( 284506 ) 2025/04/20 06:01:13 0 00 製造会社は超大手メーカーではないが、スーパーなどでも見かける機会の多い人気商品の「よつ葉バター」(画像:よつ葉乳業の公式サイトより)
大手外食チェーンのすき家、フードデリバリーサービスの出前館など、異物混入が相次いで報告され、消費者の不安が高まっている。
4月15日、新たな異物混入が発覚した。よつ葉乳業株式会社が同社のバター商品に「金属線が混入しているおそれがある」として、約628万個の商品を自主回収することを発表したのだ。
大規模な自主回収の発表だったが、同社の発表に人々の反応は、直近の他社のケースとは大きく異なっていた。
異物混入事件の大半はSNS上で多くの批判を浴びるのだが、今回に関しては「よつ葉バターが好きだからこれからも買う」「回収対象商品だけどこのまま使い続ける」など、よつ葉バターを支持、賞賛する声が相次いだのだ。
中には「よつ葉を外資に渡すな」といった投稿がなされ、多数シェアされるという状況まで生じている。
なぜ、よつ葉バター、よつ葉乳業はSNSでここまで持ち上げられたのだろう?
■「よつ葉乳業」を叩く人が少ない理由
よつ葉バターに混入したのは金属片だが、製造ラインにあるベルトの部品が破損し、金属線が切れて製品に混入した可能性があるという。
混入したのが生物ではないこと、健康被害が確認されていないこと、混入の原因が特定されていること等から、消費者の不安がさほど大きくなかったと言えるだろう。
これらのことに加えて、よつ葉乳業が賞賛を集めた要因として、下記の4点が考えられる。
1. 問題に誠実に向き合っていること 2. 「誠実に事業を行っている」というイメージが強いこと 3. リピーターやファンが多いこと 4. 業界で超大手ではないため、消費者に「応援したい」という思いが生まれやすかったこと 今回の異物混入は、顧客からのクレームで発覚したが、よつ葉乳業は約628万個もの商品回収を発表している。迅速かつ最大限の対応を取ったと言ってよいだろう。
筆者自身、よつ葉バターを利用している。品質がよいのに値段は高くはなく、「質実剛健」というイメージがある。
スーパーマーケットに行くと、明治、雪印、森永といった超大手ブランドと並んで、よつ葉バターが並んでいることが多い。
よつ葉乳業の売上高は1234億円(2024年3月期)と大きいのだが、明治、雪印メグミルク、森永乳業の3社の売り上げはすべて5000億円を突破しており、いずれもよつ葉乳業の4倍以上の規模だ。
筆者はバター商品に関して「超大手の上場企業に対抗してよく頑張っているな」という印象を持っている。よつ葉乳業にさほど親しみのないユーザーでも、筆者と同様に感じている人は少なくないのではないかと思う。
「誠実な企業が、発生した問題に誠実に向き合っている」というイメージがあり、利用者の愛着もあったからこそ、異物混入があっても、あるいはあったからこそ「応援しよう」という思いが強く生まれたのではないかと思う。
他の企業で同様のようなこと起きた場合、よつ葉のようなことが起こせるとは限らないし、企業イメージは一朝一夕で作れるものでもないのだが、今回のケースから学ぶべき点は多いように思える。
■「外資に乗っ取られる」は陰謀論?
今回の異物混入で特徴的だったのは「よつ葉を外資から守れ」といった投稿が目立ったことだ。なかには、2.5万件の「いいね」、2000件以上のリポストを集めた投稿も見られる。
こうした動きに対して、「(外資に狙われているという説は)陰謀論だ」といった投稿も多数なされており、議論はいまだに収まっていない状況だ。
実際のところ、「よつ葉乳業が外資系企業に狙われている」という根拠のある情報はどこにもない。そもそも、よつ葉乳業は非上場企業だ。外資に限らず、株式市場から株を買い占めることはできない。
なぜこのような議論が起きてしまうのだろう? 主に下記の3点が考えられる。
1. 直近の異物混入などの日本企業の不祥事と関連付けられたこと 2. よつ葉乳業が北海道に拠点を置く「日本企業」であること 3. 過去のよつ葉乳業の広告が影響していること
今回の問題を、小林製薬の紅麹健康被害からの同事業の撤退、すき家の異物混入と関連づけている投稿が散見される。日本の「優良企業」で問題が相次いだことを関連づけて、「外資の陰謀」と見なしているのだ。
まさに、よつ葉乳業は「堅実な日本企業」というイメージを担っている。さらに、同社が北海道に本社があり、北海道産の乳製品を生産しているという点も大きいのではないだろうか。ニセコをはじめ、北海道が外国人訪日客に人気で、外国資本が入ってきていることに対する反感が表れているのではないかと思われる。
SNSの投稿を見ると、過去の同社の「よつ葉デリバリー」の新聞広告に言及しているものが散見された。この広告では感染症の対処法として、「ワクチンよりも、免疫力を高めることのほうが大切だ」ということを謳っている。
「愛国系アカウント」の多くは「反ワクチン」を主張している。どのくらいの規模かは判然としないが、「反ワクチン」を唱える人たちが「よつ葉を外資から守れ」という主張をしているというのもあるようだ。
■よつ葉と対照的な「亀田製菓の不買運動」
昨年末から今年の年始にかけて、「ハッピーターン」などのお菓子で知られる亀田製菓が炎上し、X(旧Twitter)上では「
」が多数投稿された。
これは、同社のインド出身のCEOが「日本はさらなる移民受け入れを」と発言したと報道されたことから、愛国系アカウントから反発を受けたことによる。
実際のところは、発言内容は「海外から人材を受け入れることが重要だ」と言っており、前後の文脈を読んでも「反日的」な発言はしていない。
しかしながら、伝統的な日本の製菓会社のCEOが外国人だったことに加えて、報道によって意図が曲解されたことで、炎上が起こってしまったのだ。
起きた現象は真逆だが、よつ葉乳業の賞賛を加速させた「陰謀論」の拡散も、亀田製菓に対する不買運動も、要因となったのはSNSユーザーの「愛国心」と「排外意識」である。
■愛国心を煽るマーケティング
海外では、企業のマーケティング活動の中で、消費者の愛国心を煽る手法を取っているものはいくつも見られる。
愛国心というものは、一般に多くの人を行動に駆り立てる大きな動機となるもので、購買行動と結びつけることも十分に可能なものなのだ。
日本においては、アパホテル、高須クリニック、(以前の)DHCなど、創業者の意向で企業が愛国的な言動を行うことはあるものの、マーケティング活動で戦略的に愛国心を煽るものはほとんど見られない。
日本では、意図的にそのような手法を取ると、賞賛よりも反発を呼びやすく、逆効果になることが多いからだ。
ただ、企業側が意図するしないにかかわらず、国民の愛国心や排外意識が企業活動と結びつき、批判されたり賞賛されたりすることが起こり、それが拡散していく時代になっている。
企業側も、そうしたことが起きうることを意識して活動する必要があるし、実際に起きた場合に正しく対応することが求められるようにもなっている。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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