( 284761 ) 2025/04/21 05:30:36 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
総務省統計局「労働力調査」(2024年)によると、高齢化が進む日本では、65歳以上の4人に1人が働いている現状です。就労者の内訳は、60代後半では約5割、70代以上でも2割弱。この背景には、高齢者の生活を支える公的年金がほとんど、あるいはまったくないという厳しい現実も一定数存在するようで……。川村さん(仮名)の事例を通してFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が実情をみていきます。
川村信男さん(仮名/67歳)は、地方の市営団地で一人暮らしをしています。
川村さんは20代のころからずっと建設現場で日雇いとして働いてきました。朝早くに職業紹介所に並び、その日に空いている現場に向かう。昼過ぎに仕事が終われば、仲間と飲んで麻雀……。それが日常でした。
「その日暮らしが気楽でよかった。金が入ったら飲んで、使い切って、また働いて……。若いころは体も利いたし、それでやってこれた」
30代で結婚の機会が訪れたときは、責任を重たく感じて断ったといいます。40代を過ぎるころには、もうすっかり「一人が当たり前」になっていたのでした。生活は常にギリギリ。手元にお金が残ることはありません。そのため、国民年金保険料を1円も払ってきませんでした。
50歳になり入社した建設会社で厚生年金保険への加入が義務になり、勤務していた10年間だけ保険料を支払っていました。受給資格の最低条件である10年をギリギリ満たした程度で、65歳になって受け取ることになった年金は手取りで月額わずか3万円程度。
「飲み仲間にも『さすがに嘘だろ』と突っ込まれたよ。確かに、思ったより少なかったな……。でも、もらえないよりはマシか」
そういって川村さんは、塩昆布を入れただけのほとんど白湯の雑炊をすするのでした。
川村さんの生活費は切り詰めても月に約10万円です。2万円の家賃に、電気・ガス・水道で1万5,000円。食費は質素に抑えても4万円はかかります。年金収入だけではとても足りません。
そのため、現在も週に5日、倉庫の荷物運びやイベント設営のアルバイトを掛け持ちして働いています。時給はどこも1,000円程度で、頑張って支出を抑えても手元に残るのは月に3万円程度。貯金しようにも思うようにはいきません。
そんなある日、仕事中に腰痛で動けなくなってしまいました。幸い大事には至らず、会社が労災を使わせてくれたので、休業補償を受けながら生活することに。しかし、これまでとのギャップに大きな不安を感じます。
「若ければむしろこの状況をラッキーくらいに思っただろうな。働かなくても会社が給料をだしてくれるんだから。でも60代は自分で思っていたよりずっと体にガタがきているし、今後また働けるようになるのか、そもそも働き口があるのか、明日が不安でしょうがないよ」
川村さんは胸中を吐露します。
自由に自分の好きなように生きるという、川村さんのような考え方は決して悪いわけではありません。ただし「好きに生きる」という意味は、自律的に自分の望みを実現するために行動することと、無計画にその日暮らしをしていくことでは、大きく意味が異なります。
自分が望む生活を送るためにはどの程度の収入を得て、どの程度の支出で、どの程度お金を残しておけばよいか、できるだけ早期に計画を立てておく必要があります。若いうちの無計画な生き方は、潰しが効くでしょう。しかし多くの場合は、どこかでお金の悩みを抱えることになるでしょう。やりたいことを実現するためにお金は必要不可欠です。そのために資金計画を考える必要があります。
川村さんのように年金未加入期間が長かったという人は珍しいケースではありません。また、厚生年金に加入せずに国民年金のみ、年金の免除を受けながら生活してきたという人も少なくありません。しかし、そういった人は特に家計管理と将来設計、つまりはライフプランを考えることが重要です。
「ライフプランなんて考えても人生計画どおりにいかない」と考える人も多いでしょうが、それは実際そのとおりです。一方で、「こうなりたい」「こうなるであろう」という先々の見通しを立て、計画を立てて結果予定どおりにいかなかったことと、目の前のことだけを考え、自分が実現したい未来を実現するための努力をせずに上手くいかないこととでは大違いです。計画を立てておけば、軌道修正しながら想い描いた理想像とは違っても納得のいく充足感ある未来を手に入れることができると考えます。
また、60歳を超えても厚生年金に加入しながら働くことができれば厚生年金を受けることができます。また、過去の未納分の国民年金分を「経過的加算」として補填して年金額を増やすことも。さらには、65歳で受け取らずに1ヵ月単位で繰下げをして受け取ることで年金を増額することも可能です。
早く気が付けば対策できる手段は数多くあり、あらゆる戦略を考えることができます。
厚生労働省の令和5年度の報告によると、自営業やフリーランス、フリーター等の国民年金の第一号被保険者となってる人は全国で1,387万人。そのうち79万人は国民年金保険料未納とされています。現在では未納の場合の督促、徴収も厳しくなっており、以前と比べ未納者の割合は少なくなってはいますが、未納のままにしている人も少なからずいる状況です。
また、働き方の多様化から、フリーランスとしての働き方を選ぶ人も増えているようです。内閣官房「フリーランス実態調査」でもその働き方が浸透してきているとされています。
フリーランスの多くの場合では、国民年金の第一号被保険者として厚生年金に加入せず、老後の公的年金も少なくなると予想されています。自分の裁量で仕事ができる働き方は魅力的ではありますが、厚生年金加入期間が短かったりなかったりすることで、リタイア後の年金収入が少なくなることを意識し、準備をしましょう。iDeCoや小規模企業共済等の方法で現役時代の税金をお得に、少額から将来に向けて資産形成を行うこともできます。
好きに生きることを望むのであれば、自分の望む未来予想図を早い段階で思い描き計画を立て、実践しながら解像度をよりクリアにしていきましょう。計画実現に向けて行動することが重要です。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
小川 洋平
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