( 284181 )  2025/04/19 04:49:19  
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高額療養費で迷走した石破茂首相が、商品券問題でオウンゴール。永田町のインサイド情報を、月刊文藝春秋の名物政治コラム「 赤坂太郎 」から一部を紹介します。 

 

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商品券配布について弁明する石破首相 ©時事通信社 

 

 少数与党にもかかわらず、いがみ合う野党を分断して、低空安定軌道に乗ったかのように見えた首相の石破茂だったが、さにあらず。3月3日に開いた自民党衆院当選一回生との夕食会に先立ち、1人当たり10万円相当の商品券を秘書が配っていた事実が発覚。まさかのオウンゴールで、世間からの支持を急速に失った。 

 

 だが、発覚直後、石破の反応は世間の常識とかけ離れていた。 

 

「議員にだけごちそうするのも悪いから、ご家族やスタッフにもこれで何か(買ってあげてください)っていうことがそんなに悪いことか? 実にくだらんね。アホらしい。自分の気持ちとしては、もっとあげても良かったくらいだけど、そうもいかんし……。どうせ明日は各社大々的に報道するんだろ。もう好きにしてくれ」 

 

 3月13日午後8時過ぎ、共同通信に続いて朝日新聞もネットで商品券問題を報じたと秘書官から聞いた石破は、憤りを周囲にぶちまけた。東京・紀尾井町のホテルニューオータニの宴会場で開かれた、2012年衆院選初当選組の懇親会に出席していたところだったが、1時間弱で会場を後にして公邸へ戻った。小泉進次郎から電話で「今日中に取材に応じた方がいいですよ」と促され、深夜11時20分過ぎから報道各社のインタビューを受けた。 

 

 その直前、石破は公明党代表の斉藤鉄夫に電話で説明して詫びた。 

 

「大変ご迷惑をかけて申し訳ありません。法律には一切触れていません。初当選の議員にご苦労さまと。そして、ご家族の方を激励してあげて、という趣旨でした」 

 

 斉藤は「そうですか。予算が大事な時なので頑張ってください」と応じたものの、電話を切った後、周囲には本音をもらした。 

 

「政治活動かどうかという議論があるし、国民感情としても理解されない。道義的責任もあるよなあ」 

 

 石破はぶら下がり会見で、「政治活動に関する寄付ではない。公職選挙法にも政治資金規正法にもなんら抵触しない」と力説。懇親会で飲んだビールの酔いも覚めやらなかったのか、食い下がる記者に、政治資金規正法のどの条文に抵触するのかと逆ギレ。その手には条文のコピーが握られていた。官房副長官の青木一彦でさえ、「あの逆質問は心証が悪かった。酒が強いのに少し顔が赤かった。相当飲んでいたんじゃないか」と天を仰ぐ始末だった。 

 

 

 せめてもの救いは、商品券問題が報道された時点で、すべての新人議員が返却を済ませていたことだ。そのカラクリはこうだ。 

 

 13日朝、朝日新聞が「商品券を渡されたか」「商品券のやりとりについてどう考えるか」など4項目の質問に対する回答を一回生15人の事務所に求めてきた。慌てた議員の1人が党幹事長室に連絡し、幹事長の森山裕が事態を察知した。森山は商品券をすぐ返却するよう、全員に指示。15人のうち、会食翌日に返却済みだった議員が少なくとも2人いたというが、大半は森山の指示を受けて、慌てて返したのだ。 

 

 幹事長室は官房副長官の橘慶一郎を経由して事態を石破に報告した。だが、この時点に至っても官邸の危機感は薄かった。総務省出身で官僚トップの事務担当の官房副長官である佐藤文俊や総理秘書官らが、「法的な問題点はない」とする応答要領を作成。第一報が出てすぐに、石破が自ら説明する段取りを固めた。その想定は一夜明けた14日の朝だった。あの深夜の会見は、進次郎の助言を受けて急遽予定を早めたものだった。 

 

「法的な問題はない」と強弁した石破だったが、翌14日には「世の中の感覚と乖離した部分が大きかったと痛切に思っている」と自省の言葉を繰り返した。古くからの知人に「しばらくは池田勇人(のように低姿勢)でいくしかない」と諫められたからだ。 

 

 だが、石破は「ハンカチでも買ってね、お菓子でも買ってね、という思い」と、またもや世間の常識とズレた弁明をして、共産党書記局長の小池晃から「10万円のハンカチがありますか? 汗もふけない」と畳み掛けられ、墓穴を掘った。 

 

※本記事の全文(約6000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(赤坂太郎「 ブレる石破を支える森山のジレンマ 」)。 

 

赤坂 太郎/文藝春秋 2025年5月号 

 

 

 
 

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