稿が殺到しています。西日本のスーパーでは備蓄米が複数原料米、つまりブレンド米として販売され、価格は3380円だったと産経新聞が報じました(註1)。一方で首都圏を筆頭に、特定の地域では備蓄米を全く見かけません」(同・記者) 

 

 江藤拓・農水相は4月15日の会見で、備蓄米の流通に偏りが生じていることを認め、「対応を検討する」考えを示した。とは言え、具体的に何をするのかは不明だ。 

 

 そもそも江藤農水相は「コメの販売価格を下げるために備蓄米を放出するわけではない」との説明を繰り返してきた。4月11日の大臣会見でも「農林水産省としては価格には直接コミットしないという姿勢は変わりません」と断言している。コメが高すぎるという国民の悲鳴が耳に届いているのか、首を傾げざるを得ない。 

 

 さらに批判を集めたのが4月1日の会見だ。第2回の備蓄米放出が実施されたことを踏まえ、江藤農水相は「価格は落ちついて、目詰まりが解消されることを期待しています」と胸を張った。 

 

 記者から「流通の目詰まりがあるという想定に対して、今回の調査結果をどう受け止めているか聞かせてください」と質問された江藤農水相は、「トイレットペーパーがオイルショックの時になくなりました。各ご家庭で、家庭の暮らしを守るためにみんなが買ったので、一気になくなりました」と切り出したのだ。 

 

 ご存知の方も多いはずだが、1973(昭和48)年に第4次中東戦争が勃発。中東の産油国が原油の生産量を減らしたことで第1次オイルショックが起きた。この時、日本では「トイレットペーパーが不足する」というデマが飛び交い、多くの国民が買い占めに走った。 

 

 

「トイレットペーパー騒動は、嘘の情報に日本人が踊らされたことで起きました。しかしコメの高騰問題は今、目の前で起きているリアルな現象です。コメが不足しているスーパーが散見されるのは事実であり、少なくとも首都圏では5キロ5000円の悪夢が再来する可能性を流通関係者が問題視しています。ところが江藤農水相はコメなら足りているという認識を改めません。それどころか、『コメがないのではないかという不安感』が消費者、流通関係者、集荷業者に存在し、それが『ネットや伝聞』によって増幅したことが高騰の原因だと指摘しました。これでは私たち国民全員がデマに踊らされてコメの買い占めを続けており、その結果コメが安くならないと断じるのと同じです」(同・記者) 

 

 だが、この“不安感説”は事実とは言い難い。コメの専門家も農水省の致命的なミスを、それも複数の失政を指摘している。 

 

 例えば江藤農水相は4月1日の会見で「18万トン収穫できている」と記者に説明した。この「18万トン」は昨年のコメ収穫量が一昨年より18万トン増えた679万トンであることを指し、豊作に近い状態だったという昨年からの主張を意味する。 

 

 しかし「昨年は猛暑で一等米の収量が減ったことなど複合的な要因で、実際の収穫量は農水省の見積より少なかった。むしろ不作だった可能性さえある」と生産現場や卸売業者などから反論が出ている。 

 

 江藤農水相は“転売ヤー”の問題にも依然、こだわっている。江藤農水相の選挙区は宮崎2区(延岡市や日向市など)だ。 

 

 会見では「山の奥の高千穂でも、宮崎弁とは全く言葉で違う話をする人(註2)が突然来て、全部売ってと言われたという話もありました」とのエピソードを披露。いまだに転売ヤーの暗躍がコメ価格高騰の一因だと力説した。 

 

 だが、この問題についても専門家は「たとえ転売ヤーが存在するにしても、その数は少ない。まして全国のスーパーでコメ販売価格が2倍に高騰するほどの影響力があるはずもない」と一笑に付している。幻の転売ヤーよりは、外国人観光客が食べるコメの量のほうが、よほど影響力は大きいだろう。 

 

「農水省の大きなミスとして挙げられるのは2点。第1点は価格が上昇を始めた昨年夏の段階で備蓄米を放出しなかったことです。農水省は『新米が出れば価格は落ち着く』と放置し、現在の高騰を招いてしまいました。第2点は備蓄米の放出で入札を実施していることです。江藤農水相は『農水省はコメの価格に介入しない』との発言を繰り返しながら、『価格安定』などの言葉を使って『価格を下げる』とアピールする時があります。もし本気でコメの価格を安くしたいのなら、無料で放出するのが最も効果的でしょう。ところが実際は最高値で応札した業者に売っているのです。おまけに落札した業者の大半はコメ価格の低下を嫌がるJAです。これではコメの高値維持を目的に農水省とJAが手を組んだ出来レースと批判されても仕方ありません」(同・記者) 

 

 

 仮に備蓄米の偏在が解消され、首都圏でも5キロ3380円のブレンド米が出回ったと仮定してみよう。ゴールデンウィークの期間中を5キロ平均4000円台で乗り切ったとして──それでも高額なのは言うまでもないが──安心するのはまだ早いという。 

 

「今夏も価格上昇の危険があるからです。夏は前年のコメと秋の新米の端境期に当たり、抑え気味の流通状況となります。昨年にコメ不足が顕在化し、価格の高騰が始まったのも夏でした。そして今夏は昨夏よりもひどいコメ不足と高騰が起きるかもしれません。なぜなら大手の外食産業など、コメの在庫確保が必要な企業や団体は今秋に収穫される新米をすでに大量購入しているからです。つまり消費者にとっては流通量が最初から減っており、不作と同じ状況だということになります。おまけに今年が豊作であるという保証はどこにもありません。もし不作となれば、大変な事態になるのは間違いないでしょう」(同・記者) 

 

 財務省が4月15日、財務相の諮問機関に対し、政府が輸入する「ミニマムアクセス米」を活用してコメの価格を引き下げる案を発表すると、早くも農業関係者からは反対の声が上がっている。 

 

 一方、「輸入米の関税をゼロにして、安いコメをスーパーで売ってほしい」と訴える国民も少なくない。税金と社会保障費の負担に苦しむ国民の切実な声だと言えるが、その悲鳴に農水省が耳を傾けることは今のところないようだ。 

 

註1:政府備蓄米の店頭販売始まる 複数銘柄をブレンド 西日本のスーパー(産経新聞電子版:3月27日) 

 

註2:農水省公式サイトの「大臣等記者会見」から引用し、全て原文ママ。正しい表記は「宮崎弁とは全く違う言葉で話をする人」か?  

 

デイリー新潮編集部 

 

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