( 285424 )  2025/04/24 02:54:41  
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中国人が日本に移住する理由の1つは、子どもの教育環境が良いためとされている。

中国では受験競争が激しく、将来の不安が広がっており、日本の教育環境の方が競争が少ないという認識がある。

そのため、多くの中国人が日本へ移住し、子どもをインターナショナルスクールや進学塾に通わせている。

移住した中国人たちは中国同士で交流するコミュニティーを築いており、将来は日本で永住を目指す人も多いようだ。

日本でも中国人の生徒が増えている教育機関があり、日本における教育情報交換が盛んに行われている。

ただ、中国人のコミュニティーが閉鎖的になり、日本社会との分断が生じる恐れもあることが指摘されている。

(要約)

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 日本に移住する中国人から、その理由として多く聞かれるのが「子どもの教育」だ。中国では日本以上に受験競争が激化し、多額の教育費をかけて大学を卒業しても就職が難しい現実があり、将来不安が広がっている。親たちは「日本は中国に比べると競争が厳しくない」と口々に話し、各地の進学塾やインターナショナルスクールには中国人の子どもが殺到している。日本人と関わらない中国人同士のコミュニティーも各地で築かれている。 

 

学習する中国人の生徒らを見守るアーガス進学会の本寺塾長(1月、大阪市中央区で)=大塚直樹撮影 

 

 「中国よりもいい環境で教育を受けさせたかった」 

 

 2022年に長男(17)と長女(13)を連れて、経営者向けの「経営・管理ビザ」で大阪市に移住したコンサルタント業・呉丹さん(42)(女性、仮名)は、母国を離れた理由をそう語る。 

 

 呉さんによると、中国では受験競争が日本以上に激しく、小学校に入る前から1日に何時間も勉強する。一方、今年2月時点の16~24歳の失業率(学生を除く)は16・9%。全年代(5・4%)を大きく上回り、名門大学を卒業しても就職が難しいのが現状だという。 

 

 呉さんも、来日前の2年間に1000万円を超える教育費を長男につぎ込んでいた。長男は、世界大会の「国際数学オリンピック(IMO)」にも出場した経験がある。だが、「このまま中国で頑張っても将来どうなるかわからない」と不安を感じ、移住を決めた。 

 

 長男は来日後、大阪の私立高校に合格。今は東大を目指し、週4回塾に通う。 

 

 呉さんは「中国に比べると日本の競争は厳しくない。子どもには日本に根を下ろすため、いい大学に入ってほしい」と願う。 

 

在留中国人数と18歳以下の割合の推移 

 

 呉さんの長男と長女が通う大阪市の個別指導進学塾「アーガス進学会」では、生徒計約100人のうち2割ほどを中国人が占める。 

 

 2009年の設立当初は生徒は日本人だけだった。きっかけは2022年、ある中国人の母親からの問い合わせだった。 

 

 母親は日本の大手進学塾に小学生の子どもを通わせていたが、指導方法に疑問を感じ、塾のホームページを見て相談してきたという。 

 

 入塾を受け入れると、中国のSNS「小紅書(RED)」や口コミで評判が広がった。中国人の子どもの入塾希望が相次ぐようになり、2023年には中国人専用の教室を新設した。 

 

 

 親の多くは、経営者向けの経営・管理ビザを取得して来日した。同ビザは資本金500万円以上を用意し、事業所などを確保すれば取得でき、家族も帯同できる。子どもの教育のために移住してきた中国人も少なくない。 

 

 中国のSNSでは、日本に移住した中国人の親たちの間で、日本の受験や進学塾に関する情報が飛び交っている。アーガス進学会の本寺昭良塾長(68)も、保護者の求めに応じてSNSに投稿される動画に出演し、「東京大に入るには?」といった質問に応じている。 

 

 本寺塾長は「保護者は最近日本に来た方がほとんどだが、教育熱心で、永住を希望している方が多い。将来の日本を支える人材を育てたい」と語った。 

 

 中国人の生徒が増えているのは、この塾だけではない。 

 

 難関中学・高校の高い合格実績で知られる大手進学塾では、東京都内で生徒全体の1~2割を中国人が占める教室があるという。中国人が運営する中国人向けの進学塾も各地に広がっている。 

 

 日本のインターナショナルスクールにも、中国人から熱い視線が注がれている。 

 

 インターナショナルスクール向けの受験指導塾「EGCIS」(東京)ではコロナ禍前の18年頃から中国人の問い合わせが増えた。 

 

 移住が決まっていないのに、中国にいながらオンラインで受講するケースもあるという。多くはその後、経営・管理ビザで来日し、受験する。 

 

 人気の理由は安さだ。斎藤幸代表によると、日本のインターナショナルスクールの多くは、学費が年200万~300万円ほどだが、中国では安いところでもその倍はかかる。欧米でも同様の水準で、斎藤代表は「日本は学費が割安で生活環境もいい。インターを出た後、欧米の大学を目指すケースが多い」と話す。 

 

 東大でも、中国人留学生の存在感が増している。昨年11月時点で3545人に上り、5年前の1・3倍に増加。全学生の約1割を占めている。 

 

中国人が集まって開かれたサロン。中国語の質問が飛び交った(1月、大阪市内で)=原田拓未撮影 

 

 2022年に経営・管理ビザで来日し、大阪市で喫茶店を経営する陳芳玉さん(45)(女性、仮名)も、子どもの教育のために移住を決めた中国人の1人だ。 

 

 長男(9)は公立小学校に通い、日本語も覚え、学校生活にもなじんでいる。 

 

 「放課後に日焼けするまで遊ぶなんて、中国では考えられなかった」と、陳さんは日本の教育環境に満足しているが、自身はまだ日本語が話せない。 

 

 そうした中国人は多く、陳さんは1年ほど前、互いに悩みを打ち明け、助け合うためのサロンを開設した。 

 

 

 サロンは自身の喫茶店で定期的に開催し、1月中旬には大阪市内の病院に勤める中国人看護師(35)に「日本の医療」をテーマに医療保険の種類や受診方法を解説してもらい、約20人が参加した。 

 

 陳さんは中国のSNS「微信(ウィーチャット)」でもグループチャットを開設し、登録している中国人は約500人に及ぶ。チャットでも、教育の話から不動産情報まで様々な情報交換が毎日のように行われている。 

 

 陳さんは「先に来た中国人に助けてもらい、生活できている」とほほえみ、「将来は永住権を取得したい」と話した。 

 

東京大の阿古智子教授 

 

 陳さんのように、日本に移住しながら、日本語ができない中国人は少なくない。しかし、多くから聞かれるのが「日本語ができなくても大丈夫」という言葉だ。各地で中国人同士の独自コミュニティーが築かれ、それはSNS上でも広がっている。 

 

 移住した中国人の多くが、将来の目標として挙げるのが「永住」だ。 

 

 中国人の永住者は2024年6月時点で33万6086人に上り、10年前に比べて約12万人も増えている。 

 

 中国情勢に詳しい東京大の阿古智子教授(現代中国研究)は「今や日本の中に『小さい中国』があると言える。米トランプ政権や欧州が移民の受け入れに厳しい姿勢を示す中、今後さらに中国人の日本への移住志向は強まるだろう」とした上で、こう指摘する。 

 

 「日本社会との関わりが薄い中国人が独自のコミュニティーを形成すると、日本人との間で分断が生じる懸念がある。日本の人口が減少し、労働力不足が深刻化する中、どのように外国人を受け入れていくのか、社会全体で議論する時が来ている」 

 

※この記事は、読売新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

 

 
 

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