( 284276 )  2025/04/19 06:38:39  
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大手によるM&Aが活発化するパチンコ・パチスロ業界(イメージ。Getty Images) 

 

 近年、全国のパチンコホールの数は減少傾向にあり、1990年代半ばのピーク時から比べると、その数は半分以下になっている。警察庁が4月に公表した統計資料『令和6年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について』によると、2024年(令和6年)末時点での全国のパチンコホール数は6706店舗で、前年の7083店舗から377店舗減少した。全国でおよそ1万7000店舗が営業していた1995年のピーク時からすると、現在はその約40%程度の店舗数だ。 

 

 特に減少傾向が著しいのは設置台数の少ない小規模ホールで、設置台数が多い大規模ホールは現状維持という状態。同資料によると、設置台数101~300台のホールの数は2020年に2733店舗だったのが、2024年には1419店舗とおよそ半分となっている。一方の設置台数501~1000台のホールの数は2020年が2518店舗で2024年が2338店舗と、微減にとどまっている。 

 

 そうしたなか、昨今増加しているのが、多くのホールを運営する大手チェーンによる小規模ホールのM&Aだ。小規模なホールが大手チェーンに吸収されて事業継承されるケースや、地方で展開する数店舗規模のチェーンが全国規模の大手チェーンに買収されるケースも多い。すでに出店済みのエリアの競合店を買収することで、そのエリアにおける寡占状態を作り出す大規模チェーンもある。 

 

 コロナ禍やパチンコ・パチスロの出玉規制の影響もあり、2020年以降にパチンコ・パチスロ遊技人口が減少。体力がない小規模ホールが営業を続けられなくなる状況に追い込まれる一方で、複数の店舗を抱える大手チェーンはイベント開催やSNSやYouTubeなどを駆使し、積極的な宣伝展開で集客を図るようになっている。その結果、大手チェーンが有利な状況が色濃くなり、それが大手チェーンを事業拡大へと押し進めているのだ。パチンコ・パチスロ事情に詳しいジャーナリストの藤井夏樹氏はこう話す。 

 

「実際に大手チェーンに買収された小規模ホールが屋号を変えて営業を始めるや否や、人気店になるというケースもあります。大手チェーンなら集客イベントを開催することもできますし、より稼働が見込める人気機種を多く設置することもできる。大手に買収されることで、ユーザーにとってメリットも多いわけです」 

 

 では、実際に大手に買収されたホールに通うユーザーは、どんな印象を抱いているのだろうか。生の声を聞いてみた。 

 

 

 都内に住む会社員のAさん(40代男性)は、長らく通っていた最寄り駅にあるパチンコホールが、ある時閉店になった時のことを振り返る。 

 

「コロナ禍で、それまで10年近く通っていた近所のホールが閉店しました。チェーン店ではなく、設置台数が400台くらいの昔からあるお店でした。そこまで客が多い店ではなく、空いていて快適だったので、よくパチスロを打っていたんです。ところが、実は有名チェーンに買収されていたようで、閉店から3か月ほど経ったところで、その有名チェーンの屋号に変わってリニューアルオープンしたんです。オープン初日に行くと、それまでに見たことがない活気で、驚きました」(Aさん) 

 

 屋号が変わってからもそのホールに通い続けているAさん。もっとも大きな変化はイベントの開催だったという。 

 

「以前のそのホールでは、イベントらしいイベントが開催されたことはほとんどなかったと記憶しています。でもリニューアルしてからは、店長変更のポスターが貼られたり、新しい景品の入荷を告知したりなど、集客のためのいろいろな施策をするようになりました。なかでも驚いたのが、来店イベントでした」(Aさん) 

 

 ホールの来店イベントとは、有名パチンコ・パチスロライターやYouTuberなどが来店するイベントのこと。ライターやYouTuberがホール内で動画の撮影をすることもあれば、一般の来場客とともに遊技を楽しむだけのこともある。 

 

「そのホールは朝イチにお客さんが並ぶこともあまりなく、朝から打つお客さんは多くても20人くらいのものでした。でも来店イベントがあった日は、100人以上朝から並んでいましたね。その日は確かにパチスロにも高設定台がいつもより多く入っていたと思います。結構たくさん出しているお客さんもいたし、『大手チェーンのイベントは“ガセ”ではないんだな』と実感しました。 

 

