( 284891 ) 2025/04/22 03:06:34 0 00 日本への移住を希望する中国人の急増に伴い、ビザ取得の手続きを担う各地の行政書士事務所に相談が殺到している。特に増えているのが「経営・管理ビザ」の取得を求める中国人だ。日本で事業を行う外国人経営者向けの在留資格だが、明確な事業計画の目的がなく、移住自体が目的とみられるケースも目立っている。「報酬を支払えばビザを用意する」。中国のSNSでは、こんな誘い文句で移住を持ちかける「移民ブローカー」の存在も見え隠れしている。
中国人夫婦に在留資格について説明をする行政書士の李さん(大阪市中央区で、画像は一部修整しています)=河村道浩撮影
今年2月、大阪市中央区の行政書士法人「大阪国際法務事務所」に、経営・管理ビザを取得したばかりの30歳代の中国人夫婦が訪れていた。2人は大阪で車部品の輸出業を始める予定で、代表の李姫紗さん(33)から助言を受けると、「がんばります」と言って笑顔を見せた。
李さんの事務所では、2年ほど前から、経営・管理ビザを求める中国人からの相談が急増している。スーツケースを持ったまま、旅行中に立ち寄る中国人もいる。月100~150件ある相談の6~7割が、経営・管理ビザの取得を求める中国人だという。
資本金1億円を用意して衛生関係の新商品開発拠点を設立する人や、リチウム電池の研究をする人など、日本でのビジネスを真剣に考えている顧客も多い。
しかし、最近、明確なはっきりした事業計画目的がなく、移住自体が目的とみられるケースが目立っている。
経営・管理ビザは、資本金500万円以上を用意し、事業所などを確保すれば取得できる。中国のSNSでは「簡単に取れる」との投稿があふれ、移住の方法を指南する「マニュアル」も出回っている。
李さんのところにもAI(人工知能)で書いたような日本語が不自然で中身のない事業計画書を持ってきた中国人もいた。
そうした依頼は断っているが、「他の業者は作ってくれるのに」と抗議を受けたこともあるという。
「事業実態がないのに、書類だけ整えて移住を支援する仲介業者や、無資格なのに行政書士として業務をしている人がいるのではないか」
李さんはそんな疑念を持っている。
経営・管理ビザの取得の一般的な流れ
南海難波駅前にある同市浪速区の行政書士法人「クローバー法務事務所」の大山悠太代表(31)の元にも事業目的が曖昧な中国人が訪れている。大山代表もそうした依頼は断っており、受けるのは月30件の相談のうち明確な事業計画がある5~6件ほどだ。
過去には、経営・管理ビザの更新の際、出入国在留管理局から「事業実態がない」と判断され、認められなかった中国人からの相談もあった。この中国人は以前、他の中国人の行政書士に頼んでビザを取得していたという。
各地の行政書士の元に中国人からの移住相談が相次ぐ背景には、長らく続いたゼロコロナ政策への反発、中国の経済状況の悪化などがあるが、経営・管理ビザの要件変更もある。
経営・管理ビザは、2015年4月の改正入管難民法施行まで「投資・経営ビザ」という名前だった。日本の金融機関の口座開設や法人登記など、海外に住む外国人には手続きのハードルが高かった。法改正で、準備期間として4か月間の在留資格が新たに設けられ、法人の定款を作成し、資本金の証明があれば、口座開設や登記などは入国後に行えばよくなった。
その結果、2023年の経営・管理ビザの発給件数は5426件に上り、投資・経営時代の14年(995件)に比べ、5倍以上に増えた。
一方、審査を行う出入国在留管理局の体制は十分とは言えない。審査は原則申請書類に基づき、現地調査まで行われるのはまれだ。
元入管職員の行政書士・木下洋一さん(60)は「通常、書類の体裁が整っていれば審査は通る。経営・管理以外の資格で移住する外国人も急増しており、人員が限られる中、厳格に審査する余裕はないだろう」と話す。
経営・管理ビザを使って移住する中国人は、いずれも日本で事業を行う「社長」だ。しかし、富裕層ばかりではない。
大阪市浪速区の建売住宅が並ぶ住宅街。日本のどこにでも見られる風景だが、表札を見ると「陳」「黄」など中国系の名前が並ぶ。
この地区に住む孫建国さん(32)(男性、仮名)は昨年6月、浙江省から妻と子ども2人と経営・管理ビザで来日し、ネットショップを経営している。自宅は賃貸で、家賃25万円を共同生活する中国人の友人と折半する。
孫さんは「私たちにとって資本金500万円 は決して安くないが、中国の友だちも続々来ています」と話す。
こうした中国人の集住地区は浪速区と西成区で近年目立つようになっている。
福岡県立大の陸麗君准教授(都市社会学)と大阪公立大の水内俊雄客員教授(都市社会地理学)らのグループは2022年12月~2023年2月、両区の中国人が住むとみられる戸建て住宅172戸にアンケートを配布した。34戸から回答があり、世帯収入は35%が500万~800万円で、住宅購入価格は53%が3000万円台だった。
水内客員教授は「中間層の中国人による新しい定住プロセスが出現している」と分析する。
京都府警察本部
「220万円で一家3人の経営・管理ビザと来日後の住居を用意する」
中国のSNS「小紅書(RED)」に「移民セット」と題したこんな書き込みがあった。
書き込みの主は、昨年11月、中国人に経営・管理ビザを不正取得させるため、無資格で会社設立の登記手続きをした疑いで、京都府警に摘発された京都市内の中国人女性(30歳代)だ。
女性はその後、不起訴となって釈放されたが、SNSへの投稿は今も続いている。最近も「民泊の許可がおりた」との書き込みがあった。
この女性の知人男性は、女性について、「移民ブローカー」と証言する。
知人男性によると、女性はSNSで日本への移住を希望する中国人を募り、仲間とペーパー会社を用意。中国人をペーパー会社の代表にしてビザを取得し、報酬を得ていた。
女性らが設立に関わった会社は、同市伏見区内の2階建てアパートに集中していた。近くの住民は「会社の表札はあるが、どの部屋も人の出入りがなく、何をしているのかわからない」と打ち明ける。
知人男性は「会社に実態がないかどうかは、現地を見ればすぐにわかる。経営・管理ビザの審査の甘さが、ブローカーの食い物にされている」と話した。
阪南大の松村嘉久教授(観光地理学)は、「これほど中国人移住者が急増している背景には、ブローカーの存在がいるのだろう。移住方法を指南すること自体は違法ではないが、経営・管理ビザで入国した外国人が資格に合致した活動をしているのかどうか、入管当局は実態を確認する必要がある。架空のペーパー会社を無資格で開設するなど違法行為があれば厳しく取り締まるべきだ」と指摘している。
※この記事は、読売新聞社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。
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