 今の大手チェーンになってからの方が出玉の面で高設定を期待できるようになった感覚があるし、毎日それなりにお客さんがいて、そこそこ稼働しているので、台のデータを見て設定を予測しやすくなったというメリットも。昔は、ほとんど稼働していない台ばかりだったので、データを見ても意味がなく、ただなんとなく台を選ぶだけだったので。ちゃんと“やる気があるホール”に生まれ変わったという感じです」(Aさん) 

 

 

 パチンコホールが大手チェーンに買収され、屋号を変えてリニューアルオープンすることは、ユーザーにとってもメリットが大きいように見えるが、なかには不満を漏らす人もいる。神奈川県に住む自営業のBさん(50代男性)はこう話す。 

 

「たまに打ちに行っていた都内のあるホールが、大手チェーンに吸収されて“最近出しているらしい”という噂を聞き、打ちに行ったんです。そのホールは、そこそこ大きな店舗なんですが、規模の割にはお客さんも多くなく、打ちたい機種に座れる可能性が高くて気に入っていました。新機種が導入されたときは、そのホールまで行って打っていたほどです。 

 

 それが大手の傘下になってイベントなども打つようになったと聞いて、行ってみたらガラリと雰囲気が変わってました。とにかく若い人が増えていた。それもいわゆる“軍団”っていうやつです」(Bさん) 

 

「軍団」とは、主にパチスロを集団で打つユーザーのこと。高設定台が数多く入りそうなイベントを狙って、各地へ遠征することも多い。 

 

「軍団がイベントに来ると、1人客が高設定台に座りにくくなるんです。しかも軍団の人たちは、一度高設定らしき台に座ったら閉店まで動かなかったりする。私のようなソロユーザーにとっては厳しい存在です。昔だったら軍団が見向きもしないようなホールだったので、快適に打ててたんだけど、大手に買収されて下手に熱いイベントを打つようになって、軍団の餌食になってしまった。出玉で還元してくれるのはいいけど、その恩恵を受けるのが軍団では意味がない。普通のお客さんが冷遇されているようなものですから。正直、私も最近はそのホールに立ち寄ることもほとんどなくなりました」(Bさん) 

 

 大手チェーンの場合、集客に成功していないにも関わらず、閉店することなく営業を続けているケースもある。都内に住む会社員・Cさん(30代女性)は、近所にあるパチンコホールに足繁く通っている。 

 

「地域に何店舗か営業しているチェーンのホールなんですが、本当にいつ行ってもガラガラ。平日だと広いホールに3人くらいしかいない時間帯もあります。そこなら周りに誰もいない状態でパチンコに没頭できるので、気分転換には最高なんですよね。新台もちゃんと入れてくれるし、そんなに釘もガチガチではない。意外とお客さんに還元してくれるんです」 

 

 複数のホールを経営する大手チェーンでは、当然ながら売上が多いホールもあれば、そうではないホールもある。前出・藤井氏が解説する。 

 

「大手はチェーン全体で売上を確保できているというような理由で、一部の稼働の悪いホールでもそのまま営業を続けるということもあります。パチンコホールは営業許可を取るのが簡単ではないので、一度営業を始めたホールを簡単に手放したくないという事情もあるのでしょう。また、パチンコホールが入っているのが、運営母体が所有する建物だというケースもあり、ランニングコストが低く抑えられているがゆえに、集客が微妙でもつぶれないホールもありますね。 

 

 ちなみに大手チェーンのホールが閉店するとなると『あのチェーンは危ないのか?』という噂がネットなどで広まってしまうこともある。そういったネガティブなイメージを避けたいがために、営業を継続するということも考えられます」 

 

 あまり利益が出ないホールの営業を続けられるのは、大手チェーンだからこそ。これが1店舗しか営業していない小規模ホールであれば死活問題となり、閉店やチェーン店への身売りなどを余儀なくされるだろう。 

 

 かつてに比べると確実に遊技人口が減っているパチンコ・パチスロ業界では、大手チェーンでなければなかなか生き残りが難しくなっている。そして、小規模ホールが大手チェーンのホールに生まれ変わることで、集客が復活するケースも珍しくない。増加するパチンコホールのM&Aは、パチンコ・パチスロ業界の生き残りのためには、必要な流れなのかもしれない。 

 

 前編記事《【減少し続けるパチンコホール】小規模店が淘汰され大規模店だけが生き残りへ 資本力のある大手チェーンにユーザーが集中せざるを得ない事情》では、パチンコホールの店舗数やパチンコ機・パチスロ機の設置台数から、業界の現状を分析している。 

 

 

 
 

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